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第168話 魔王の良いうわさ広めてみる

 フランスは主賓席での昼餐会を、ブールジュとダラム卿にはさまれるかたちで、過ごした。


 ブールジュとひそひそ話していると、まわりの人間は邪魔してこないようだった。

 西方大領主からすれば、帝国の皇帝と自分の娘がうまいこと仲良くやっているのは、都合がいいのだろう。


 フランスは、ブールジュと話しながら、ちらちらとシャルトル教皇の様子をうかがった。


 まったく怪我をしていることなど感じさせない。


 ほんとに、怪我なんて、なくなっていると思いたいけれど、そんなわけないものね。


 心配だわ。

 無理していないといいけれど。


 シャルトル教皇が、怪我をしているはずの手でグラスを持って、談笑している。


 無理してそう……。


 そうこうしているうちに、正午になった。

 目の前があやしく溶ける。


 何度かまばたきをすると、目の前に、ずらりとならぶ聖女たちの姿があった。


 全員集合ね。

 あの、はしに座っている見慣れない子が、見習いの子ね。


 にしても、その表情はなに。


 聖女見習いの、まだ女の子、と表現してもいい愛らしい子が、わくわくしていそうな、うっとりしていそうな顔で、フランスのほうを見つめていた。


 それだけじゃなかった。

 まわりの聖女が、みな、同じような顔でこちらを見ている。


 一度、フランスのところに、難癖をつけにきたガルタンプ大司教の遠縁の聖女もいるが、彼女も同じようにわくわくした顔で、こちらを見ている。


 なに、これ。

 何の話してたの……?


 フランスが様子をうかがっていると、聖女見習いちゃんが、興奮気味の声で言った。


「それで、それで! 皇帝陛下は、普段どのようにして祈りを捧げていらっしゃるんですか?」


「あー……」


 え?


 イギリスの話をしてたの?

 自分で?


 フランスが戸惑っていると、目の前に座っている年配の聖女が、にっこりと言った。


「そんなに急かしては、かわいそうですよ。聖女フランスが、食事もろくに食べられないですわ。さ、お食べになって」


 ありがたい。

 そう思いつつ、自分の皿を見ておどろく。


 これは…!


 イギリスったら、出てきた料理、全部半分残してくれてる!


 フランスは、主賓席に目をやった。遠目に見える彼の後姿。どうやら、ブールジュと話しているようだった。


 優しい。

 おいしい食事、残しておいてくれたのね。

 ありがとう、イギリス。


 これは、一生感謝ものよ。

 美味しい食事とお金は、何よりも大切だもの。


 フランスは、しっかりと味わって、昼餐会の料理を食べた。


 その間も、まわりの聖女たちは、きゃあきゃあとイギリスについて話したり、ちらっと主賓席に目をやったりしている。


 どうやら、彼女たちの話を追うと、こういう内容のようだった。



 イギリス皇帝陛下は、実に紳士的で、優しく、友愛の心にあふれ、聖女フランスを先生と呼ぶほど慎ましやかな性格で、舞踏会ではすばらしくロマンチックなエスコートと踊りを披露し、教養もあり、剣術にも長け、誠実で、お洒落な会話もできる、しかもとんでもなく美男で、比類なき権力と富を持つ。


 最高の男。



 ……ほう。


 ほうほう。


 うそでしょ。

 イギリス、自分で、自分のこと、ここまでよく言えたわね。


 また、ふざけているんだわ。


 フランスはイギリスのいつもの無表情を思い出した。

 あの、無表情な顔のまま、ふざけたことをするイギリスを。


 主賓席のイギリスが、ちらりとこちらを振り向いた。


 聖女たちが、きゃーっとやる。


 フランスは、じとっと睨み返しておいた。

 イギリスが、鼻で笑ったように見えた。


 なんなの。


 ほんと。

 変な人。


 とどこおりなく昼餐会は進み、美味しい食事はあっという間に終わった。


 フランスが席をたつと、向こうからイギリスがやってくる。まわりの聖女たちが、きゃーっとやる。


 イギリスは、フランスの目の前まで来ると、舞踏会でやっていた、あのわざとらしく優しい微笑で言った。


「先生、同じ席でなくて寂しかったです。ぜひ、部屋まで送らせてください」


 まわりの聖女たちが、さらにきゃーっとやる。


 これ、絶対、楽しんでるでしょ。

 最高の男のふりを。


 フランスは、何か言ってやろうかとも思ったが、最高の男にエスコートされるのも、先生と呼ばれるのも悪い気はしないので、気分よくイギリスの腕に手をやって、他の聖女たちに挨拶をした。


「それでは、皆さん、わたくしはこれで失礼いたします」


 イギリスと出口に向かう間中、うしろから聖女たちのきゃーきゃーやる声が聞こえていた。


 フランスはイギリスにだけ聞こえる声で言った。


「よく自分のこと、あんなに褒められたわね」


「本当のことだろ」


 フランスが舌をだして「うえぇ」とやると、イギリスが憤慨したように「失礼女」と言った。


 フランスは笑って言った。


「うそよ。あなたって、ほんと、最高の男だものね」


 イギリスが、ふんとやって、得意そうな顔をした。


 ふたりで、どの料理が美味しかっただのと話していると、会場を出た先で、声をかけられる。


 うしろから、聞きなれた声。



「イギリス皇帝陛下、お待ちください」



 振り向くと、シャルトル教皇がそこにいた。





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