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婚約破棄の代行はこちらまで 〜店主エレノアは、恋の謎を解き明かす〜  作者: 雨野 雫
case4.聖女様

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case4ー7.証拠集め(1)


 翌日の朝刊の一面には、トム・ロイドの死亡に関する記事が掲載されていた。


 記事に書かれていた事件の概要はこうだ。


 昨日の朝六時頃、巡回していた警備員が温室近くの池の脇に、男子生徒の靴と遺書のようなものを発見。すぐさま早朝出勤していた教員に伝えた。


 その教員は現場の状況から生徒が入水自殺した可能性を考え、警察に連絡。その後、六時半頃に警察が現着し、生徒の捜索が開始された。


 泳ぎの得意な警官数名が池に潜り、沈んでいるトム・ロイドを発見。彼の体には、重石がロープでくくりつけてあったそうだ。


 そして記事の最後には、「警察は自殺の可能性が高いと見て捜査を続けている」と記載されていた。




 エレノアは事件の詳細を知るべく、警部のアルデン・バークレーに連絡を取った。しかし彼も流石に今回の事件で忙しいらしく、一週間後の夜には時間が取れるとの返事があった。


 バークレーに会えるまでの間、エレノアはアンナ・スミスと違法麻薬「グリーンベル」について調べることにした。


 まずは、アンナが生徒たちに茶を振る舞っていた温室や、アンナが暮らしている学生寮に忍び込み、グリーンベルが隠されていないか探し回った。


 しかし、調査は不発。


 目ぼしい場所を片っ端から探したが、グリーンベルらしき薬物を発見することはできなかった。並行してアンナの監視も行っていたが、特に怪しい動きもなかった。


 次にエレノアは、アンナの信者のうち、麻薬による症状が最も重そうな一人を、数日に渡って観察することにした。


 トムが亡くなったあの日から、温室でのお茶会が開かれなくなったらしい。観察対象の信者は、放課後になると家に帰り、家族と夕食を食べ、翌朝また学校に向かうという、ごく普通の生活を送っていた。


 その間、特に麻薬を摂取している様子はなかったが、それでもアンナに対する信仰心が削がれる事はなかった。どうやら数日では麻薬の効果が抜けきらないほどにやられているらしい。


 観察を始めて三日後、その信者に動きがあった。


 授業が終わった後、信者は図書室で日が暮れるまで時間を潰してから、街のとある路地裏へと向かった。


 そこでその信者は、売人らしき男から麻薬を購入していたのだ。


 その場で取り押さえるか悩んだが、エレノアはトム殺害事件の解決を優先することにした。売人を捕らえ芋づる式にアンナが警察に捕まった場合、彼女に直接話を聞くのが困難になる。今それは避けたかった。


 結局エレノアは、売人の情報を諸事情とともにウィリスに手紙で伝えるだけに留めたのだった。




 そして、バークレーとの約束の日。彼はちょうど日が暮れた頃にやってきた。


「忙しいところ悪いな、バークレー」


「いや、構わん。お前さんが俺を呼び出したってことは、今回の事件は自殺じゃないんだな?」


「ああ。その可能性が高いんじゃないかと思ってる」


 バークレーは応接室のソファに座ると、早速調査資料の束を渡してきた。


「助かる」


 エレノアは、受け取った資料を黙って読み始める。


 事件の概要は、新聞に書かれていた通り。


 まず警備員が男子生徒の靴と遺書のようなものを発見し、教員に伝え、その教員が警察に連絡。その後、警察が池の中に沈んでいたトム・ロイドを発見した。


 幸い、生徒たちが集まってくる前に遺体を引き上げ麻布で隠せたので、学校関係者の中でトムの遺体を見たのは立ち会った教員と警備員だけのようだ。


 エレノアは、他の部分を注意深く読み込んでいく。


 事件前夜の二十時頃、警備員によるその日最後の巡回があった。その時には池の脇に靴と遺書がなかったことから、トムは遺体発見前夜の二十時から当日の朝六時までの間に池に沈んだと推測される。


 また、トムと共に、彼の通学カバンも池の中から発見されていた。中身は教科書や筆記用具など授業に必要な物に加え、なぜか果物ナイフが一本入っていたという。


 そして、トムの遺体にくくりつけてあった重石は、園芸用のブロック石だった。


 温室の近くには園芸用品が置かれた倉庫があり、そこには土や肥料、ショベルや荷車や植木鉢、園芸用のブロック石やロープまで、ありとあらゆる園芸用品が収納されていたようだ。


 警察の見解によると、頻繁に温室を訪れていたトムはその倉庫のことも知っており、そこでロープとブロック石を調達して自らにくくりつけ、近くの池に飛び込んだのではないか、とのことだった。



 調書には、アンナ・スミスの証言も記載されていた。


 どうやら遺体が発見される前日、最後にトムと会っていたのが彼女だったようだ。


 アンナはいつも通り開かれたお茶会が終わった後、トムから話があると言われ温室に残った。そして二人きりになったところ、彼から告白をされたそうだ。


 しかしアンナは告白を断り、トムを残してその場を立ち去った。その後彼女は、真っ直ぐに学校隣接の学生寮へと戻ったらしい。


 彼女はこれまでにも何度もトムから告白されていたが、その度に断っていたという。これは遺体発見当時に生徒たちが噂していた内容と一致する。


 そして、トムの靴と共に残されていた遺書には、こう書かれていた。


『僕はこんなにも君を想っているのに、どうして君は振り向いてくれないんだろう。もう君に恋するのが苦しい』


 アンナの証言と遺書の内容から、警察は失恋のショックからトムが自殺したと考えているようだ。


 エレノアは遺書が写された証拠写真をじっくりと観察する。


 罫線が引かれているので恐らく便箋だろうが、形がやけに横長なのが気になった。


 なお、筆跡についてはトムの両親が確認し、トム本人のものだと断定されている。


 その後も調査資料に目を滑らせていると、アンナのアリバイに関する記述があった。被害者が最後に会った人物として、警察も一応調べたようだ。


 寮母の証言によると、アンナは事件前日の十八時ごろに帰宅。そして、翌朝は七時五十分ごろに学校へ向かったらしい。

 

 寮は夜の二十時から朝の五時まで正面玄関が締め切られるため、少なくともその間はアンナは寮にいたと考えられている。


(夜中の警備は正面玄関に一人。窓から抜け出そうと思えば抜け出せる、か)


 アリバイの箇所を読み終わったエレノアは、トムの検死結果のページに移った。そこには「溺死」と書かれている。


「解剖はされなかったのか?」


「ああ。遺族の強い希望でな。既に葬儀も終わって、ご遺体はもう土の下だ。外傷はなく争った形跡もなし。現場の状況も加味すると、まあ溺死だろうってことで、警察も特に死因は疑ってねえ」


「そうか」


 エレノアは調査資料をパタンと閉じると、徐ろに立ち上がった。


「バークレー、確かめたいことができた。今からロイド伯爵家へ向かうぞ」


「はあっ!? 今から!?」


「適当に刑事の格好になってくるから、ちょっと待っていてくれ」


「おいおい、本気かよ!? もう夜だぞ!?」


 制止しようとするバークレーを無視し、エレノアはさっさと自室に戻った。そして素早く変装し終えると、渋るバークレーを半ば強引に連れ、トムの実家であるロイド伯爵家へと向かうのだった。


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