めんどくさがりのお届けです
まだ川だよ。
閑話休題というス円ンドもびっくりの言葉がある。それまでの流れをぶったぎって後半へと繋げる、キングでクリムゾンな能力だ。そう。使えば! 誰もが欲しがるだろう! 故に許されない! 閑話休題という存在は!
しかし例えば。
仮に。僕のことじゃないよ。友達の話。
川に流れされないようにしつつも着衣のせいで溺れそうな男女がいたとしよう。片方は厚着。
のっぴきならない状況でどうしようもなく仕方ない選択として不可逆的に、泳ぎが得意な男が、溺れ掛けている女を、掴んだとしよう。善意。そこに下心はないに等しい。掴む場所も選べる訳じゃない。大きい。
そして川岸にようやくたどり着いたところで、女が息をしてないことに気づく。こんな時にはあれだ。モミモミスーハーだ。邪心なんてないに等しい。ああ体も暖めた方がいい。いいに決まってる。
そう。そんな状況で閑話休題を使うのは許されるのだろうか?
結論。許される。人助けだもの。いいに決まってる。
「――――ゴフっ、ゴホッゴホッ! ――〜〜ゲホゴホ、……はぁはぁ、うぷっ」
…………。
振り返ると三つ編みの鼻から口から、Oh閑話休題。
見せられないよ! を吐き尽くした三つ編みに……近づけない。気のせいか? 障気が濃い、気がする。あの間延びした喋りの三つ編みが過激な事をするとは(たった今さっきまでの走馬灯)思えないが……。
振り返って川に飛び込めと第六感が騒ぎ立てている。久しぶり。
いや待て待て待てよフライハイ。何か気に障るようなことをしたか? むしろ機転を利かせて川上に遡上する鮭のごとく泳いだじゃないか。三つ編みの息が絶えようと頑張ったじゃないか。悪いところなんて無いね。命の危機に手を差し伸べる俺は王子様と呼べるレベル。
しかし彼女は女性。飛び込もう。自由の海へ。
距離を取ろうとした所で、ジャリっと鳴る砂利。知ってるよ。自己主張も大概にしてほしい。
飛び込みの選手もかくやという程の力を足に入れたら、天然のトラップが発動。
音に気づいたのか三つ編みが、ゆらりと顔を上げる。見える後ろ姿からは莫大な腐の力が?!
殺される。
不意によぎった感想が俺に汗を掻かせる。ゴクリと喉が鳴り目が乾く。息をするのにも気を使う沈黙が横隔膜を刺激して変な呼気が漏れる。次第に餌を求める鯉のようにバクバクと空気を求めているのか命乞いをしているのか口が開く。馬鹿な?! この懐かしさを覚えるプレッシャーは彼の家に封印されし白き闇(姉)のものじゃないか?!
どうやら助かったと思ったのは気のせいらしい。なんでだ?! 俺は日頃の行いも……(……)良いし! 全力で三つ編みの命を……(二代目霊界探偵)守ったじゃないか?!
女性だもの。納得の一言。
三つ編みはスカートから取り出したハンカチ(びしょ濡れ)でゴシゴシと顔というか、口元と鼻を拭っている。水も滴るなんとやらとか、お世辞の一つも利かせようかな……どうした、第六感? よくわからんぞ喋れ。
「八神くん」
ビクる俺。ビクる第六感。決して三つ編み様に言ったわけじゃないんです?!
気のせいか……エセっぽい方言と緩さが消えている……。
スッと上げた顔には表情も消えていた……。
大丈夫だって。人間だもの。嘔吐ぐらいするさ。
「場所を変えませんか? 話したいこともありますし」
「よく分かんなかった。京都弁で頼む」
「……」
ピクリと動いた三つ編みの眉に安堵。良かった。女性だ。
ひたすら三つ編みの京都弁復活を待ってもいいんだけど、学習能力が振り切っている俺としてはこの後の展開なんて恐怖で目を瞑っていてもわかる。怖い。
ここは話に乗っかろう。
「俺も移動を考えていた。最初からな」
真剣な表情でコクリと頷く俺に、三つ編みは感心したように「最初から……流石……」と呟く。
親指で後ろクイッ。方向は適当。
「行こう。ホテルに」
ホテルだよ。
言葉ってのは不思議だよな。間違ってないのに足らないと頬に紅葉が生まれちゃうんだもの。
修学旅行でうちの高校が取っているホテル、つまり俺達が泊まっているホテルの自動ドアを潜るずぶ濡れの男女。片方は頬に紅葉とアーティスク。ロック。
その見事さに道行く人が振り返るというね。フフフ、写真撮影は止めたまえ。
まずは風呂と着替えだな。あとは静養と代して部屋に籠もろう。完璧。
「な、なぁ?」
おっと、京都弁復活ですね。
隣に目を向けると、動揺してるのかキョドキョドする三つ編み。
「こ、ここは無いやんかぁ? 割れてるぅ思うよぉ?」
あん? 割れてるってなに、腹筋かな?
「ちょっと何言ってるかわからない」
「なん?! ……な、なんでぇ?」
咄嗟に出た言葉を掻き消すように三つ編みが口元を押さえて言い直す。視線は警戒しているみたいに周りをキョロキョロ。キャラ作りも大変だな。
三つ編みは足を止めているので未だロビーだ。なんかめんどくさくなってきたな……。
ヒョイと三つ編みを小脇に抱える。
「えぇ?! キャ!」
おい言葉言葉。
そのままズンズンと女子の泊まっているエリアへ。三つ編みを抱えている手とは反対の手で、俺のポケットから三つ編みの部屋のカードキーを取り出す。
「……えぇ……それぇ、うちのやんなぁ?」
「拾った」
水中でね? 非常時だったもの。仕方ない。
三つ編みの部屋番号を確認し部屋の前まで。あとは三つ編みを部屋に放り込めば解決だ。俺的に。
カードキーを翳してガチャっとね。
開いた扉の向こうには驚いた表情の茶髪。
ですよねー。
ふぅ、ヤレヤレと首を振り振り扉を閉める。
直ぐさま開きそうになる扉を反対側から抑える。
「同じ手は喰わん!」
『ちょっとー!』
「……あんなぁ?」
小脇に抱えた荷物が喋る。ハハハ、かなり動揺しているな? 荷物が喋る訳ないのに。
なんだよあいつ。扉開けたらかなりの確率で居るとか厄災なの? ドラちゃんが管理してるんじゃないの? そりゃ慌てて閉めるよね。わかる。
バンバンと扉を中から叩く乱暴者に怯える弱者。きっと巨人だ。食べられる。
両手が塞がった状態で開けちゃいけない扉の対応が求められる。将来面接で使われそうな知識だ。就活民必読。つまり要らないね。
発想の展開が事態を打開する鍵なんだ。開けちゃダメなら。
開けてみよう。ガチャっとね。不合格。
「ちょっと! 説明」
「こいつは土産だ!」
ポイっとな。
大体こんな感じで合ってる。
荷物に巻き込まれて後ろに倒れる茶髪。三つ編みと組んず解れつ。愛の形は人それぞれだからね。見なかったことにして扉を閉めた。
するとどうでしょう。
塞がっていた両手に自由が戻り、扉も閉められた状態に。彼女も出来て受験も受かり宝くじが当たって異世界にも行けるという俺無双。
『覚えてなさいよー!』
……お約束ってやつだよ。きっと、ええきっと。
無双した筈の俺は、くぐもって聞き取れなかった声に押されるように足早にその場を後にした。
聖域(男湯)へと逃げ切れば悪魔(女子)は追ってはこれまい。
そんな希望を信じて足を進めた。




