表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

138/180

第138話 ふたりの思い出の品

 フランスとイギリスは、ひとつの立派な部屋に通された。


 ダラム卿とアミアンも、別の部屋に通されたようだった。


 すでに、ダラム卿がいくつか、ドレスに似合いそうな品を取り寄せるよう手配をしていたらしく、立派なアクセサリーが目の前に次々と並べられる。


 応接用のテーブルには、高級そうなお茶と茶菓子まである。


 店の者が準備をすませると、うやうやしく礼をして言った。


「この度は、ダラム様よりご依頼いただきまして、こちらの品をご用意させていただきました。舞踏会にふさわしいものと、日常的に使える品ということでお聞きしております」


 ひとしきり、品物について説明を受ける。


 それにしても、舞踏会用は分かるけれど……。

 日常的につかえる分は、何かしら。


 ダラム卿がそこら中の女性にくばるための注文が、まぎれこんだとか?


 フランスが首をかしげながら見ていると、説明を終えた店の者が言った。


「お選びになる間、店の者を下がらせることもできますが、いかがいたしましょう」


 イギリスが、すぐに答える。


「下がってくれ。ふたりで、ゆっくり選びたい」


「かしこまりました。ご用の際は、そちらのベルを鳴らしてください。すぐに店の者が参ります」


「わかった」


 普通は宝石をあつかう店で、店のものが席を外すなんて考えられないけれど、相手はダラム卿と皇帝陛下だものね。


 特別な計らいっぽいわ。


 フランスはさっそく、並べられたアクセサリーを見た。


 舞踏会用は、ぎらぎらね。


 イギリスとふたりで、あれやこれや言いながらアクセサリーを選ぶのは、なんだかとっても楽しかった。


 フランスは、とんでもなく大きい宝石のついた首飾りを指して言った。


「これは、迫力があります」


 イギリスが、そのみっつとなりの、これでもかと金色に光る首飾りを指して言う。


「こっちも、なかなか迫力がある。見るからに、金にものを言わせていそうだ」


「いいですね!」


 舞踏会の衣装に合わせるアクセサリーは、案外すぐに決まった。


 いかにも迫力があり、他者を威嚇するほど強烈に高額そうなやつ。


 いい。

 最高ね。


 どれもお値段が見えないから、いっそ潔く選べたわ。


 フランスは満足して、選んだアクセサリーを見つめた。


 売ったら、いくらになるのかしら。

 素敵ね!


 二人で応接用の長椅子に座ってお茶を飲む。


 フランスが小さくて愛らしい茶菓子をもぐもぐしていると、イギリスが言った。


「普段は、なにもつけないのか?」


「何がですか?」


「アクセサリーだ」


「ああ、そうですね……。以前は銀色のロケットをずっとつけていたんですけど、人にあげたんです。そういえば、それ以来、なにも普段つけてないですね」


 イギリスが、そっけなく言った。


「つけたらどうだ?」


「え?」


 つけたらどうだ?

 どういう意味?


 あ、もしかして……。


「買ってくださるんです?」


 イギリスが頷く。


 なんで、そこは黙って、こっちも見ずに頷くのよ。


 なんだか、可愛らしい様子に見えた。


 へえ、そっか。

 買ってくれるんだ!


 フランスは嬉しくなって、立ち上がった。日常的に使える品として並べられたアクセサリーのところに行って、ながめてみる。


 どれも、舞踏会につけていくようなものではなくて、小ぶりのものだ。美しい宝石をあしらったものもあれば、素敵な銀細工のものもある。


 とっても、すてき。


 フランスが並べられたアクセサリーを眺めていると、イギリスも隣に来ておなじように眺める。


 イギリスが、わざとらしく咳払いしてから言った。


「どういうものが好きなんだ?」


「う~ん、考えたこともありませんでした。自分が好きで、こういったものを買うことってなかったから」


「それなら、今、自分の好きな物を見つければいい」


 好きなもの……。

 う~ん。


 フランスはあれこれ眺めながら、考えてみた。


 どんなものを身につけたいかしら。

 そうね……。


「あなたのことを、思い出せるようなものがいいです」


 イギリスは帝国の皇帝で、フランスは教国の聖女だ。


 このややこしい入れ替わりで一時、ともにいる時間はすごせても、きっと、ずっとは、いられない。


 そう、たぶん……、長くは一緒に過ごせない。


 フランスは、ひとりつぶやくように言った。


「今が、とても楽しいから。あなたが帝国に帰っても、思い出せるように」


 フランスは、ひとつずつ美しいアクセサリーを見ていった。


 ひとつ、目にとまる。

 美しい、赤い石。


 フランスが、じっと赤い石を見つめていると、イギリスがそれを手に取った。イギリスの手の上で、赤い石が、きらりと光る。


 きれい。


 イギリスが、優しい声で言う。


「つけてみるか?」


「ええ」


 受け取ろうとすると、イギリスがフランスの手から逃げるようにする。


 つけてくれるのかしら。


 フランスは、短くなった髪を手でまとめるようにして持ち上げた。

 イギリスが、フランスの正面に立ち、そっとフランスの首にネックレスをつける。


 首に、ほんのすこし触れるイギリスの手。


 ちょっと、くすぐったい。


 ずっと、覚えておこう。

 男の人に、こんな風にしてネックレスを買ってもらうなんて、これっきりかもしれないし。


 目の前にいるひとは……。


 フランスは、そっとイギリスの顔を見た。

 手元を見つめる彼の目には、立派にふさふさした睫毛がかかっている。通った鼻筋に、すっきりとした頬のかたち。


 とっても素敵だわ。


 フランスは、目の前にいるイギリスの顔をじっと見つめていた。

 ネックレスをつけ終えたイギリスも、じっとフランスの瞳を見つめる。


「きれいだ。似合っている」


 そう言って、イギリスが近くに置いてあった鏡をフランスに向けた。


 鏡をのぞきこむ。

 赤い石が、フランスの胸元で輝いていた。


「あなたの翼の色です」


「わたしの翼の色だ」


 ふたりの言葉が重なる。


 フランスは笑顔で言った。


「あなたにとっては、呪いかもしれないけれど。わたしには、あなたの翼がとても暖かくて素敵に思えます」


「そうか」


 すこしはにかんだ、イギリスの笑顔。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ