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婚約破棄の代行はこちらまで 〜店主エレノアは、恋の謎を解き明かす〜  作者: 雨野 雫
case4.聖女様

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case4.エピローグ


 アンナが捕まって一週間ほどが経った頃、店には再びウィリス・ウェストゲートが訪れていた。


 諸々報告したいことがあり、エレノアが呼んだのだ。


「エレノア様。学校での麻薬の件、解決していただき本当にありがとうございました。危うく生徒から親へと広がるところでした」


「いえ、私も仕事の一環でしたので」


 事件が解決した翌日、エレノアは今回の依頼人であるエリザベスにすべての経緯を説明した。


 最初の依頼ではトムとの婚約を解消し慰謝料をもらいたいと言っていた彼女だったが、トムが亡くなったことによりそんな気持ちは消え失せ、この数週間はロイド伯爵家の人々と共に彼の死を悼んでいたようだ。


 エリザベスは事の顛末に驚愕していたが、「真実を明らかにしてくださり、ありがとうございました」と涙ながらに礼を言っていた。これで彼女も少しは前に進めるだろうか。


 アンナが罪を犯したことにより推薦人の責任が問われるかと思ったが、学校側はそのあたりを有耶無耶にした。


 アンナの推薦が匿名で行われたとはいえ、校長すら推薦人を知らないというのはあり得ないだろう。口止めされていると考えるのが無難だ。その推薦人は、余程の権力者なのかもしれない。


「ですが、アレン殿の件は大変でしたね。対応が間に合って良かったです」


 ウィリスにそう言われ、エレノアは一週間前のことを思い返す。


 アンナを自白させたあの日、エレノアはその足でオーウェンズ病院へと向かった。そして、アレンに事情を説明してから病院の隅々を探し回り、違法麻薬グリーンベルが隠されていないか調べたのだ。


 案の定、箱いっぱいのグリーンベルが薬品庫の隅から発見された。もちろん病院の物ではなく、いつの間にか人知れず持ち込まれていたようだ。


 エレノアはすぐにウィリスに連絡を入れ、グリーンベルを処分してもらった。


 病院に警察の捜査が入ったのはその翌日。エレノアが麻薬を見つけていなければ、アレンは確実に逮捕されていただろう。


「その件についてはご協力いただきありがとうございました。アレンは人の恨みを買うような男ではありません。一体誰に狙われているのやら」


 エレノアが溜息混じりにそう言うと、ウィリスは眉根を寄せて軽く頷いた。


「本当に、気味が悪い事件ですね。アレン殿の名前を出した当の本人が亡くなってしまっては、もはや真相を知ることもできません」


 アンナは捕まった翌日、首を吊って獄中死した。ちょうど、オーウェンズ病院の捜査が終わった頃に。

 そして、彼女の両親もまた、自宅で首を吊って亡くなっていたのだ。


 一見いずれも自殺に見えるが、タイミングを考えると何者かによる口封じとも捉えられる。


「仮にジョン・ラッセルが黒幕だった場合、アレンを陥れようとする理由がわかりませんね」


 アレンに尋ねたが、もちろん彼はジョン・ラッセルなんて人物のことは知らなかった。突然事件に巻き込まれ、彼もかなり困惑している様子だった。


 病院の人間の身に危険が及ぶ可能性もあるため、今はミカエルとマリアが護衛としてオーウェンズ病院に滞在している。


 すると、ウィリスが渋面で続けた。


「まだ奴を捕らえられておらず申し訳ありません。エレノア様の情報のおかげで麻薬の売人は捕らえることができたのですが、売人もジョン・ラッセルの居場所は知らされていなかったようです」


「ウィリス様がここまで手こずるとは……ジョン・ラッセルはかなり用心深い男のようですね」


 ウィリスは有能だ。


 紳士的かつ爽やかな見た目に反して、彼の拷問に口を割らなかった人間は誰一人としていないという。だから売人は、本当にジョン・ラッセルの居場所を知らなかったのだろう。


 売人を一人捕らえた事によって、芋づる式に他の売人も数名捕らえられたらしい。だがそれも氷山の一角で、貴族に広がる麻薬を止められないでいるようだ。


「私も少し情報を集めてみようと思います。それなりに顔は広いですから」


「お手を煩わせてしまって申し訳ございません」


「いえ、知人が巻き込まれてしまっているので」


 アレンはエレノアにとって大事な医者だ。彼がいなくなると色々と困る。


「ご協力に感謝します。ですが、くれぐれも無茶はなさいませんよう。オーウェンズ病院には、近々護衛の者を派遣しておきます。ミカエル君とマリア嬢の二人でずっと病院を守るのは大変でしょうから」


「ありがとうございます。助かります」


 そうして必要な情報を交換した後、ウィリスは店を去っていった。

 



 その後しばらくは、誰もいない店でひとり店番をする日々が続いた。


 その合間でジョン・ラッセルの居所を探ってはいたが、目ぼしい情報を得られることはなかった。


 そんなある日。


 店の扉がカランと開いた。


「邪魔するぜ」


 男。二十代半ば。


 ゆるく癖のある、少し長めの黒髪。細い切れ長の目。


 着崩された黒のシャツとスラックス。袖まくりしたシャツからは、入れ墨が彫られた腕が覗いている。



 店を訪れたその人物は、間違いなく以前写真で見た男、ジョン・ラッセル本人だった。


ここまでお読みいただき誠にありがとうございます!


case4からcase6は事件が繋がっていくので、どういう展開になるか予想しながら最後までお楽しみいただけると幸いです。

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