第137話 ダブルデート!
フランスは右手をアミアンにもみもみされ、左手をイギリスにもみもみされながら馬車に乗っていた。
イギリスが用意した大きな馬車なので、片側に三人で座っても、そんなに窮屈じゃない。向かいの席にはダラム卿がひとりでゆったりと座っていた。
ダラム卿が、面白がっていそうな顔で言う。
「その立派な仕事が、うらやましくなってきましたよ」
フランスは小さく噴き出して、両隣のふたりに言った。
「ねえ、今日は立派な馬車だから、そんなに気持ち悪くないわ。こっちでかたまってちゃ、ダラム卿が寂しそうよ」
ダラム卿がおおげさに言う。
「そうです、そうです。陛下がフランスの手を離そうとしないところを見ると、無理には言えませんが、せめてアミアン、あなたはこちらに来て、くつろいではいかがです? 美味しいヌガーがありますよ」
「ヌガー!」
ヌガーに思いっきり食いついたアミアンに、フランスは笑って「行って、アミアン」と言った。
アミアンが隣に座ると、ダラム卿が嬉しそうな顔で、かいがいしく包みをあけ、アミアンの口もとにヌガーを差し出す。
アミアンが嬉しそうにぱかっと口をあける。
ダラム卿が、そっとアミアンの口にヌガーを入れた。
ふたりとも、かわいい。
ダラム卿は、ヌガーを手に、にっこりと微笑んで、フランスにむかって言った。
「フランスも、食べますか?」
「ええ、いただきます」
ダラム卿が、ひとつ差し出したヌガーを、フランスが受け取ろうとすると、横からかすめとられる。
イギリスが、奪い取ったヌガーの包みをあけて、フランスの口もとに差し出した。
さっきのダラム卿と全く同じ動きに、ちょっと笑ってしまう。
口をあけると、イギリスがそうっとヌガーを放り込む。フランスは、その瞬間、イギリスの指にかみついてやった。
イギリスがおどろいた顔をしたあと、すぐに顔をしかめて言った。
「凶暴女」
「いつもの皮肉へのお返しですよ」
イギリスが睨んでくるので、フランスも睨みかえした。
「ヌガーをかえせ」
イギリスが、そう言いながらフランスの頬をつねって口をあけさせようとする。
フランスも、負けじとイギリスの頬をつねり返してやった。
「もう、口の中に入ったんだから、わたしのよ!」
「皇帝の頬をつねるな! 失礼女!」
「うるさい! 人の口の中のヌガーを取り返そうとするなんて、それでも皇帝なの! ケチケチ男!」
その時、馬車が何かに乗り上げたのか、大きく揺れた。
フランスとイギリスは、お互いの頬をつねりあって顔を近づけていたので、馬車の揺れの衝撃で、思いっきりぶつかった。
イギリスのあごと、フランスのおでこが。
「……」
「……」
痛い……!
フランスはおでこを抑えて、痛みを我慢した。
イギリスも、顎をおさえている。
アミアンが、楽しそうに笑って言った。
「相打ちですね」
ダラム卿も楽しそうに言う。
「ほらほら、もう着きますよ。陛下は、フランスのアクセサリーを一緒に選んでください。わたしは、アミアン、あなたのアクセサリーを一緒に選ばせていただきましょうか」
アミアンが驚いた様子で言った。
「わたしのも、あるんですか?」
「ええ、実は、アミアンのドレスも仕立ててあります。私と一緒に、陛下とフランスの様子を見に行きましょう」
「侍女としてついていこうかと思っていたのですが」
「侍女としての仕事も、あいまにすればいいですよ。それ以外の時間は、わたしと美味しいものを食べて遊びましょう」
フランスは、嬉しくなって言った。
「それって、とってもいいわ! アミアンのドレス姿、とっても楽しみ!」
アミアンも、いつものわくわくした顔で言う。
「ドレスの舞踏会! はじめてです!」
ダラム卿が、うやうやしい素振りをして言った。
「その日は、あなたのために仕えさせてくださいね。アミアン」
「わたしにですか?」
「ええ、その日のわたしは、美しいあなたに仕える侍従です」
アミアンが、すこし照れたみたいに「へへ」と笑う。
かわいいいい。
アミアン、かわいいいい。
好きいいい。
フランスは、ちょっと気になって、ダラム卿に聞いた。
「あら、でも招待状がないのに、入れますか? 今回は陛下が参加されるので、きっと厳しくされそうな気がしますけど」
招待状のない、身元のはっきりとしないものは、会場に入れさせもしないだろう。
ダラム卿が、自信ありげににっこりして言う。
「それも、お任せください。アミアンの分は、わたしの友人として、招待状をすでに、一枚多くもらっています」
「ダラム卿の友人として? いったいどんな身分を仕立て上げたんです?」
ダラム卿ほどの有力な貴族なら、そういったことも簡単だろう。
ダラム卿が、いたずらな顔をして楽し気に言う。
「それは、当日のお楽しみです」
まあ。
ほんと、楽しみね。
フランスはアミアンと一緒に、くすくすやった。
馬車が停まる。
馬車を降りると、目の前に立派な店があった。
こんなに立派なお店でアクセサリーを買うの?
わくわくしちゃう!




