12 五条大橋①
五条大橋イベントが始まる日になった。イベントへの参加は簡単で、メニューからイベントに参加するボタンを押すか、夜に五条大橋に行くだけ。期間中の夜の京都にはNPCがほとんど居なくなるらしく、かなり雰囲気が変わるようだ。五条大橋に足を踏み入れると弁慶が現れ、専用フィールドで戦うことになるらしい。
このイベントは初勝利で効果ランダムの武器が一つ貰え、その後はベストオブヨシツネになれるような倒し方に挑戦するというイベントのようだ。とりあえず一度勝ったら終わりにしよう。
弁慶に負けるとお気に入りにしたものを含めて武器を奪われてしまう。念の為、伸縮自在は質屋に入れて取れないようにして戦う。私はもう持っていないが、ゲーム開始時に貰った武器は奪われない仕様らしい。業物じゃないからだそうだ。初期武器しか持っていないとセリフが変わるらしいから聞いてみたかったな。
夜の京都はとても静かだ。多くのプレイヤーが鎌倉を拠点にしているのもその一因だ。
イベント前でも、時折見回りの武士や酔っぱらいを見かける程度の静かさだったが、彼らの姿も今はない。代わりに誰かが戦ったような跡が所々に残されている。
今は月明かりを頼りに歩いているが、昨日までは誰かの持つ提灯の灯りと家から漏れ出る蝋燭の灯りが夜の京都をぼんやりと照らしていた。どこか寂しい町を一人歩く。
五条大橋の真ん中に差し掛かった時、呼び止める声が聞こえた。
「待て、そこの女」
振り返ると二メートルは超えていそうな僧兵がいた。名前を呟くと彼は満足そうに頷いた。
「然り。京では名が売れているようだな。今日で千本目の武器を集めることになるのだから当然だな」
「渡しませんよ」
「ならば奪うまで」
私が薙刀を出すと弁慶も構える。そしてまるで合図でもあったかのように同時に動き出す。
足を狙った弁慶の攻撃を飛んで避け、彼の腹に反撃する。しかし鎧のせいで有効な攻撃にならない。隙間を狙って攻撃する必要がありそうだ。
「なかなかの腕前のようだな。しかし力が足りぬ。その程度でこの弁慶を倒せると思っているのか?」
いや、これは鎧のせいだけじゃない。HPが他のNPCよりも多い。オフライン版よりも確実に強くなっている。
「勝って……みせます!」
あの巨体で俊敏なのはずるいと思う。だからまずは小さくても良いからダメージを重ねて動きを鈍くさせる。動きを変えた私を見て弁慶はほんの少し不快そうにした。




