11 準備
京都にやってきた目的である変装装備は顔が隠れれば良いらしい。笠で良かったから、適当な店に入り給金で買う。
試しに着けてみると、視界が隠れることも重さを感じることもない。水たまりに映る自分を見たが、見た目も悪くない。
「だ、誰か!」
着けた状態で町の見回りをしていると、女性が助けを呼ぶ声が聞こえてきた。急いで駆けつけ女性を襲おうとしている暴漢を追い払う。
「ありがとうございます」
どういたしましてと言おうと女性の顔を見て固まった。仕立て屋の子……!?
「え、なんで京都に……?」
「その声は! もう、避けてたのに! か、顔を隠してまで助けに来てくれるなんて……あなた、暇人なの?」
相変わらずだと思ったが、顔がちょっと赤い。もしかして照れてる?
「と、とにかく! ありがとう! もう構わなくても良いわよ!」
彼女は急ぎ足で去っていった。嵐のような出会いだった……。
これ以上彼女に出会ってしまうと仕立て屋イベントが変な方向に進みそうだからこの笠は一旦着けないでおく。あと四回、変装した状態で彼女に会えば仕立て屋イベントクリアらしい。
笠をインベントリにしまった後、今度は五条大橋へ向かう。次のイベントの開催場所の下調べだ。
五条大橋は武器を存分に振るえそうな大きな橋だった。義経の真似をしやすくするためか、欄干はかなり太い。……昼間に立ったら怒られそうだから止めておくか。道は覚えたからもう大丈夫。後は夜の戦闘に慣れるために何か仕事をしておこう。
「ありがとうございます。ん? 暗くてよく見えなかったけどその顔は……!」
夜の仕事を終えた後、ログアウト場所へ帰ろうとしていると連れ込まれそうになっている女性を見つけ助けると、案の定彼女だった。
「ま、まあ、今日は怖かった……じゃなくて! 来なくても一人で解決できていたわ!」
親しくなったのか、それとも夜だからか、彼女はいつもより弱いところを見せてくれた。……いつも強がっているけれど、そうしないといけない理由でもあったのだろうか。
「だから、いえ、それでも礼は言わせてもらうわ。ありがとう」
彼女はそれだけ言って早足で去っていった。夜だからまた同じ状況になりそうで不安だけど、ゲームだから多分きっと大丈夫。さあ私も早く帰ろう。




