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第156話 女たらし、はじめての本気

 フランスのてのひらを押していたイギリスが、面白がっていそうな声で言った。


「ダラム、かわれ」


 ダラム卿とイギリスが席をいれかわる。


 意気消沈したダラム卿が、イギリスととってかわってフランスのてのひらを押した。


 ダラム卿は、いつものように、面白おかしく女たらしなことを言ったりしなかった。かなりへこんだ様子で何も言わずに、てのひらを押し続けている。


 か、かわいそう……。


 アミアンとイギリスが手をつないで、勝負の体制にはいる。

 フランスは、また合図した。


「よーい」


 イギリスは無表情ながらも、意外と真剣に闘う気満々のようだった。アミアンは、相変わらず獰猛な表情をしている。


「はじめ!」


 フランスがそう言った途端、ふたりとも一気に力をこめたようだった。

 ただ、今回は明らかに、イギリスのほうに余裕がある。


 アミアンはかなり力を込めていそうだったが、腕は中央からぴったりと動く気配がない。


 イギリスが、驚いた声で言う。


「本当に、強いなアミアン。そこらの騎士なら、打ち倒せそうだ」


 アミアンがちょっと苦しそうな声で言う。


「陛下は、やっぱり強すぎますねっ。びくともしません!」


「まあな」


 イギリスが、ゆっくりとアミアンの腕を倒して、あっけなく勝った。


 すごい、赤い竜のひとり勝ちね。


 フランスが感心していると、ダラム卿がフランスにひそひそと耳打ちした。


 ふむふむ。

 なるほど。


 フランスは、ダラム卿の言葉を聞き終わってから、言った。


「アミアン、かわって」


「お嬢様も、勝負するんです?」


「ええ、アミアンのかたき討ちしてやるわ!」


 イギリスが鼻で笑うみたいにした。


 アミアンと入れかわって、イギリスと向かい合い、手をつなぐ。


 大きな手。

 勝てそうにないけれど……。


 とりあえず、ダラム卿に言われた通りにやってみよう。


 アミアンが、ダラム卿の隣に座って、面白がっていそうな顔で言った。


「ようい」


 フランスは、イギリスの顔をにらみつけた。


 イギリスは、小ばかにしたような余裕の表情でこちらを見ている。


「はじめ!」


 フランスは、イギリスの手をぎゅっと握りしめて、ぐっと自分の顔を彼の顔に近づけた。じっとイギリスの顔を見つめて、できるだけにっこりと満面の笑顔で言う。


「イギリス、お願い」


「は?」


「わたしが勝ったら、あなたの言うことなんでも聞くわ」


 イギリスが無表情にしばらくだまった後、ぽつりと言った。



「……なんでも?」



 フランスは、にっこりうなずいた。

 イギリスの腕の力がゆるむ。


 フランスは、ゆっくりイギリスの腕をたおした。

 彼の腕は、まったく抵抗せず、倒されていく。


 フランスは、最後に首をかしげて、わざと可愛らしい声で言った。


「うっそ」


 言いつつ、イギリスの腕を一気に簡易テーブルに打ちつけるようにして倒した。


「勝ったわ!」


「ずるいぞ!」


「ずるくないわ。油断したほうが悪いわよ」


 イギリスがダラム卿に向かって文句を言う。


「ダラム、余計なことを教えただろう」


 ダラム卿が、すねたみたいな顔で言った。


「わたしだけが、負けるなんて、ゆるせません。陛下も道連れです。いいじゃないですか、力で負けたんじゃないんですから」


 アミアンがほがらかに言う。


「心で負けましたね」


 勝ちは、勝ちよ。


 フランスが、勝ち誇ってイギリスのほうを見ると、イギリスがとんでもなく嫌そうな顔をした。


 その後も、ダラム卿は、アミアンにカードゲームで挑み続けた。


 フランスは、イギリスの肩によっかかるようにして座り、その様子を見ていた。イギリスはずっとフランスの手を押してくれている。


「ありがとう、イギリス」


「どういたしまして、ずるして勝ったフランス」


「いいじゃない。普通にしていたら、絶対に勝てないんだから」


「だからって、あんな」


「何をさせるつもりだったの?」


「……」


「言うことなんでも聞くなら、何をさせるつもりだったのよ?」


「……べつに、なにもさせない」


「ふうん?」


 イギリスが、むすっとした顔をしたので、それ以上聞かないでおいた。


 これ以上聞いたら、拗ねちゃうかも。


 フランスは、アミアンとダラム卿の様子を見て、楽しむことにした。


 アミアンは、たまに獰猛な目つきで狩りを楽しむように、ダラム卿を負かし続けている。ダラム卿は、いつもの余裕の女たらしぶりはどこへやら、本当に一生懸命に勝とうとしているようだった。


 いつもの、女たらしも素敵だけれど、今のほうがもしかして本来の彼らしい姿かもしれない。


 自然な感じがして、好ましかった。


 しばらくすると、ダラム卿が嬉しそうに言った。


「勝ちました!」


 アミアンが面白そうに笑いながら言う。


「負けちゃいました!」


 イギリスが、いつもの無表情で言った。


「いいのか、ダラム。家訓の『女性には負ける』に反するぞ」


 ダラム卿が、はっとした顔をした後、ちょっと恥ずかしそうにした。


「つい、むきになってしまいました」


 アミアンが、めずらしくいじわるな顔をしてダラム卿に向かって言った。


「たまには、勝って下さらないと、面白くないです」


 ダラム卿は、ショックを受けた顔をしたあとに、笑って言った。


「女性との闘いで、こんなに本気になったのは、はじめてです」


 四人で笑う。


 ダラム卿が言った。


「アミアン、あなたが完全なる勝者ですから、わたしが何でもあなたの言うことを聞きます」


「えっ、いいんですか?」


「ええ、なんなりと。美しの森の姫君」


 アミアンがくすくす笑ってから言った。


「じゃあ、ヌガーが欲しいです」


 かわいい、お願いね。

 フランスは思わず、笑顔になった。


 ダラム卿が、大げさに言う。


「毎日、あなたに、世界中の美味しいお菓子を取り寄せて、捧げます」


「毎日!」


 アミアンが嬉しそうにする。


 ねえ、かわいすぎるわ、このふたり。





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