表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/180

第17話 魔王さま、がんばりましょうね

 フランスは、何度か目を瞬いた。


 あれ、天井?


「陛下の~気持ち悪いのは~消っえますよ~」


 アミアンが横になっているフランスのとなりで歌いながら、フランスのてのひらを、もんでいた。


「なにやってるのよ、アミアン」


「えっ! あ、もうお昼⁉ お嬢様ですか?」


「そうよ」


 フランスは起き上がった。

 揺れている。

 馬車の中だった。


 アミアンは座席の下に座り込んでいる。


 あ、ちょっと気持ち悪いわね。


 イギリス陛下の身体はなんともなかったから、すっかり油断してたわ。馬車苦手なのよね。それで、アミアンが、ましになるように手をもんでくれていたのね。


「起き上がって大丈夫ですか、お嬢様、今日は馬車酔いがずいぶん酷いみたいでしたから」


「うーん、いつもどおりね。気持ち悪いけど、横になるほどじゃないわよ。え、イギリス陛下、馬車酔いでしんどくて横になってたの?」


「はい。もう、この世の終わりみたいに苦しまれて。あまりにもおかわいそうでした」


 この前の熱のときといい、えらく弱いわね。


「にしても、アミアン、あのとんでもない調印式の朝のことに怯えてたけど、大丈夫だったみたいね」


「はい」


「大丈夫だったどころか、ずいぶん、距離がちかくない?」


「まあ、最初があれでしたし」


 まあ、そうだけど。

 そんな、隣で歌って、手をもみもみするほど、近づける?


 さすが、アミアンだわ。


「よかったわね、ひどくされなくて」


「陛下、とってもお優しかったですよ」


「えっ」


 想像がつかない。


「わたしがお嬢様以外の方にお仕えしたことなくて、無礼ばっかり働いてしまうかもしれません、と言ったら、そのままでいいと言ってくださいました」


「ええっ」


「だから普段通りにしてます」


「えぇぇ」


 すごい。

 さすがの、アミアンすぎるわ。


 そのままでいいと言われても、普通は恐縮しそうなのに。本気で、そのまま、普段通りにしているのね。


 フランスは、いまいち信じきれなくて、聞いた。


「嫌味とか皮肉とか言われなかったの?」


「え、そんなこと、言われませんでしたよ?」


 よっぽど、アミアンのこと気に入ったのかしら。


 まあ、アミアン、可愛いものね。

 わかるわ。


「お嬢様は、大丈夫でしたか?」


「ええ、あちらも馬車で帝国にむけて出発したところよ。ダラム卿がずっと側にいてくれて、助かったわ」


「陛下が、こちらの馬車は粗末すぎるって悲しんでました」


「失礼ね。そりゃ、そうでしょうよ。あっちの馬車はすさまじかったわよ」


「え!どんな馬車なんです⁉」


 アミアンがわくわくした顔で聞く。


「大きくて、ふかふかで、揺れが少ないわ」


 しかも、芸術品と言ってもおかしくないほど、美しい装飾のほどこされた高級な馬車だった。


「え~、うらやましいですね」


「しかも、中で立てるくらい広いのよ。手足伸ばし放題!」


「うわ~、それじゃこっちは牢獄みたいですね」


「やめてよ、萎えるから」


 ふたりで笑う。


「ね、おなかすいた。ヌガー食べましょ」


 フランスがそう言うと、アミアンがにっこり答える。


「わたし、自分の分、もう食べちゃいました」


「えっ、いつのまに!」


「さっき陛下と半分こしたんです」


「どれだけ打ち解けてるのよ。じゃあ、わたしの分、まだまだあるし一緒に食べましょ」


「はい、お嬢さま」




     *




 次の日、アミアンは夜明け前に目覚めた。


 馬車の小さな席に、無理矢理おさまって寝たから、体が固まっている。せまい馬車の中で、ちじこまったままなんとか背中だけでものばす。


 うーん、一日中馬車に揺られて、寝るのも馬車の中だと、なかなか窮屈。


 かけ布をたたんでいると、向かいの席で、フランスの身体が動いた。


 アミアンは、ひそひそと小さな声で言った。


「陛下、おはようございます」


 フランスの身体で、イギリスがつかのまぼんやりとしたあと、アミアンに合わせて小さな声で言った。


「馬車に泊まったのか」


「はい、そうなんです。宿代をケチりました。まだ、上で御者が寝ていると思います」


「上で?」


「はい、馬車はわたしとお嬢様でいっぱいなので、上に簡易テントはって寝てます。近くに川があるので、散歩がてら顔を洗いに行きませんか?」


 イギリスがうなずく。


 アミアンはイギリスの身体にかかっているかけ布をとって、たたんだ。御者を起こさないよう、そっと外に出る。


 馬車からはなれるとイギリスが言った。


「身体がいたい」


「あらら、せまかったですからね。さすってさしあげます」


 アミアンはイギリスの背中をさすったり、腕をもんだりした。


 たまに、見つけたそこらの草をひっこぬいてポケットに入れる。


 イギリスがそれを見て言った。


「何をしている」


「あ、これは、良い香りのする草ですよ。べつに薬草でもないので、雑草なんですけど。こうやって、もみもみすると、さわやかな香りがするんです。馬車酔いしたときに、かぐとすこし気分がましになったりするんですよ」


「そうか」


「今日は馬車酔い、ましだといいですねえ」


「そうだな」


 小川の手前に、小さな地面のさけめがある。


 お嬢様の身体だと、ちょっとぎりぎり跳べるかどうかかもしれない。

 アミアンは大股でまたいで、イギリスに手を差し出した。


 イギリスはその手をつかまず、跳び越えようとして、跳び足りずにべしゃっとこけた。


「あ~、お嬢様の身体って、けっこうどんくさいんですよね。大丈夫ですか、陛下」


 アミアンはイギリスの手をとって助け起こす。


 イギリスが不満そうな顔で、地について泥で汚れた両手を見て言った。


「いたい」


 あらら、かわいそうに。


 アミアンは、イギリスの手に付いた泥を、そっとはらう。

 ちょっとてのひらが赤くなってしまっていた。


 アミアンはこけないようにと、イギリスの手をにぎって引いた。イギリスは大人しくついてくる。


「昨日けっこう遅くまで馬車走らせましたから、今日は午前中には教会につけると思いますよ。頑張りましょうね、陛下」


 イギリスはこくりと頷いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
アミアンが良い子だった・w・ イギリスもアミアンの前では良い子?w?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ