5 初仕事
地図を頼りに謀反を起こそうとしている武士の集会所へ向かう。地図があるから新人にも任せられると判断したのだろうか……。
集会所はごく普通の武士の屋敷だった。息を殺して窓の側に立ち、会話を盗み聞く。
「決行は――」
「――後、――はこれを」
「鎌倉の城の設計図か。――」
城の設計図だけではまだ設計図マニアの可能性が残るか……? 確証を得るために覗き込んだところ、一人の武士と目が合った。
「女武士に見られてる!」
「なにぃ!? 口封じだ!」
見つかってしまえば窓に張り付いていても仕方がない。窓を壊して強引に中に入り名乗る。
「私の名は夜霧! 謀反の計画をしていると聞き押し入った! 観念して縄につけ!」
「貴様、六波羅探題だな! 俺らを嗅ぎつけていたとはな! だが相手は一人、しかも女だ。やっちまえ!」
武士たちは元寇の敵より少し強いが、援護の弓や時間制限、守るものがないため戦いやすい。
数が多いのもあってかなり傷は負っているが、相手からは涼しい顔をしているように見えるのだろう。リーダー格の男は焦り始めていた。
「相手は一人だ、一斉にかかれ! 八方から押し寄せればどんなに強かろうと太刀打ちできまい!」
彼の号令で武士たちがまとまって動くようになった。こうなると一人ずつ倒していくのは困難になるが……好都合。私の足元に転がっている敵を持ち上げて敵のまとまりにぶつける。投げるものが大きかったからか狙い通りに当たり、五人の武士が地面に倒れる。効率は良かったが、二度目は警戒される上に男性武士は重かったから普通に戦うか。
かすり傷だったとしても、塵も積もれば山となるというように、傷から多くの血が流れていて、私には出血の状態異常が付いてしまった。しかしもう関係ない。
「あの数を一人で……!」
「これで、終わり、ですよ! ……覚悟」
リーダー格の男を一振りで殺す。生き残っていた武士たちは睨むと蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
血を吸いまくった服が重い。着替えなんて持っていないからこのまま外に出なくてはならない。憂鬱だ。……と思っていると、急に首元を捕まれ、体が浮き上がる。
私を持ち上げたのは熊と見間違うほど大きい武士。私と同じで六波羅探題所属らしい。プレイヤーではあの体格は不可能だからNPCかな。良かった。このまま一人で外を歩きたくないから。
「何をしていたか、聞かせてもらう!」
同僚は私を助けに来た訳ではなかったらしい。こうして私は不審人物として同僚に連行されてしまった。




