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第79話 ふたりで、おひるね

 フランスは、しなしなになったイギリスを天幕に運び込み、ベッドに寝かせてから、一度自分の執務室にもどった。書類仕事を抱えて、ふたたび天幕に戻る。


 天幕のほうが暖かいし、陛下の様子を見ながら、こっちで仕事をやっつけちゃいましょ。


 フランスは、イギリスの天幕の執務机で、もくもくと午前の仕事をやっつけた。


 今日は教会の管理に関する書類が大量にある。


 食材の購入やら、どこぞの修理やら、物品の追加購入やら、所有しているちいさな土地の使用状況やら、確認するものはこまごまとある。


 シトーがほとんど、やっつけてくれているが、最終的な承認はフランスがしなければならない。


 事務的な作業が多すぎるわ。

 やれやれよ。


 まあ、でも、嫌いじゃないのよね。


 しっかりと、自分の教会のことを見られるから、何も手出しできない、ただの象徴的な扱いの聖女よりは、ずっと良い。


 たしか、これも、シャルトル聖下が教皇になってから、変わったわね。


 それまでは、もっと象徴的だった聖女が、司教と同等の権威を持つようになった。


 フランスは、ある程度片付けて、のびをした。


 陛下、しずかね。

 寝ているのかしら。


 フランスはついたての裏にある、ベッドをのぞいた。


 イギリスが、相変わらず丸まって寝込んでいる。


 痛みがおさまって眠れているといいけれど。


 そおっと、のぞきこむと、イギリスと目が合った。


「あら、起きてらっしゃったんですね」


「こんなに痛くて、眠れるのか」


「眠れますよ。なんなら、眠気がすごくないですか?」


「眠い」


「ですよね。大体、ずっと、どんよりとした不調と眠気を抱えることになるんですよ。そして時々、ナイフで刺されたみたいに痛みます」


 イギリスが、不満げな声で言う。


「腰がいたい」


「あ~、それもありますね」


「手足が冷える」


「うんうん、あります、あります」


「肩がこった」


「身体をぎゅっとやるからですね」


「下半身が不愉快」


 フランスは笑った。


「でしょうね。ほんと不愉快ですよね」


 フランスはイギリスの手をにぎってみた。

 まだ、冷えている。


「冷えたままですね」


「どうやったら温まるんだこの身体。こすりあわせても、何にもならない」


 イギリスが、あんまりぶつくさ言うものだから、フランスはまた笑ってしまう。


 かわいそうに。


 仕事もひと段落ついたし、もうすぐお昼だし——、休憩しちゃえ。


 フランスは、イギリスのねむるベッドにこしかけて、靴を脱ぎ、イギリスの隣にもぐりこんだ。


「一度冷えると、とっても温まりにくいんです。温めるには、誰かにくっついてもらうのが一番ですよ。わたしは、ひどいときにはアミアンに一緒に寝てもらうんです」


 向かい合って寝ころび、イギリスの手をにぎにぎする。

 もう片方の手で肩をさすったり、背中や腰に腕をまわしてさする。


 フランスはそのまま、イギリスの尻をさわった。


「何してる」


 イギリスの不満そうな顔。


 フランスは笑いながら言った。


「お尻がひえると、余計につらくなるんです。冷えてますね。向こう向いて下さい」


 イギリスは大人しく言うことをきく。


 フランスは、またその背中にぎゅっとくっついた。


 イギリスの背も尻も、ぴったりとくっつくように抱きこむ。腕をまわして、イギリスの下腹にてのひらをあてる。


 最初は居心地が悪そうにしていたイギリスだったが、そのうち、すやすやと寝息を立てはじめた。


 なんで、ひとって眠ると体温があがるのかしら。


 眠ったイギリスの身体がぽかぽかしてきて、フランスまでなんだか身体の力がぬけてくる。


 入れかわっている時って、眠気とか感じづらいけど、さすがに誰かとひっついてベッドに寝ころんでいると、つられて眠れそう。


 フランスは、そのまま力を抜いて、目をとじた。


 腕の中の、ぽかぽか、すやすや、だけが感じられる。

 そのうち、フランスもゆっくりと意識を手放した。



 フランスは、妙な感覚がした気がして、目を覚ました。



 高級そうな布。

 ふかふかの枕と一緒にある、おおきな腕。

 背中が、あったかい。


 お腹にも、あたたかいものが、ぴったりと添えられていて心地よい。


 あー、下半身は不愉快だけど、いつもより快適。


 まだ、眠い。


 後ろをふりむくと、ちゃんとお互いの姿にもどったイギリスの顔がある。


 あら、寝てる?


 イギリスは、目をつむってじっとしていた。

 じっと見ていると、彼の目があく。


 びっくりした。


「起きたのか」


「ええ、おはようございます。陛下も、お眠りになれました?」


「ああ、すこし眠っていたようだ」


「ふうん」


 フランスは、それを聞いて、一回ベッドの中でのびをやってから——、もう一回目をとじた。


 イギリスが、気をつかってか、そっと言う。


「まだ寝るのか」


「眠いんですよ」


「たしかに、とんでもなく眠かったな」


 イギリスの手は、まだしっかりとフランスの下腹の上に当てられている。


 あー、この手、大きくて暖かいの、いいわ。

 持って帰りたい。


 だめね。


 起き上がらないと。

 一生ここから出られなくなるわ。


 フランスは、一度大きく息をすってから、勢いをつけて起き上がった。


 ため息をつく。


 起き上がると、腰のだるさが倍増する。

 フランスは自分の腰をさすった。


 イギリスがとなりで起き上がって、フランスの腰をさする。


 あたたかい。


 こった肩を、腕をまわしてほぐす。


 イギリスがフランスの肩をもんだ。


 あー、気持ち良すぎるー。


「陛下、それ最高です」


「そうか」


 フランスの口から、あー、とか、うー、とかしまらない声ばっかり出た。



 午後のお仕事がんばろー。




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