26 町歩き④
仕立て屋の子に4度目の素っ気ない態度を取られたあと、なぜか右手を伸ばしていたモブ太が慌てて手を下ろした。
「姐さんは仕立屋イベント中なんスか? もう終わったものかと」
仕立て屋の解放をしたい理由というよりも、今までやっていなかった理由を聞いているのだと思う。このイベントはかなり有名らしいから。やれていなかったのは単純に知らなかったのと、今までゲーム内で忙しく時間も無かったから。……長くやっていたように感じたけれど、始めてから一ヶ月も経ってない。
「オンライン版は始めたばかりなので」
「始めた、ばかり……? あの順応度で? 嘘でしょ?」
彼は驚いているのか、ロールプレイを忘れている。生粋の鎌倉武士だと勘違いされたくはないため、「オフライン版は結構やりましたよ」と補足した。
「そ、そうっスよね。びっくりしたっス……。たまにいるリアルスキルチート野郎かと……」
「リ、リアルスキルチート? チートを使ったこともありませんし、女性には野郎とは言いませんよ?」
「あ。リアルチートだ、これ。ゲームに疎いのに強いってことはリアルで薙刀使える人だ」
貶されては、いないはず。それなのにちょっと不快で、彼との距離も少し遠くなったように思える。戦闘が始まったときに気を散らされるのは嫌だからこのまま別れよう。
「少し不快なので。死んでください」
「え? なん――ぎゃあああ」
不意打ち気味というのもあって戦闘と呼べないくらい呆気なく片付いた。私もオンライン版の空気に慣れてしまったような気がする。オフライン版なら、NPCは基本復活しないということもあって不意打ちしなかったのに。
さて、気を取り直して仕立屋イベントを進めよう。適応ってきっと良いことだ、うん。
「何度も、どうも。わざわざ助けてくれるなんて……」
五回助けたら文章量が増えた。
「貴女、暇なんですか?」
とはいえ彼女の言葉は刺々しいままだった。むしろ言葉数が増えたことで攻撃性が滲み出ていた。
「それでは失礼します」
戸惑っているうちに彼女は去ってしまった。まだ助ける回数が足りないらしい。
「はー」
思わずため息をつく。人助けって感謝されるためのものではないけれど、こう素っ気なくされると助けたい気持ちが減ってしまう。私の目的は助け続けた先の仕立て屋の解放だから続けるしかないのだが。
調べた限りでは、好きな人はそこそこ居たから、ここから彼女を好きになれるような展開があると祈っておこう。




