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第136話 男の身体の気になるトコロ

 フランスはつやつやネコちゃんの身体をなでくりまわしながら、ふと、気になっていることを聞いた。


「陛下、そういえば、最近ずっと気になっていることがあるんですけど……」


 つやつやネコちゃんが喉をくるくるやりながら「にゃあ」と返事をする。


 フランスは、毎日の、ちょっとした困りごとを思い出しながら言った。


「毎朝、起きると、お股のあの子が腫れているんですけど、良くない症状とかじゃあないですよね?」


 フランスが言い終わると、膝の上のネコがすっくと立ち上がった。


 あら。


 つやつやネコちゃんがフランスの膝からおりて、生垣の上に座る。ネコの姿がほどけて、男の姿になった。


 イギリスが、無表情にとなりで座っていた。

 フランスのほうは見ずに、遠くを眺めるような顔でいる。


 なに、その顔。


 しばらくしてから、イギリスが言った。


「それは、別に、心配するようなことじゃない」


「あら、そうなんですね。なんで、毎朝そうなるんです? 毎日、ピュイ山脈の景色を思い出して、落ち着かせるんですけど、毎朝だとちょっと面倒です」


「……」


「陛下?」


 イギリスが、なんだか疲れた、みたいなため息をついてから言った。


「定期点検みたいなものだ」


「定期点検?」


「騎士なら、毎日武具の手入れと点検はおこたらないだろう。……そんな感じのやつだ」


 ははあ。

 なるほど。


 これって、武具みたいなものなんだ。


 ふうん。


 フランスは、問題なかったことにほっとして言った。


「じゃあ、毎日ちゃんと腫れるのは、普通のことなんですね」


 なぜか、イギリスがちょっと歯切れ悪く答える。


「普通……、まあ……、健康的だろう」


「なら、良かったです」


 イギリスがおおきなため息をついてから言う。


「きみに、なにもかも知られているのかと思うと、おそろしいよ」


「あら、でも、わたし着替えの時に、陛下の裸をまじまじ見たりしません」


「わたしだって、そんなことしない」


 フランスは、心の底から思ったことを言った。


「男の身体って、不思議ですね」


「女の身体の方が不思議だし、おそろしい」


「どこがおそろしいんです?」


「月のものもこわいが、女の身体は力が弱すぎるし、きみのは特別、動きがどんくさすぎる」


 なんですってえええええ。


 どんくさくないわよ!

 失礼ね!


 フランスが睨んでいると、イギリスが嫌そうな顔をして言った。


「股を腫らして、悪魔にとりつかれたきみに、抑えつけられている時は、とんでもなくおそろしい心地がした」


 フランスは笑った。


「たしかに、あの状況って、とんでもなかったですよね」


 ひとしきり笑ってから、フランスはなんとなく直接顔を見て言うのが気恥ずかしい気がして、夜の闇のなかによく見えもしない景色をながめて、言った。


「わたし、陛下とすごすのがとっても楽しいんです。陛下が、教会で過ごされる時間が終わって、帝国に戻られたら……、きっと、とっても寂しくなります」


「……」


 フランスはちょっとだけ勇気を出して言った。


「たまには、飛んで遊びに来てくださいますか? あ、でも、勝手に国境を越えて飛んでくるなんて、やっぱり難しいかしら……」


 イギリスが、ぶっきらぼうな声で答える。


「べつに、バレないように飛んで来ればいいだろう」


 フランスは、イギリスのほうに顔を向けて聞いた。


「来てくださるんです?」


「きみがのぞむなら」


「来て、欲しいです」


「そうか」


 しばらく二人とも、見えもしない闇夜の景色をながめる。


 イギリスがほんのすこし、身体をかたむけて、フランスの肩にそっと寄り添うようにした。


 ほんの、触れるか触れないかくらいの距離。

 もどかしいけれど、心地よい感じ。


 フランスは、思いっきり、イギリスの方によっかかるみたいにした。


 イギリスが押し返してくる。

 フランスも負けじと押し返した。


 二人、無言で押し合う。


 フランスがくすくす笑うと、イギリスもおかしそうに小さく笑った。


 何してるのよ。

 まったく。


 押し合いがはげしくなってきたので、フランスは「やめなさいよ」と言って、イギリスの腕をたたいた。


 ふたりで笑う。


 イギリスが、ふと思い出したように言った。


「明日の午後、時間はあるか?」


「明日? 何かあるんです?」


「もう明後日には舞踏会だ。準備をする必要がある」


 そっか。

 もう、舞踏会ね。


 最近はあれやこれや、ほんとめまぐるしいわ。


「時間なら作れると思います。ドレスの確認とかですか?」


「それもある」


「他にも?」


「ドレスに合わせる、アクセサリーも必要だろ?」


「ああ、でも……」


 そんなの買うお金……、ない。


 イギリスが、なぜか得意げな顔で言う。


「焼き菓子を焼いてくれたら、その礼に、アクセサリーは教会への寄付にする」


「教会への寄付?」


 イギリスがにやっとして言った。


「そうすれば、売り払いやすいだろ?」


 えっ。


 フランスは、感動して言った。


「まあ、それって、とっても素敵です」


 売り払う前提のアクセサリー!

 最高じゃない!


 イギリスが、注文を付けくわえた。


「ジャムをたっぷり使った、焼き菓子がいい」


「いいですね。じゃあ、どのジャムを使うか選んでいただかないと。陛下が食糧庫につめこんでくださったジャム、たくさんありますからね」


「ふむ」


「明日、一緒に選びます?」


「うん、いいな」


 フランスは、ダラム卿が用意してくれている、舞踏会用の衣装を思い出しながら言った。


「ドレス、どっちにしましょうか。悪っぽいのと、婚礼衣装っぽいのと」


「きみは、どっちのほうが面白そうだと思う?」


 面白そう?


「そりゃあ」


 フランスはにやっとして答えた。


 イギリスも、フランスの答えを聞いて、にやっとした。





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