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第165話 集中できない就任式典

 フランスは、豪華な天蓋付きのふかふかのベッドで目が覚めた。

 魔王イギリスの姿で、起き上がって、のびをする。


 イギリス、大丈夫かしら……。


 結局、昨日は、部屋に戻ったあと、全然寝付けなかった。聖下のことが心配すぎて。


 寝不足のままフランスのかわりに式典参加するイギリスも心配だし、怪我をしている聖下のことも心配。


 フランスは、大きくため息をついた。


 不安だわ……。


 フランスは、ベッドから出て、テラスに出た。

 フランスの部屋のテラスよりも立派に大きい。立派に素敵なテーブルとイスもある。


 フランスは、イスに座って、景色を眺めた。

 何事もなさそうな、しずかな夜明けの空。


 でも、水面下では、何かが動いている。


 フランスは、昨日のシャルトル教皇の部屋でのことを思い返した。



 なんだか奇妙だった。



 部屋にふたり倒れていた、身体のおおきな騎士。西方大領主の紋章をつけていた。


 あれが、西方大領主配下の者のはずはないわ。

 今回の式典で、シャルトル教皇と西方大領主は明らかな協力関係にある。


 何者かが、関係を壊すために送り込んだものかしら。


 だから、聖下も、秘密裏に死体を処理するよう言った……。


 でも……。

 あの、体格の良さそうな騎士ふたりを倒したのは、聖下ひとりで?


 まわりに他の騎士の姿はなかったし、フランスを呼びに来た助祭だけが、あの場にいた。


 もし、聖下と助祭のふたりが部屋にいたところを襲われたとしたら、助祭が無事で聖下だけが傷を負うかしら。


 妙だわ。


 あの助祭なら、聖下の前に飛び込んででも守りそうに思える。

 もしや、聖下はひとりで部屋にいたところを襲われたのだろうか。


 あの、ふたりの騎士……。


 うつぶせに倒れていたから、しっかりとは分からなかったけれど、まわりに血が飛んでいるような様子もなかった。


 シャルトル教皇ひとりで、傷を負いながらも、ふたりの騎士を打ち倒したんだろうか。


 どうやって。

 想像つかないけど……。


 そこまで、考えたところで、部屋の扉をたたく音がした。


 ダラム卿が使用人たちをつれて、やってきた。フランスは、あわただしく、式典に参加するための身支度がはじまり、それ以上昨日のことについて考えることはできなかった。


 身支度が終わると、ダラム卿が使用人たちを下がらせ言った。


「フランス、今日は陛下も式典に参加されます。が、今回はすべてわたしが、やりとりいたしますので、ご安心ください。フランスは、わたしのとなりで、陛下っぽく立っていてくださるだけで、問題ありません」


「まあ、それなら、わたしにも立派にできますわ」


 フランスは、イギリスの無表情を真似て、立った。

 ダラム卿が笑う。


「完璧ですね!」


「こちらは、ダラム卿がいてくださるので、安心ですけれど……」


「陛下のことが心配ですか?」


「ええ、式典ではひとりになることもあるでしょうし」


「大丈夫ですよ。すべて陛下に任せておけば」


 そうかしら。

 そうだといいけれど。


 でも、そうね。

 そういえば、舞踏会の時も、ダラム卿はイギリスにすべて任せれば大丈夫だとはっきり言っていた。


 イギリスって、やっぱり三百年も生きているからか動じないし、いつも立派に対応しているものね。


 舞踏会の時だって、想像もしなかった方法で、フランスのことを守ってくれた。


 フランスは、肩の力を抜いて言った。


「そうですね。陛下なら、すべて上手くやってくれますね!」


「ええ。われわれは気楽に見ものしていましょう」


 ダラム卿の、全く心配していなさそうな様子に、ぐっと楽になる。


 そうね、何事も考えすぎは毒よ。

 気楽に行きましょ。




     *




 気楽に行きたかったのに……。


 フランスは大聖堂と言ってはいけない大聖堂に移動し、式典が始まろうとしている中、そわそわと落ち着かない気持ちでいた。


 なんにも、集中できない。

 ほんと、なんにも……。


 フランスはダラム卿と並んで立っていた。


 特に何をするというわけでもないが、式典用にあつらえられたらしい大きな檀上のはしのほうに立っている。


 まあまあ目立つ位置だ。


 壇上には他にも、シャルトル教皇、西方大領主、西方大司教、ブールジュがいる。


 仰々しいメンバーね。


 周りには、たくさんの騎士がこれでもかと護衛していた。


 ああ、聖下が気になる。

 いつも通りの雰囲気で、笑顔で立っていらっしゃるけれど、怪我をしているのに、大丈夫かしら。


 知らなければ、怪我をしているようには見えないだろう。


 ブールジュが、こっちに視線をやって、手をふってきた。


 やめて‼

 ふり返せるわけないでしょ‼


 皇帝の身体なのよ‼


 視線で、非難する気持ちを返すと、ブールジュがにやにやした。


 こんな時に、ふざけないで。

 ひやひやするわ。


 ああ、もう。


 ブールジュが真面目に全部ちゃんとやってくれるのか、不安で、気になる。


 そして、会場には聖女がずらっと並んでいる一角がある。


 そこに、聖女フランスの姿をしたイギリスもいた。

 なんてことない表情で立っている。


 その後ろにはアミアンとカーヴも控えていた。


 ああ、気になる。

 イギリスもアミアンもカーヴも、何事もないといいけれど。


 そわそわする。



 でも、実際のところ、それらのどれも、ちゃんと集中して気にしていられなかった。




 どうしよう。


 もう、どうしようもないけど。


 ポジションが悪いとこんなに集中できないの?



 ああ!

 お股のあの子の、ポジションが悪すぎて!



 なんっにも集中できない‼





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