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第160話 ばれる

 フランスは、魔王イギリスの姿で、立派に新しい巨大な建物を見上げて小さく言った。


「これは……完全に大聖堂……」


 まだ、午前中だったが、ついにブールジュが司教の座に就任する大聖堂に到着した。


 一応、反発する東側に配慮してか、大聖堂とはいわないことになっているが、どう見ても大聖堂だ。


 大聖堂と言ってはいけない大聖堂に到着すると、大聖堂側はにわかにあわただしくなったようだった。


 帝国の皇帝が現れたんだもの、そりゃそうよね。


 どうやら、すぐ近くに西方大領主の所有する城があるらしく、そちらに泊まるらしい。


 一行は、新しい大聖堂と言ってはいけない大聖堂の面構えを観光気分でひやかした後、城に移動した。


 城に着くと、ダラム卿が、すべて引き受けて、イギリスの荷物や馬車の置き場や、騎士たちや使用人たちの所在について、調整している。


 ダラム卿が、フランスに向かって、にこやかに言った。


「陛下、こちらは、わたしが済ませておきますから、どうぞフランスの部屋に遊びに行っておいてください。わたしも、あとで遊びに行きます」


 フランスは笑った。


 到着早々、女の部屋に遊びに行く皇帝。

 不良ね。


 フランスは、魔王イギリスの姿だが、とくに皇帝一行の役には立てなさそうなので、ダラム卿の言葉に甘えることにした。


 帝国の皇帝一行は大所帯だが、聖女フランスの一行はかなり身軽だ。用意されている部屋数も少ない。フランスとアミアンとカーヴの三人きりだ。


 身体が入れかわった状態で、聖女フランスにわりあてられた部屋に向かう。


 とりあえず、カーヴは早いところ休ませてやりたい。


 この数日、カーヴは立派に護衛騎士をつとめていた。勉強もかかさずしていたし。ほとんど休めていないかもしれない。


 フランスは、カーヴが持とうとした荷物を半分持った。


 イギリスの身体は力が強いから、本当は、全部持てるけれど、カーヴの仕事を全部とるのはやめておく。


 アミアンと聖女フランスの姿をしたイギリスが並んで先に歩き、その後ろにフランスとカーヴが続いた。


 時折、こちらを驚いて見る視線が、ちらちらと投げかけられる。


 聖女フランスが、帝国の皇帝を荷物持ちみたいに使っていると思われているかもしれない。


 まあ、いいか。


 フランスは、部屋についてから、イギリスにこっそり耳打ちした。


「カーヴに、しばらく休むように言ってあげてくれない?」


 イギリスがうなずいて、部屋に荷物をおろしているカーヴに向かって声をかけた。


「カーヴ。ここはしばらく、この男が守るから、部屋でゆっくりしろ」


 そう言って、イギリスがフランスを手も使わず顔の動きだけで示すようにした。


 なんてことするのよ。


 イギリスは、そのあと、すこし優しい声で言う。


「道中あまり眠れなかっただろうから、寝ておいたほうがいい。必要なときは呼ぶ」


 カーヴは素直にうなずいて「はい」と答えた。


 カーヴが出ていったあと、フランスはイギリスに文句を言った。


「入れかわっている時に、帝国の皇帝をとんでもない扱い方する聖女みたいにするの、やめてよね」


 笑っちゃうでしょ。


 イギリスが、無表情だが、ふざけていそうな声で言った。


「面白いだろ」


 面白いけど。


 次の瞬間、ノックもなしにドアが乱暴に開けられて、ひとり、飛び込んできた。


「フランス―! やっときたの! クソ遅かったわね!」


 ブールジュが満面の笑みで、両手を広げて、勢いよくイギリスに近づき、そのまま思いっきり抱きついた。


 すぐとなりで、アミアンが、面白がっていそうな顔で見ている。


 フランスも固まったが、イギリスの固まり方がすごかった。

 一瞬で、石みたいに動かなくなった。


「え、どうしたの、なに固まってんのよ」


 ブールジュはそう言って、イギリスからちょっと身体をはなしたあと、フランスのほうに目をやって、ちょっと驚いた顔をした。


 だが、一瞬のことで、すぐに、よそゆきの顔で、しっかりと礼をつくして言った。


「失礼いたしました。帝国の皇帝陛下に、ごあいさつ申し上げます。主につかえております、聖女、ブールジュと申します」


 フランスもはっとして、イギリスらしく答える。


 紳士らしく、丁寧に言った。


「お会いできて光栄です。聖女ブールジュ」


 その場にいる四人の視線が行き交う。


「……」


「……」


「……」


「……」


 ブールジュが聖女フランスの姿をしたイギリスに視線をやった。その表情はこう言っているようだった。


 なんでここに皇帝がいるのよ。


 イギリスがその視線を受けて、フランスに視線をよこした。

 その目はこう言っているようだった。


 なんとかしろ、皇帝陛下。


 フランスはその視線を受けて、視線をさまよわせたあと、アミアンを見た。


 アミアンは、わくわくしたような、ちょっと面白がっていそうな顔をしている。


 どうする。

 どうするの、この状況。


 ちょっと、これは予想していなくて、どうするか何も思いつかないわ。


 はっと気づくと、ブールジュがこちらをじっと見ていた。


 あ、ど、どうしよ。


 フランスは、ひきつりながらも、にこっとやっておいた。

 ブールジュが、なんだか妙な顔をした。


 まずいかもしれない。


 ブールジュって、おそろしく勘が良いところがあるのよね。


 ブールジュが今度はイギリスのほうをじーっと見る。

 イギリスは、微妙に視線が合わないように、しているようだった。


 ブールジュが、あやしむような表情をする。


 まずい。


 何か分かっていないだろうけれど、怪しんでいる顔よ、あれは。


 急にブールジュが大きな声で言った。



「今から! フランスがおしっこを漏らした時の話をします!」


「ブールジュやめてっ!」



 フランスは思わず大きな声でそう言ってから、下唇をかんだ。


 やってしまった。


 つい!



 ブールジュが、目を見開きながらも、なぜかキレたみたいな顔でこちらを見ていた。


 イギリスが、何の話だ、みたいな顔でこちらを見ている。


 そんな顔しないで。

 絶対に教えないからね、もらした話は。


 アミアンは相変わらず面白がっている。


 めちゃくちゃキレ顔のブールジュと目が合う。



 もうだめだ!


 ばれた‼






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