24 町歩き②
「普段晴れてるからすぐに止むと思ったんだけどな……」
水が染み込んで重くなる感覚まで再現しなくて良いのにとぼやきつつ大通りに出る。すると「クルトの敵!」と叫びながら何者かが襲いかかってきた。
クルトという名前に聞き覚えはない。日本人らしくはないが……もしかして、先ほどのNPCの名前だろうか。だとすると、目の前にいる男ーープレイヤーが「敵討ち」と言うのはおかしい。そもそも生きたまま帰している。ならばやはりプレイヤーだと思うが……。私は能動的にプレイヤーやNPCを襲わないから、敵討ちなんて言われる筋合いはない。人違いだろうか。
クルトという人と、目の前のアルトさん、そして背後にいるもう一人は初心者なのかもしれない。まだこのゲームに染まっていないのだから。
私は初心者の時にも襲われたし、撃退してきた。自分が襲われたからって初心者を襲う側になることを正当化する訳ではないが、初心者相手でも油断はできないことも事実。
わざと隙を見せて誘うのもありだが、私の目的はあくまで撃退。目の前のアルトさんに集中しよう。それで他のプレイヤーに逃げられても問題はない。まず、一気に距離を詰めて薙刀を振るう。急な変化についていけなかったのか、アルトさんは大した抵抗をせずそのまま斬られた。それに驚いたのか、隠れていた人も出てきたためその人も斬る。そのベルトさんで敵は最後だ。
「待ってくれ、見逃してくれ……!」
「良いですよ。どうぞお逃げください」
勝手に敵だなんて言われて気に食わなかったから少し棘のある言い方になってしまった。
……別に良いよね。彼も意地悪そうな顔をしていたから。
逃げてくれれば無駄な殺生を防げると思ったのに。来ることが分かっている不意打ちは怖くもなんともない。不意打ちを狙うということは、そうでもしなきゃ勝てないと言っているようなもの。そういった意味でも全く怖くなかった。
「はっ馬鹿め!」
彼は私が振り向いた瞬間に再び抜刀した。彼の足音が聞こえる。その動きに合わせて薙刀を振り上げる。
「こんな簡単に……!」
「残念だ」
私の呟きは誰にも聞かれることなく虚空へ消えていった。
「ちっしけてんな」
後ろにいつの間にかいたプレイヤーが呟いた。プレイヤー名はモブ太。小物な悪役のロールプレイが好きらしい。
「へへっ、すぐに回収しないのが悪いっスよ。姐さん」
「誰が姐さんですか、誰が」
「へへっ、姐さんはあの悪逆非道のAsahiを倒したからっス」
「……悪逆非道って言うほどでしょうか?」
「え?」
「え? 何をしたんですか、あの人……」
「チリツモって奴っス」
その後はなぜか着いてくるモブ太と共に町を探索した。




