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第73話 ブールジュ直伝 超撃退法の正体

 フランスは、堂々と羊皮紙を読み上げたアミアンの姿を見て、不安な気持ちで言った。


「いつの間に……、どうしてそんなもの」


 アミアンが、羊皮紙を大事そうに両手で持って言う。


「実は昨日、ブールジュ様がわざわざわたしのところに来てくださって、『帝国の皇帝陛下が来たことで、なにか困りごとが起きているんじゃないか』って聞いて下さったんです」


「なんで、わたしに直接聞かないのよ、ブールジュったら」


「ブールジュ様は、お嬢様に聞いても、心配かけないように言わないだろうからって、言ってました」


 ブールジュ……。


 友の思いやりに、フランスの心があたたかくなる。


「それで、この前、陛下と入れかわっている時にあった、ご令嬢がたに乱暴されたことを相談したんです。そうしたら、それは、はじまりにすぎないからと言われて。わたしが、どうすれば良いか分からないんですと言ったら、これを伝授してくださったんです」


 そう言って、アミアンが羊皮紙を良く見えるように持ち上げる。


 気持ちは嬉しいけれど、大悪女フランスを仕立て上げるのに、まさか陛下を使うつもり?


 フランスの不安とはうらはらにアミアンが楽しそうな顔で言う。


「さすが、ブールジュ様です。こんなに大悪女になってしまったら、怖くて誰も手が出せないです」


 ほんとに嫌な予感しかしないわ。


 アミアンがイギリスに向かって「聞いてくださいますか?」と言うと、イギリスがうなずいて「聞こう」と言った。


 聞かないほうが良い気がするわよ。


 そう思ったが、フランスは口をはさまないでおいた。

 アミアンが、羊皮紙を読み上げる。


「そこらのバカ女ども超撃退法! ブールジュ直伝! 悪女中の悪女、大悪女さまを見せつけてやれー! 作戦の実行方法。その一」


 フランスはじっとアミアンを見た。

 イギリスも同じようにじっとアミアンを見ている。


 アミアンが堂々と読み上げる。


「ここらで一番どでかい舞踏会の招待状を手に入れる」


 うん、なるほど。


 一番人が集まるのは、舞踏会だもの。そこで、何かさせて、目立たせようということね。


 昼餐会や晩餐会は食事が主な行事だから、悪目立ちしづらいだろうし、茶会は規模が小さくなる。


 アミアンがつづけた。


「その二、ふたりで、そろいの衣装を仕立てる。しかも、びっくりするほどお金がかかっていそうに見えるやつ」


「それは、わたしと陛下が、そろいの衣装で出るということよね?」


「そうです」


 フランスは、思わず言った。


「仕立てるなんて無理よ。貸衣装ね」


 イギリスが鼻でわらう。


「貸衣装? わたしが貸衣装など、着るわけがないだろう」


「でも」


「貸衣装はなしだ」


 そんな高い衣装を仕立てるなんて無理よ。

 え……、また借金?


 フランスは己の懐事情を考えて憂鬱になった。


 イギリスが先をうながす。


「次は、どうするんだ」


 アミアンが、羊皮紙を読み進める。


「その三。ふたりで一緒に、舞踏会の会場にばばーんと登場する」


 フランスと、イギリスがうんうんと頷く。


「その四。フランスがしっちゃかめっちゃかに我がままを言いまくる」


 フランスとイギリスは目を見合わせた。


 不穏になってきたけれど……。

 まあ、大悪女を見せつけるんだしね。そのくらいはするかしら。


 アミアンが続きを読み上げる。


「その五。あか……陛下が、フランスの我がままを全て受け入れる」


 絶対、その羊皮紙、陛下のこと『赤い竜』って書いているでしょ。


 ほんと、気をつけなさいよ、ブールジュ!


 それにしても、そんなこと実践できる?

 陛下よ?


 フランスの不安をよそに、アミアンは読み上げ続ける。


「その六。とんでもない我がままのひとつを聞いてもらえなかったフランスがブチ切れる」


 もう、嫌な予感は飛び越してるわ。


「その七。陛下が、キレッキレのフランスを、どうにかしてなだめようとする。ここで、とんでもなく陛下が、フランスに入れ込んでいることを印象付ける」


 そこまで言って、アミアンが、急に勢いを落とした。

 なんだかおそろしい顔でつづけて言う。



「その八。うっかりフランスのドレスに何かこぼしたやつの首を陛下がはねる」



 ……。



 ……えっ。



 アミアンが真顔のまま、そこまで言って止まった。


 えっ、こわい、こわい、こわい。


 うそよね、アミアン。

 うそでしょ?


 アミアンが真顔のまま言った。


「以上です」


 イヤーッ!


 以上です。じゃないわよ!

 どうなってるの!


 フランスが、口元に手をやっておそれるようにしていると、アミアンがにっこりして言った。


「その八は、そのくらいインパクトのあることをしろって事らしいです。考えつかなかったので、あとは自分で考えろ、とのことでした」


 フランスは脱力した。


 脱力したまま、言う。


「ようは、陛下がとんでもなく聖女に入れ込んでいて、聖女に手出しをしたら大変なことになるってことを印象付けるということよね?」


「そういうことです!」


 フランスは自信満々に言った。


「絶対無理よ」


「お嬢様ができないってことですか?」


「ちがうわよ! わたしは、できるわよ。陛下には、無理だってこと」


「なんだと」


 イギリスが不満そうな顔で、フランスを見た。


 いや、なんだと、じゃないのよ。


 できないでしょうよ。

 そんなうわさが立ったら嫌でしょうに。


 フランスはやれやれと、首を横にふって、アミアンに言った。


「陛下には絶対、無理よ。無理、無理」


 イギリスがむすっとした顔で言う。


「できる」


 いや、できるじゃないのよ。


 ほんとに、わかってる、このひと?





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