14 五条大橋③
攻撃が当たれば死ぬ私に対して、当たっても多少は耐えられる弁慶。避けるにしても橋の上では狭くて難しい。はっきり言って私の方が不利だ。考えられる作戦は二つ。一つは相手の失血死を待つ作戦、もう一つは瞬間的な速度で勝っていることを活かして攻め続ける作戦。二つ目は作戦といえるものではないが……やるのは当然二つ目の作戦だ。
また、私たちは同時に駆け出す。静かな橋の上で薙刀がぶつかり合う音だけが響く。積極的に攻めたことで弁慶に負わせる傷は増えたが、私もかすり傷が増えていく。HPは残り半分――限界が来るのはどちらだ?
「うっ!」
「虫でもいたか?」
HPを確認している隙に攻撃が頬を掠める。そしてそれを皮切りに攻防が逆転する。戦いの主導権を握られてしまい、なかなか攻めに転じることができない。
「終わりだな」
橋の端まで追い詰められ、攻撃を避けるために欄干に飛び乗った私を見て弁慶が言った。欄干が広いと言っても、それは欄干の中での話。足一つ分の幅では踏ん張れず、きっと水の中に落ちてしまう。
だから私は伸縮を利用し前へ跳んだ。弁慶が驚いている今がチャンス。欄干から飛び降り急所を狙う。
「これでトドメだ!」
薙刀は弁慶の胸に吸い込まれていき――。
「疲れた……。でも私、結構曲芸できるんだ」
戦闘終了後、私は五条大橋の上で大の字で倒れていた。跳躍での回避を初めて実践で決められて興奮が収まらなかった。Asahiの戦いを見ていてかっこいいと思っていたからできて嬉しかった。
「悔しい、悔しいよぅ……」
私は負けた。普通に負けた。多分、「トドメだ」とか言ったから攻撃に気が付かれたんだと思う。私の攻撃は間一髪で致命傷を避けられてしまった。そして肉を切らせて骨を断つと言わんばかりの攻撃を受けてしまい私は死んでしまったのだ。
「辛いなあ……」
私は強いという自負があった。前回のイベントではかなり高い順位だった。道場通というゲームでは薙刀ルートの先輩兼ライバルの中身も担当していて――他の武術でも同様の反応はあったが――「勝てない、強い」と言われていたからVRでも戦えている自信があった。
「次は……絶対、倒す!」
決意を固め、武器を取るために質屋へと走る。金は奪われず、武器だけだったのは不幸中の幸いだった。




