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第95話 面白くない気持ち

 フランスは、メゾンとカーヴと三人で、教会の中をうろうろした。


 イギリスの天幕のちかくで、アリアンスを見つける。


 イギリスがカリエールを抱き上げて、なにかやわらかな表情で話している。アリアンスがそのとなりに立っていた。


 まあ、美男、美女で並ぶと、とっても絵になるわね。


 なんだか似合いの、家族のようにも見える。


 メゾンが立ち止まった。

 フランスも、なんだかその場に立ち止まってしまう。


 カーヴも一緒に三人で、柱の陰から、アリアンスたちの様子をのぞき見る。


 メゾンがなさけない声で言った。


「あそこに行って、わたすなんて無理です」


「まあ、そうね……。なんだかいい雰囲気だし、声をかけづらいわね」


 フランスの言葉に、メゾンが見るからにショックそうな顔をした。


「いい雰囲気なんでしょうか。やっぱり……、やっぱり……、皇帝陛下はアリアンスを気に入っておられるんでしょうか?」


 フランスは、びっくりして言った。


「えっ? そうなの⁉ そういううわさでもあるの?」


 はじめて聞いたわ。


「はい。皇帝陛下がカリエールを気にかけるのは、アリアンスのことを気に入っておられるからじゃないかと……」


 えっ。

 そうだったの⁉


「そ、そうなのね。いや、でも、それが本当かどうかは分からないわ」


 フランスはそう言って、もう一度、柱のかげからイギリスの様子をのぞいた。


 たしかに、そう言われると、余計にいい雰囲気に見えてきた。


 カリエールとだって、知らない間に打ち解けていたようだし、知らないところでアリアンスとそういう雰囲気になっていても、おかしくはない。


 ……。


 なんだか、なんともいえない気持ちになった。


 これって、どういう気持ちかしら。


 なんだか……、面白くないような気持ち。


 いや、そんなこと思うなんて失礼よ。

 仲良くするのは、良いことじゃない。


 フランスは、よくない考えをふりはらおうと首をふった。


 そのとき、メゾンがひそひそ声で言った。


「あ、アリアンスがこちらに来ます」


「ちょうどいいじゃない。渡すのよ」


 メゾンがうなずいて、意を決したような顔をして出ていく。


 アリアンスが、メゾンに気づいて笑顔を向けた。


 一緒についてきていたカリエールが、メゾンにとびつく。メゾンも嬉しそうにカリエールを抱き上げて、高くに上げるようにして遊ばせた。


 メゾンもカーヴも身体が大きいから、ああいう遊びは大の得意ね。


 カリエールは、メゾンには特によくなついている。


 メゾンも可愛がっているものね。


 フランスはなんだか緊張して、隣にいるカーヴの腕を両手でぎゅっとつかんで、柱のかげから見守った。


 メゾンが、カリエールをおろして頭をなでたあと、アリアンスに向かって言った。


「アリアンス、よかったら、これをもらってくれないかな」


「まあ、なんですか?」


「花の球根だよ。もうすこししてから植えれば、そのうち花を咲かせて売れるようになるから」


 なるほど。


 とくに、何のアピールもせずに渡すつもりね。

 まあ、そうやって側でただ見守るのも、ひとつの愛の形よね。


 と思ったら、メゾンが大きな声で言った。


「とても綺麗な花が咲くから、きみに似合うと思うんだ。とっても。きみに、きみが……、きれいだから」


 メゾンのちょっと震えるような声に、ぎゅっと力の入った様子が、こっちにまではっきりと分かるほどだった。


 こっちまで緊張しちゃう!


 思わずカーヴの腕をぎゅうっとやりすぎて、カーヴが小さく情けない声を出した。


「その、ただ、きみにもらって欲しかっただけなんだ。それ以上は、なにも、ないから。う、受け取ってくれるかな」


 メゾンは、一生懸命な様子でそう言った。


 アリアンスはしばらく驚いたような顔をしていたが、ふんわりと美しい笑顔をみせて、球根の入った袋をそっと受け取った。


 メゾンが、見るからに安心したように肩の力を抜くのが見てとれた。


 え。

 悪くない雰囲気じゃない?


 フランスも、知らぬ間にぎゅっとしていた肩の力をぬいた。


 カリエールが明るい声で言う。


「メゾン様は、母さんのこと、いっつも大好きだね」


 メゾンの耳まで赤くなるのが、柱の陰からでもはっきりと見えた。


 えっ。


 知らなかったけれど、カリエールにもばればれなくらい、メゾンの思いって明け透けだったのね。


 えー。

 ちょっと心配になってきちゃった。


 フランスは、自分がひどくうとい人間なのではないかと、不安になった。


 アリアンスの表情を、よくよく見る。


 メゾンの思いを負担に思ったりしていないかと思ったが、意外と彼女の笑顔にはかげりがない。


 ふうん。


 スタニスラスがアリアンスのもとを去ってからもう、どのくらいになるかしら……。


 もう、二年ほどになるかもしれない。


 これは、もしかして、またしても修道士をなんとかしなくちゃいけない可能性もあるってこと?


 ふと、思った。


 目の前には、メゾンとカリエールとアリアンスが並んでいる。

 こちらはこちらで、なんだかほのぼのとした家族のようにも見える。


 なぜ……、いまは面白くないと思わないのかしら。


 不思議ね。


 さっきのは、あんまり美男美女だったから、羨ましくなっちゃったのかしら。


「なにしてる」


 うしろから急に声をかけられて、フランスとカーヴは二人で叫びながら、柱から飛び出した。


 フランスは、爪がくいこむくらいカーヴの腕をにぎりこんだ。


 カーヴが叫んだ勢いのまま、痛かったのか、さらに情けない声を出す。


 フランスが、声のしたほうを見ると、イギリスが怪訝な顔をして立っていた。なんだか不機嫌な顔をしている。


 なに、その顔。


 カーヴがイギリスの顔を見て、小さくひぃっと喉の奥で言ったあと、泣きだしてしまった。


 あああ。


 すこし離れた場所で、アリアンスとカリエールがぽかんとした顔をしているし、メゾンがおろおろしている。


 ああああ。


 もう。


 ええ。



 フランスは混乱した。





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