第171話 あなたの側にいると決めたから♡
フランスは、アミアンに、怪我の治療をできるものと、熱さましを用意して欲しいとだけ伝えた。
しばらくすると、アミアンとカーヴが、荷物を運んでくる。
すごい。
アミアンったら、たいして説明しなかったのに、ありったけ持ってきてくれたのね。
熱さましや、痛み止めに効く薬もあるし、清潔な大量の布と、水に、消毒薬もすべて用意されている。
フランスはアミアンとカーヴに言った。
「しばらく、ここにいるから先に部屋に戻っていて。必要になったら呼ぶか、戻るときは護衛騎士をつけてもらうから」
アミアンが、ポケットから何かを取り出して渡してくれる。
「あ、これ、お香ね」
「はい。前に宿屋でもらったやつです。気分転換に使えるかもしれないので」
「ありがとうアミアン」
「では、先に戻っていますね!」
「うん!」
フランスは扉をしっかりと閉めて、シャルトル教皇が横になっているベッドの側にいった。
彼の瞳がわずかにひらく。
「聖下、傷の手当をさせてください」
「いやです」
頑固ね。
「できるだけ見ないようにしますから」
「いやです」
頑固ー‼
ひっぺがしてやろうかしら。
シャルトル教皇が、顔をしかめながら起き上がる。
フランスは、その背を支えた。
シャルトル教皇が、一度息をついてから言う。
「自分でします」
「あ……、じゃあ、わたしは」
聖下の裸見たかった。
じゃない。
「わたしは、目をつむっています!」
シャルトル教皇が、一瞬不安そうな顔をしたのが見えたが、フランスはかまわず、その場でぎゅっと目をつむった。
しばらくすると、布がこすれる音。
聖下が、服を脱いでいる音。
見たい。
やだぁ。
すっごく、興奮する。
「フランス、目を閉じたまま、すこし手をかしてもらえますか?」
「はい、聖下」
手に触れられる。
そのまま手を引かれて、手の先が何かにあたった。
多分、肩の部分?
「当て布をおさえていてください」
「はい」
聖下の腕が動く。当て布が動かないように布をまいているのだろう。彼が動くたびに、フランスの当て布からはみでた親指が、直接、彼の肌に触れる。
あたたかで、なめらかな感触。
うわああああ!
生肌あああ!
いやああ!
フランスは思わず、親指でちょっとなでた。
「フランス、くすぐったいです」
「すみません、つい」
「つい?」
聖下が、くすっと笑った振動が、直接指につたわる。
主よ、ここに楽園があります。
アーメン。
「もう手をはなしても大丈夫ですよ。目はつむっていてくださいね」
「……はい」
ああ、目をあけたい。
聖下の生肌見たい。
見たい。
見たい。
見たいいい!
フランスは、必死に我慢して、目をつむっていた。
しばらく衣擦れの音がつづいて、シャルトル教皇が言った。
「もう、目をあけても大丈夫ですよ」
フランスが目をあけると、すっかり生肌はかくされていた。
残念。
フランスは、熱さましの薬湯を持ってきて、聖下にわたそうと差し出した。
シャルトル教皇が、器の中身をのぞきこんでから、すこし首をかしげるようにして、愛らしく言った。
「飲ませてください」
おまかせくださーーーーい‼
フランスは、ベッドのはしにすわり、ひとさじずつ、シャルトル教皇の口もとに熱さましの薬湯を運んだ。
彼の美しい唇がひらかれると、そのむこうに、白い歯と、赤い舌がちらりとのぞく。
フランスは、滅多に見ることのない、その怪しげな魅力のある部分を、ちょっとでも見逃さないように、目を見開き真剣に見つめながら、熱さましを運び続けた。
「そんなに見られると、恥ずかしいのですが」
「恥ずかしくありません!」
フランスが力強くそう言うと、シャルトル教皇が、ちょっと困ったような顔をして言った。
「あとは、自分で飲みます」
「あ!」
フランスの手から、さっと薬湯の器がうばわれる。
いいわ。
作業がなければ、さらに、よく見られるものね。
シャルトル教皇が、フランスの視線に気づいてか、ちょっと顔をそむけるようにした。
あ!
見えない!
フランスは、身体を前にのめり出して、必死に言った。
「聖下、いじわるしないでください。こっち向いてください」
すると、シャルトル教皇が、吹き出して笑いながら言った。
「何がしたいんですか、あなたは」
「ちょっと、口の中が見たいだけです」
「……変ですよ。そんなの見て、どうするんです」
興奮するんです。
フランスは、真剣に答えた。
「記憶にやきつけます」
「こわいです」
シャルトル教皇は、さっと薬湯を飲んで、さっとベッドに横になった。
そんなに、こわがらなくても。
見ているだけなのに。
でも、こわがっている聖下も、いい。
かわいい。
大好き。
大好き。
大好き。
シャルトル教皇が、ベッドからフランスを見上げて、控えめな様子で言った。
「断ってくださっても、かまいません」
「はい」
「助祭が戻るまで、ここに……、側にいてくださいませんか?」
「はい、側にいます聖下」
シャルトル教皇が、安心したように微笑む。
フランスは、時おり、シャルトル教皇の額にのせた、濡らした布をとりかえながら、彼とおしゃべりをした。
りんごちゃんや、こりんごちゃんの話。
孤児院の子供たちの話。
さらには、ガルタンプ大司教のあごの肉がちょっとずつ成長している話で、盛り上がったりした。
すっかり暗くなったころ、助祭が戻ってきたときには、ふたりともベッドで眠りこけていた。
フランスが妙に真剣な顔で寝顔をのぞきこんでくるのがおそろしいと言う、シャルトル教皇の願いでフランスも横になったら、あっという間に一緒に寝てしまっていた。
部屋には、甘い香のかおりが満ちていた。




