表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かまくらいふ!  作者: 岩越透香
そうだ、京都へ行こう

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/84

幕間 祭り

「さて、来週のゲームを決めるお時間です! 先月から『Dice&Play』ではずっと古いゲームをやっているので、そろそろ現行機のゲームがやりたいです」

シンプルな編集がされた動画に出ているのはプロゲーマーのHaruto。「Future Solders」という対戦ゲームのプロである彼だが、動画投稿者としても活動していて、様々な層を視聴者に持つ有名投稿者だ。彼にはあらゆるジャンル・時代のゲームを収集しているゲームオタクな一面もあり、背後にある棚はゲームのパッケージで埋められている。


「さて、初見の方向けにゲーム選びについて説明します。このシリーズでは僕が持っているあらゆるゲームからランダムに遊びます――つまりダイスを使って遊ぶゲームを決定します」

彼は手に持っているサイコロを画面に大きく映し出した。


「ダイスは二回振ります。一回目はゲームの世代――つまり、ゲーム機の種類を決めるものです。そして二回目がどのゲームにするかを決めるものです。二回目用にこんなダイスも用意していますよ」

そう言って彼が手に持ったのは百面ダイス。試しに彼が転がすと八十五が出た。


「詳しい説明は概要欄から! では行きます、一投目! 四五六なら最新ゲームの可能性もありますが……よっしゃ、五! レトロゲーム回避!」

よほどレトロゲームが嫌だったのかガッツポーズで喜ぶHaruto。彼は軽く咳払いをしてから二投目も投げていく。


「二投目は十二番目なので……これですね」

彼が少しだけ嫌そうにしながら取り出したゲームの名は「かまくらいふ online同梱版」。刀を持った武士の後ろ姿が描かれているシンプルなパッケージだ。


「同梱版……。とりあえず、オフライン版をプレイしましょうか。オンライン版はメインストーリー終わっているので。人は……まあいますけど、人気ゲームと比べたら少ないですし。見ていて面白いのはオフライン版のストーリーかな、と……」

彼は言い訳のようにオフライン版を選んだ理由を話した。


「というわけで……次回、第八回のゲームは『かまくらいふ』です! 鎌倉武士となった僕はどのような歴史を作るのか? ぜひ、お楽しみください!」

第七回のDice&Playを見ていた男は高評価とチャンネル登録の催促が始まると動画を止め、今回の動画への感想と次回への期待をコメントする。その男はかまくらいふのプレイヤーであった。彼はまずやっているゲームの名前が出たことに純粋に喜んだが、すぐに悪いことを思いついてしまう。


「来週の動画が投稿されたら、しばらく初心者が増えるだろうな……!」

オフライン版のかまくらいふは残酷描写はあるもののとても評価も高く、実況映えするゲームである。また、Dice&Playの視聴者層の厚さも加味すれば、多くの新規が予想される。Harutoは初心者狩り防止のためオンライン版の混沌とした様子をやんわりと伝えるだろうが、視聴者の多くはFuture Soldersのような対戦ゲームが好きな層だ。逆に興味を持つ者もいるだろう。


「『そろそろ初心者が増えそうだ』っと送信」

彼はよく遊ぶ仲間にURL付きのメッセージを送る。すると彼の仲間たちはすぐに好意的な返事を返す。


「良いね、祭りだ!」

「俺も見たwwwやっぱりそう考えるよなwww」

「決行はいつだ? 無難にリスキルするか、慣れたところで分からせるか……」

この話は掲示板にも広がり、ゲーム全体でのイベントのようになっていった。止める者は一部しかおらず、むしろ「初めてすぐにゲームの雰囲気を味わえて良い」などと言った正当化までなされていた。ここに、オンライン版が良作と言われない理由が詰まっていた。



「ここが鎌倉かあ。Harutoの町とはちょっと違うな」

初期武器の刀を腰に差している少年は辺りを見回し、まるで観光をしているかのように歩き出す。


「うーん。ここは統一感がないっていうか、寂れて――」

少年は独り言の途中で固まってしまう。視線は左上――ゼロになったHPが表示されている辺りを見ている。死人に声なし、このゲームではHPがなくなると声を出せなくなるが、そうでなければ「ありえない」「どうして?」といった類の言葉を言っていただろう。


 彼の上半身が崩れ落ち、それを追いかけるように下半身も地面に倒れた。下手人はDice&Playの視聴者であり、この"祭り"の首謀者であるプレイヤー、ランランルー。卑怯者、辻斬り、一刀両断という三つのスキルと不意打ちのボーナスにより、プレイヤーを真っ二つにする芸当を可能としていた。


「初心者ボックスは開けてないか。シケてるな」

彼は舌打ちをしてドロップアイテムである僅かばかりの金銭すらもその場に残し、その場を去った。


 このゲームは町中でも戦闘可能なため、リスキルを防ぐために復活場所がいくつも存在し、そのどこで復活するかはランダムだ。が、その場所は固定されている。第八回が投稿されるより前にはかまくらいふのプレイヤーたちは殺し殺されその場所を全て割り出していたのだ。


「さっきのはバグかな……? え、また!? PK……!?」

その結果、新しく始めた人たちは等しく訳が分からないまま殺され続けることになった。京都では六波羅探題がいるため比較的マシであったが、ゲーム開始後は開始地点の変更は難しい。そのため京都の存在は鎌倉の初心者プレイヤーの怒りを貯めることになった。その祭りはオンライン版が混沌とし過ぎていると広まるまで、約一週間続いた。



 その祭りでは数多の初心者が辞めてしまったが、一部の猛者は残り、反対に初心者以外を狙う暗殺者のような存在になった。


 また、そうした元初心者たちは彼ら同士で協力し、暴れ回った。途中からそれを面白がったプレイヤーたちは二手に分かれて陣取り戦のようなものを始める。


 誰が命名したのか定かではないが、元初心者率いる「蒼刃(そうじん)隊」、リスキルプレイヤーたちの「紅連(べにれん)隊」と名付けられた二つの集団は徐々に拡大しつつ争いを激化させていったのだった……。


 初心者狩りに始まり、紫戦争と呼ばれる争乱の火種を作ったこの事件は後にHaruto事件と呼ばれることになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ