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第99話 言葉で伝えるって、大事かも

 フランスは教会の食堂に向かった。


 まだ食事をするには早いが、アミアンがオランジュと出かけているので、食堂の手伝いをすることにした。


 途中でシトーと行き会う。


 シトーが、フランスに向かって見事な二度見をした。


 何も言わないが、フランスの髪を見て、あきらかに『何があったのか』と言うような顔をしている。


 フランスは笑って言った。


「売り時だから切ったのよ。前もあったでしょ」


 シトーがうなずいた。


「似合う?」


 シトーが、すごく、微妙な顔をした。


 そうよね。

 今、とんでもない髪型してるもの。


 フランスは、シトーの微妙な顔をしばらく堪能して笑った。


 それ以降も、会う人会う人が、フランスの髪を見て、驚いたり心配したりする。


 メゾンは見た瞬間、顔を真っ青にした。


「聖女さま、一体だれが、そんな、そんな……、美しかった髪が!」


「メゾン、大丈夫よ。誰かに切られたりしたわけじゃないわ。自分でしたのよ」


 メゾンがさらに顔を青くして叫ぶ。


「自分で⁉ 一体何があったのですか‼ そんな思いつめるようなことが⁉」


「ち、ちがうったら。そんな、気がおかしくなって切ったとかじゃないわよ。売ったの」


 メゾンが、もうだめだ、みたいな顔をして、悲し気な声で言う。


「売った⁉ そんなに教会の運営が苦しかっただなんて‼ わたしはもうしばらく断食します‼」


「メゾン! いいのよ、いっぱい食べなさい。身体大きいんだから! 教会はぎりぎりなんとかなってるから、大丈夫よ」


 まあ、今のところはね。


 メゾンが、フランスの髪を見て、しょんぼりした声で言う。


「ええ、ちがうなら、なんだってまた急に……、きれいだったのに」


 フランスは短くなった毛先を、手でいじりながら言った。


「まあ、気分よ」


「気分……」


「それより、そろそろ厨房の薪が少なくなっているから、取りに行きましょ。ついてきて」


「はい、聖女さま」


 メゾンとふたりで、教会の裏にある薪置き場に行く。


 シトーや、メゾンとカーヴが時間を見つけては、作ってくれている薪だ。たまに大きなお母さんも、斧をふってくれているらしい。


 フランスは、メゾンのとなりを歩きながら訊いた。


「メゾンは、カーヴのことをすこしでも邪魔だなと思ったことはないの?」


 メゾンが、びっくりした様子で答える。


「ええっ‼ ありません! ありません!」


 やっぱり、そうよね。

 そんな風に見えたことなかったもの。


 メゾンは、自信なさそうに言った。


「カーヴのほうが、わたしのことを邪魔だと思っているかもしれません」


 今度は、フランスがびっくりして言った。


「ええっ⁉ なんでよ⁉」


 絶対ちがうと思うけど……。


「カーヴは頭がいいですから、わたしはいつもカーヴに頼りっぱなしなんです。騎士団に入ったのだって、わたしの頭が悪くて、身体を動かすくらいしか取柄がないからです。カーヴは、それに付き合ってくれたんです。きっと、もっと良い道があったのに……」


 ええええ。

 もう、この双子は……。


 なんで、ずっと一緒にいるのに、お互いのこと、何にも分かってないのよ。


「ねえ、あなたたち、もっとよく話し合ったほうがいいと思うわ。カーヴは、あなたのことを邪魔してるだろうから騎士団に戻りたいって言うのよ」


「ええっ⁉ カーヴがいなくなったら、困ります。ひとりじゃ、こわくて……」


 フランスは、ひとつため息をついて言った。


「今夜にでも、話し合ってみてよ。ね?」


「はい、そうします」


 やれやれだわ。


 人って、こんなに近くにいる者同士でも、ちゃんとは分からないのね。


 気をつけよう。

 言葉にして伝えるって、ほんと、大事かもしれないわ。


 あとで、アミアンに大好きって言おう。


 薪を取って、メゾンの腕の上に積んでいると、はばたく音がした。教会の裏に、大きな赤い竜が降り立つところが見えた。


 メゾンが赤い竜の姿を見て言う。


「すっかり、見慣れましたが。やはり、赤い竜のお姿は、ちょっとこわいです」


「竜だものね。よく考えたら、とんでもないもの見ているわよね」


「はい」


 赤い竜が、フランスの姿に気づいて、ちらっとこちらを見た。


 シトーと同じように、見事な二度見をする。


 イギリスが、姿を人に変えて、大股でフランスに向かって歩いてくる。


 フランスはメゾンに言った。


「先に戻ってて」


「はい、聖女さま」


 メゾンは、薪を持って、そそくさと先に食堂へと向かって去っていった。


 入れかわりに、イギリスがすぐ近くまでくる。

 彼は近寄りながら、勢いよく言った。


「髪をどうしたんだ。まさか、何かあったのか」


「ああ、いえ、違います。アミアンに切ってもらったんです。売り時だったので」


 イギリスが、眉間に皺をよせて、不機嫌そうに言う。


「売り時? 売ったのか?」


「あー、まあ、今回は、ちょっと、別の用途で……」


「そんなに、金にこまっていたのか」


 イギリスの真剣な顔になんだか申し訳なくなる。


「お金はないですけど……、大丈夫です。なんとか、なってます」


 今の、ところはね。


 イギリスが、じっとフランスの髪を見つめてから言った。


「だれかのために切ったのか?」


 なぜ、わかるのかしら。


 フランスがうなずくと、イギリスがまた、あの台詞を言う。


「きみは、気にしなさすぎる」


 フランスはちょっと恥ずかしくなって言った。


「みっともないですよね、短すぎて」


 イギリスがさらに眉間に皺をよせて、不機嫌な声で言った。


「きみは、きれいだ。髪が短くても」


 彼は、ちょっと間をおいて、付け足すように「どんな姿でも」と言う。


 なんだか、それだけで、なぐさめられるようだった。

 心が軽くなる。


 なんで、不機嫌な顔で言うのよ。


 フランスは、おかしくなって、笑って言った。


「それなら、いいです。髪が短くても」





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