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第78話 魔王、女の苦しみを知る

 フランスは、朝、イギリスの天幕のベッドで目覚めた。

 ふかふかのベッドに、快適で健康的なイギリスの身体。


 両手、両足をひろげて、おもいっきり伸びをする。


 あー、入れかわり、最高。

 今日にかぎっては、ほんっとうに嬉しい。


 お腹も痛くないし、腰もだるくないし、全身なんだかどんよりもしないし、原因不明のイライラもないわ。


 あー、月のものが終わるまでは、ずーっと入れかわっていたい。


 フランスは勢いよく起き上がる。


 早く行ってあげないと、苦しみ果てているかもしれないわ。


 フランスは、急いで用意されていた服にさっと着替え、髪をととのえて、ネコの姿になってから天幕を出た。


 自分の私室に向かう。


 扉のまえで、にゃあと何度か鳴く。

 いつもより、時間がかかってから、扉がひらいた。


 すごくつらそうな顔の、聖女の姿をしたイギリスがいた。


 フランスはするりと部屋に入り込み、イギリスがよろよろしながら扉を閉めると同時に、姿を人にもどす。


「陛下、おはようございます」


「ああ……」


 イギリスは、それだけ言うと、ふらふらっとベッドに向かい、そのまま潜り込んで、丸まった。


 かわいそうに。


 フランスは、ベッドに横になるイギリスの隣に腰かける。

 丸まるイギリスの、腰のあたりをなでながら訊いた。


「痛みます?」


 イギリスがうなずく。


「ちょっと、失礼します」


 フランスはかけ布の中に手を突っ込んで、イギリスの身体を触った。


 足が冷えちゃっているし、腰も冷えているわね。

 この部屋、寒いから、こたえるのよね。


 手にも触れると、ずいぶん冷えているようだった。


「陛下、ちょっと壁側によってください」


 イギリスは怪訝な顔をしながらも、素直に移動する。


 フランスは、はいてきた靴を脱いで、となりにもぐりこんだ。

 イギリスが一瞬、ぎょっとした顔をしたが、なにか言うのも億劫なのか、そのままだまっていた。


「陛下、あっち向いて下さい、壁側に」


 イギリスが壁側を向く。


 フランスは後ろから、抱きしめるようにしてぎゅっとくっついた。


 イギリスの冷えた足先に、フランスのあたたかな足をくっつける。冷えた腰と背も、すべてくっつくように、ぴったり身を寄せる。


 手をまわして、イギリスの冷えた両手をつつむようにした。


「わたしの場合はですが、月のものがはじまると、冷えやすくなるうえに、冷えると余計に痛むんです。あったまると、すこし、ましになりますから」


 しばらく、イギリスは耐えるようにぎゅっと身体を縮こめていたが、あったまってくると、身体の力を抜いた。


「ちょっと、ましになりました?」


「ああ」


 朝一番から疲れた様子のイギリスに、フランスは一応言っておく。


「ちなみに、今日はまだましなほうですよ。明日はもっとひどいです」


「……」


 イギリスが、疲れた声で言った。


「いつまで続くんだ……」


「五日ほど」


「……」


 絶望しちゃったかしら。


 急にイギリスが「うぅ」とうなった。ぎゅっと力をこめて、丸まるようにする。


 ああ、痛いやつが来ているわね。

 そうよ、たまに襲ってくるのよ。激痛が。


 フランスは、イギリスの腰をなでた。できるだけ温めるように、手のひらを全部くっつけるみたいにして、さする。


 しばらくすると、イギリスが身体の力を抜いて、しなしなの声で言った。


「これが普通なのか」


「はい。わたしは、まだましな方だと思います。人によっては寝込むほどというのも聞いたことがありますが、私の場合は、まあ、我慢できるくらいです」


「この苦しみがか? 冬の行軍の方がはるかにましだ」


 え、そんなに?


 また、イギリスが身体をぎゅっとやった。


 フランスは抱きしめるみたいにぎゅっと身体をくっつけて、イギリスの腕をなぐさめようとしてさすった。


「もうすこし、暖かくなったらましになるんですけど。この部屋、底冷えしますからね」


 イギリスがしょんぼりした声で言った。


「天幕の方があたたかい」


「天幕のベッドで休まれます?」


 イギリスがうなずく。


 そのほうが暖かいし、いいかもね。


 じゃあ、とフランスはベッドから出て、靴をはき、イギリスに手を差し出した。イギリスも、のろのろと靴をはき、フランスの手につかまって立ち上がる。


 イギリスは扉までの短い距離を、のろのろっと歩いたかと思うと、扉までたどり着けずに、しゃがみ込んだ。


 そ、そんなに?


 いや、そんな、歩けなくなるほどじゃないと思うんだけど……。

 前にも、体調の悪い時に、こんな感じだったわね。


 フランスは、大公国で、イギリスが大げさに寝込んでいたのを思い出した。


 あの時は、大げさにしているのかと思ったけれど、ここまで苦しまれると、なんだか本当に心配になるわ。


 男性のほうが痛みに弱いというやつの影響かしら?

 でも、ここまで?


 フランスはベッドにあるかけ布をとって、イギリスをグルグル巻きにして、横抱きにかかえた。


 あら、重いかと思っていたけど、全然軽いわ。

 余裕ね。


 まだ朝も早いし、誰かに会うといっても、教会の者だけだろうし、大丈夫ね。


 フランスは、聖女の姿をしたイギリスを抱えて、私室から出た。

 イギリスの天幕に向かう途中でアミアンと行きあう。


 アミアンが、ぐったりとしているイギリスを、のぞきこむようにして言った。


「あらら、どうされたんです?」


「月のものよ。陛下があの部屋は寒いから、天幕に戻るって」


「あ~、教会の部屋って、寒いですし、お嬢様は寒いと余計に痛くなるタイプですもんね」


「うん、しかも、今回は相当痛いみたい。立ってしっかりと歩けないほどよ。おそろしいわ」


「おかわいそうに。午前中のお仕事はできないかもしれませんね」


「うーん、そうね」


 アミアンとフランスが話す中、イギリスは一言もはなさず、フランスの腕の中でじっと耐えていた。





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