第166話 魔王はモノマネもできる
フランスが、もうどうしようもない、お股のポジションの悪さに集中力をけずられる中、式典はとどこおりなく進んだ。
式典の会場と、参加している人間は派手だけれど、式典なんてほんと地味なもんよね。
今すぐ、お股のあの子を正常な位置にもどしたい。
シャルトル教皇が、ひざまずくブールジュの頭に手を置き、祈りをささげる。祈りが終わると、教皇から、祝福のキスが与えられる。
フランスは、そわそわした。
嫌そうな顔とかしないでよ。
ブールジュ、頼むから。
フランスの心配をよそに、ブールジュはしっかりとよそゆきの顔で、式典をとどこおりなく進めていた。
良かった。
今すぐズボンのポケットに手をつっこんで、そのままお股のあの子を完全なる位置に戻したい。
そんなことしたら、ばれるからしないけど。
フランスはシャルトル教皇の様子を注意深く見たが、彼は肩をかばうような動きを全く見せなかった。顔をしかめることもない。
絶対に、昨日のあの様子じゃまだ痛むだろうに。
はあ、お股が気になる。
男の身体め‼
これは不便よ‼
変なものが飛び出しているから、こんなことになるのよ‼
ダラム卿がとなりで祝いの言葉をのべる間も、フランスの心はずっとお股とともにあった。
とりあえず、無表情な顔だけ、しっかりとイギリスらしくしておく。
頭の中身が、お股のことでいっぱいだろうと、表情だけならなんとかなる。
お股で頭がいっぱいのまま、なんとか、式典が終わる。
フランスは、ほっと息をついて、イギリスのほうを見た。
集まっていた聖女たちも、それぞれに解散しようとしている。そこに、近づくものがあった。
あ、ガルタンプ大司教。
そう、彼も来ていたのね。
ガルタンプ大司教が、まっすぐにイギリスに向かっていく。
まずい。
まずい、気がする!
フランスは、急いでイギリスのもとに向かった。
フランスが近づくよりも先に、ガルタンプ大司教がイギリスに近づいて、いつも通りの嫌味な声で言った。
「聖女フランス、まさか、あなたがそのように栄誉なストラを授かっていたとは、驚きですな。しかも、教区長への報告もなしとは。やれやれ」
すると、イギリスが、フランスがよくやりそうな、よそゆきの笑顔で言った。
「ええ、わたくしも驚きですわ。聖下の指示は、わたくしには、考えも及ばないものばかりです。まさか、教区長様への通達もなかったとは、何か事情でもおありなのでしょうか」
えっ。
す、すごい。
いい感じに、聖下に全責任を押し付けた上に、喋り方が、すごすぎる!
完全に聖女フランスっぽい!
そんなことできたの⁉
フランスが、あまりの衝撃にお股のことも忘れて、様子を伺っていると、ガルタンプ大司教が、さらに嫌味な口調を強めて言った。
「ふん。東側の教会の一員であることも、自覚できないとは。生まれの、しっかりとしないものは、困る」
イギリスが不愉快な顔をして、何か言い返そうと口をひらいたところで、フランスは間に割って入った。
ガルタンプ大司教が、突然あらわれた皇帝の姿に、目をまるくする。
フランスは、尊大な態度で言った。
「いま、何か、不愉快な言葉が聞こえた気がした。ここは、神聖な聖堂のはずだ。もちろん、聞き間違いだろうな」
「イギリス皇帝陛下」
ガルタンプ大司教は、それだけ言って、身を低くした。
したたかね。
何も言わずに、うやむやにするつもりね。
まあ、いいわ。
「わたしは、聖女フランスに話がある。席をはずせ」
「はい。失礼いたします」
ガルタンプ大司教は、おそれるように身を低くしたまま、去っていった。
やれやれ。
フランスは、イギリスの耳元でこっそり言った。
「このまま、一緒に部屋に戻りましょ」
「うん」
フランスが腕を差し出すと、イギリスがそこに手を置く。
今日はフランスがエスコートする側だ。
なんだか不思議。
*
大聖堂から移動して城の部屋に戻ると、カーヴが護衛のために扉の前に立った。
アミアンとイギリスだけが先に入り、急いでイギリスが昼餐会用の衣装に着替える。
着替え終わったところで、フランスとダラム卿が部屋に入ると、げっそりした顔のイギリスがいた。
あら。
「あ、もしかして、コルセットのせいで、その感じになってるの?」
「なんで、こんなもの、つけるんだ……」
イギリスが完全にしょんぼりした声で言った。かなり弱弱しい様子で。
アミアンが苦笑しながら言った。
「今日は、かなり緩めにしたんですが。それでも、おつらいようで」
まあ、はじめてのコルセットだものね。
かわいそうに。
「それに、歩きにくい」
イギリスが、弱弱しく文句を言う。
ヒールつきのドレス用のくつだものね。
「苦しい。足が痛い」
イギリスの文句が止まらない。
やれやれ……、式典より昼餐会の方が不安ね。
あ、待って。
思い出しちゃった!
こっちのお股もまだ問題なのよ!
思い出した途端に、また、フランスは、お股のことしか考えられなくなった。
男の身体、やっかいすぎるわ‼




