表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

72/180

第72話 ブールジュの置き土産

 フランスは、散々だった飛ぶ練習を終えて、またしても、竜にはこばれ、馬車を乗り継ぎ、ぐったりとして教会に戻った。


 迎えに来てくれたアミアンの肩をかりて、執務室にたどりつく。


 フランスがげっそりとして執務室に入ると、すでにイギリスがいて、執務机に向かい、しれっとした顔で仕事をしていた。


 あんなことがあったあとじゃ、真面目に仕事をしている姿を見ただけで、ちょっと笑えるわ。


 フランスは、まだもうちょっとからかえそうで、何か言いたかったが、気持ち悪すぎて、長椅子に横になった。アミアンがてのひらを押してくれる。


 飛ぶ練習をしたいのは山々だけれど、毎回こんなじゃ気が滅入るわね。


 しばらくして、気分がましになり、起き上がると、アミアンがそばをはなれて、イギリスに近づき言った。


「陛下、聞いていただきたいことがあるんです」


 イギリスが顔をあげて、言った。


「なんだ」


「昨日、ブールジュ様から、ひとつ教えていただいた良い方法があるんです」


「良い方法? 何のだ?」


 アミアンが笑顔で言う。


「例の『聖女フランスが、皇帝陛下をたぶらかしたあげく、教会を三つも建てさせて、さらに、自分の教会にひっぱりこんでいる』のうわさを真に受けて、いやがらせをしてくる女性陣の撃退方法です」


 イギリスが、そうか、みたいな顔をしたが、フランスはあわてて立ち上がり、アミアンのほうに近寄って言った。


「ねえ、嫌な予感がするわ。ブールジュの提案でしょ。絶対とんでもない方法よ。それに、一昨日のブールジュとの乱闘で、もうほとんどつっかかってこないでしょ、きっと」


 アミアンが、目を細くして言った。


「昨日も、ありましたよね。嫌がらせ」


 フランスは目を見開いた。


 シトー!


 いつも何も言わないのに、今回は言っちゃったのね!


 アミアンが、ちょっと怖い感じに目を細めて言う。


「シトー助祭が、半年ぶりに口をあけたと思ったら、昨日、町でお嬢様に卵をなげつけるものがあったから、ひとりで外に出すことがないようにと忠告してくださったんです」


 イギリスが眉間にしわを寄せ、フランスを見て言った。


「そんなことがあったのか」


 フランスは、手をひらひらっとやって言った。


「なげつけられたと言っても、シトーがかばってくれたから、わたしには一つも当たってはいません。……シトーは、卵だらけになって、ほんと、かわいそうなことしちゃいましたけど」


 アミアンが、真剣な顔をして言った。


「お嬢様、今回のうわさは、もしかしたら、いつもよりひどいかもしれません」


「そうなの?」


「はい。今までは側においているからとやっかみの種になっていたのは、もと修道士でした。シトー助祭も、スタニスラス助祭も」


 ん?


「まって、シトーの時もそういううわさだったの?」


「そうです。もう、この教会に来た最初の時点で良くないうわさが出回っていました。まだ、こちらに慣れていない時期でしたし、言わなかったんです」


 知らなかった。


「そ、そうだったんだ」


「教会をたよりにする人たちは、人柄を直接見て、理解してくれるので、問題ないかなと思って言わなかったんです。それに、シトー助祭のときは、すぐにうわさは収まりましたし」


「そうなの?」


「シトー助祭は、北方人だからというのもあって、そこまでやっかみは大きくなかったんです。それに、彼自身が、もう、修道士中の修道士みたいな状態で、一言も何も誰にも喋らないし、方々に尽くして仕事をしている姿を見せたからか、すぐにうわさはおさまりました。聖女のさいしょの望みで、修道士を連れ出したっていうことが、悪いうわさに繋がっていただけで、これは、さほど大きなやっかみは受けていません」


 ふうん。


 よく考えれば、シトーも綺麗な顔してるものね。


「あと、スタニスラス助祭のときは、彼がアリアンスとすぐに結婚したので、それもすぐにおさまりました」


「うん、スタニスラスのときは、たしか、そうだったわ」


 あとは、うっすらと独り歩きする、悪女のうわさが残ったのよね。


 アミアンが、眉間に皺をよせて、心配そうな顔をぐっとけわしくさせて言った。


「でも、今回は、修道士じゃなくて帝国の皇帝陛下です。しかも未婚の。しかも! 今までで、一番美男です! とんでもなくお金持ちの! とびっきりの美男! 未婚!」


 たしかに!


 アミアンの、力強い説明に、フランスは、うんうんと頷いた。


 視界の端に、ちょっと得意そうな顔をするイギリスの顔が見えた。


 なるほど、そう言われると、たしかに、ちょっとやそっとのことじゃあきらめないかもね。最高権力者との結婚の可能性がちらついている以上、ご令嬢がたは引かないかもしれないわ。


 アミアンが、こぶしを握り締めて、力強くつづける。


「それに、最近は鍛錬の時に、陛下のお姿を直接に見る機会もあって。よりいっそう、女性陣の、打倒聖女フランス! の勢いが高まっているみたいです」


 打倒聖女フランス……。


 わたしも鍛錬でもしてみようかしら。

 殴り返すくらいは、できないと。


 アミアンの力強い演説はつづく。


「しかもしかもしかも! 打倒聖女の勢いは、どうやら貴族のご令嬢がた以外にも広がっています。奴隷出身のものが側に近寄れるのなら、貴族じゃなくても可能性がある、みたいなうわさまで出回っていて」


 フランスは昨日、卵をなげつけてきた者の姿を思い出した。


 たしかに、貴族のお嬢様じゃなかったわね。


 アミアンが、ひときわ大きな声で、叫ぶように言った。


「そこで!」


 アミアンがポケットから何かを取り出す。

 折りたたまれた羊皮紙のようなものだった。


 アミアンがそれをひろげる。


「忘れちゃいけないので、ブールジュ様に書いていただきました」


 フランスは、急に不安になって聞いた。


「何を?」


 アミアンが胸をはって、ひろげた羊皮紙を読み上げる。


「そこらのバカ女ども超撃退法! ブールジュ直伝! 悪女中の悪女、大悪女さまを見せつけてやれー! です!」



 ……。



 ふ、不安ーっ!





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ