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第74話 惚れた女性には尽くすタイプ

 フランスは、むすっとして「できる」と言うイギリスに、心配になって聞いた。


「よろしいのですか? ずいぶん、とんでもないうわさになりますよ?」


「それは、お互い様だろう」


「でも、このブールジュの撃退法にのっとるなら、わたしはたんに、陛下にモテるだけなので良いですけれど。陛下は、聖女にはまりにはまって周りが見えていないくらいのうわさになってしまうんですよ?」


「それが、なにか問題か?」


 フランスは思わず、口をぽかんとあけたまま、イギリスを見た。


 あ、だめよ、本当に心配になってきたわ。

 本当に、何も分かってないんじゃないの、このひと。


 フランスは、なんとかなだめようと言う。


「お困りにならないんです?」


「困ることなど、ないだろう」


 ふと考える。


 そういえば、三百年も結婚していないし……。


 本当に、どうでもいいのかしら。


 女性とのうわさが立って困る相手はいないということか、いたとしてもそんなうわさは気にしない相手ということか。


 いや、でも、そういう相手がいないにしても、女に入れ込んであれやこれやするなんて……。


 フランスは確認するように聞いた。


「不名誉なことだと……思われたりしません?」


 イギリスがまっすぐにフランスを見て言った。


「惚れた女性に尽くすことの、なにが不名誉なんだ?」


「あっ……そうです、か」


 なんだか素敵な回答だった。


 しかし思い立って、言い返す。


「いやいや! たしかに、惚れた女性に尽くすのは素敵ですけれど、今回は偽りの相手とのうさわになるんですよ⁉」


「何が言いたい?」


「うわさを聞かれて困る相手は?」


「いない」


 ……。


 ごめんなさい。

 言わせるべきじゃなかったわ。


 フランスは反省した。


 でもでも。


 フランスは、さらに反論する。


「地位的に、こう、威厳をたもつ的な……」


 久しぶりに、尊大な雰囲気でイギリスが言った。


「わたしの地位が、うわさごときでどうにかなるとでも?」


 そっか。


 フランスは肩の力をぬいた。


 じゃあ、いっか。


 えっ、そうなると——、わくわくするわ。


 フランスは、うきうきとした気分で言った。


「え、わたし、はじめてじゃない?」


 アミアンが首をかしげる。


「何がですか?」


「モテるのよ!」


 あ、今、自分で言って、ちょっとダメージが大きかったわ。


 フランスは、こぶしをにぎりしめて言った。


「今まで、教会に無理矢理わたしが男をひっぱりこんだっていううわさだったじゃない。でも、今回は、皇帝陛下がわたしの言うことを受け入れるくらい、わたしに惚れているっていう設定でしょ⁉」


「そうなりますね」


 フランスは、晴れやかな気持ちで言った。


「はじめてモテてる!」


 アミアンが、またまた~、みたいなそぶりをして言った。


「お嬢様は、ずっとアミアンからモテています!」


 フランスは、嬉しすぎて、両手をひろげて言った。


「アミアン~! 好き~!」


「お嬢様~! かわいい! 大好き!」


 ふたりで抱き合う。

 しばらく抱き合って、好き好き言って、ふたりで跳ねる。


 わたしは、アミアンから、モテている!


 じゃあ、もう、十分だわ。


 フランスは、ふと、気になって言った。


「それにしても、首をはねるくらいの印象をつけないといけないってことよね……。けっこう難しいわね」


「そうですね。何か、良い手はあるでしょうか」


 うーん。


 三人で、お互いに目をやりながら、考える。


 アミアンが言った。


「最初から最後まで、全部一緒に踊る」


 それは、アミアンにしか無理よ。

 体力的な死を迎えてしまうわ。


 フランスはおそれるようにして首を横にふった。


 フランスも、考えながら言う。


「陛下が首をはねると言ったのを、わたしが止める。ということもできるけれど……。それだと悪女っぷりが減るし。言った相手によっては、そのあと他から処罰を受ける可能性もあるから、そうしたくはないわね」


 しばらくイギリスが考えるようにして言った。


「わたしが宣言するだけでいいんじゃないか?」


 アミアンが首をかしげて聞く。


「宣言?」


「ああ。聖女への不当な扱いや傷つけるような行為は、すべて帝国の皇帝に同じ行為をしたとみなす。と言えばよい」


 フランスとアミアンの口から「お~!」と声が出ると、イギリスが得意そうな顔をした。


 かわいいわね。


「さすがです陛下!」


 アミアンが勢いよく褒めたので、フランスものっかる。


「さすが~!」


 フランスとアミアンが二人で拍手すると、さらに気分のよさそうな顔をした。


 うん、かわいい。


 フランスは、イギリスのかわいらしい様子を見て、やはり悪いような気がしてきて、言った。


「やっぱり、陛下にとっては、このうわさで受ける利益がないような気がしますけど……」


 イギリスが真剣な顔で言った。


「また蹴られるのは、ごめんだ」


 そっか。

 たしかに。


 アミアンが楽しそうな顔で言う。


「まずは、大きな舞踏会を探さないとですね!」


 イギリスが、机の上の文箱をあけて、中からひとつ取り出す。


「教国に来た日に会った領主からの、舞踏会の招待状がある」


 アミアンが嬉しそうに言う。


「東側で一番大きな領地持ちです! ちょうどいいですね!」


「いいわね。しかも皇帝陛下が行くとなったら、さらに規模を大きくするかもしれないわ。見栄をはるには最高の招待客だもの」


 アミアンが言う。


「あとは、そろいの衣装ですね」


「わたしたちは、そういうお店とかには詳しくはないし。皇帝陛下と一緒に行くのにどういったものがふさわしいかも、よくわからないわ」


 フランスとアミアンがイギリスを見ると、彼はすこし間をおいて言った。


「ダラムだな」






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