9 潜入
門番は御破さんが名前を出して屋敷の主――浦切に用があると伝えると通してくれた。
「私、意外と有名でしてよ。というのは関係なく、入るだけならば身元がしっかりしていれば通してくださいますわ。通せないというのは何か隠したいことがあるという風に捉えられてしまいますから」
警備がザルだなと思いつつそれに感謝して門の中に入る。
しばらく歩くと数人の武士を引き連れた良い服を着た男がこちらへ向かってきた。御破さんは私に「あれが敵のボスですわ」と耳打ちをする。
「まあ! 浦切様ではありませんか! こちらから伺うつもりでしたのに」
「御託はよい。要件を聞こう」
「浦切様はこのような場所にいるべき方ではないと思いますの」
「……ほう?」
二人が悪い顔でひそひそと話した。話が終わると御破さんはにっこりと笑って「仲間に入れてくれるらしいですわ」と言った。
私が道に迷った振りをして屋敷の構造を調べたり、訓練でNPCを倒しまくったりしているうちに二人は必要な情報を手に入れたらしい。一週間ほど経った日に帰還するように書かれた文を受け取った。
「お帰りなさい、夜霧さん」
「ちょうど良かったな」
仕事の前に会議をした場所に戻ると二人が待っていた。御破さんは私がログアウトしている時にすでに帰っていたらしい。
「これ、報告書。触ったら勝手に記入されるから安心してくれ」
すでに多くの書き込みがある紙に触れる。するときらりと光って1枚増えた。
「敵の強さと屋敷の図面か。図面は得点が高いから助かる」
「そういえば夜霧さんを見かけたのは毎回訓練所でしたわ。ずっと戦っていましたの……?」
「人を戦闘狂のように言わないでください! 屋敷の構造も調べてますから!」
「攻め込む気の夜霧は置いておこう。……提出完了。評価はAだな。当然だ」
攻め込む気はないと反論しようとしたが上手く言い返せなかった。評価は確かAが最高だから二人は優秀なのだろう。長い間所属してそうだった。私が居なくても問題は無さそうだったな。
「お疲れ様でしたわ、皆さん。お二人とも、またご一緒したらよろしくお願いします」
御破さんがそう言って退出し、私はおかきさんと二人残される。
彼は「初心者にしては上出来だ」と褒めてくれた。自分が必要出なかったのではないかと思っていたのを見透かされたのだろう。
「六波羅探題の仕事は戦闘のみや潜入のみにも設定できるから、好みがあればやってみると良い」
「そうなんですね、ありがとうございます。……私は戦闘狂ではないですが」
彼は否定の言葉を聞く前に退出してしまった。誤解が広まったような、そうでもないような。
退出前に心の中で言い訳をしながら戦闘のみにチェックを入れた。戦うだけのほうが気楽で良いから……。




