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めんどくさがりと闇

させん! させんぞ!



「あはははははははっ!」


「そーれ、アップダウンだー」


「目がぐゆぐゆっ! ぐゆってなる!」


「ぐっ、ダメだエンジンを一機イカれた! 出力低下! 高度を維持できませんっ! つーわけで軟着陸ー」


「きゃーーーっ!」


 振り回してた手で掴んでいた座敷童を毛深い絨毯の上で離す。ポフッとな。


 無事に着陸したのが嬉しいのか、座敷童はこちらに向き直り両手を広げてくる。ハグは身内の方とお願いします。


「もっかい!」


 そんな日本語はねぇ。


 俺が座敷童と遊んでいるのには勿論理由がある。


 博愛精神溢れるナイスガイが父性を十全に発揮して幼い子供の寂しさを未然に埋めてあげるというのが、九割をしめるのだが。


 残りの一割は……。


「先輩って子供と遊ぶの上手いんですね。いいお父さんになれますよ。私の将来が明るいです」


「私が浅学なためか、前後の文が全く繋がってないように聞こえました。当家の配慮でしたらありがたく承ります次代様。私がきちんと今後とも見守っていきますので、ご安心を」


「ねー! もっかいもっかいもっかいして! ねーねー!」


 そうだね、姉だね。


 この部屋にいる女性はみんな笑顔だ。笑顔って喜怒哀楽のどれを表すんだっけ? 醜かな?


 座敷童と思っていたら、実はこの家の娘さんだった座敷童は無邪気な笑顔を浮かべている。ヤバい。


 今回のホストらしいオカッパは姉の言葉に笑顔を返している。すこぶるヤバい。


 壁際やお茶を入れるため適度に離れた位置で背後に控えているメイド様方も、あらあらまぁまぁと微笑ましげに笑っている。こいつらヤバい。


 ホストから笑顔の圧力を柳に風と受け流す八神さん家の長女さんは終始穏やかな微笑をその顔に刻んでいる。マジワーニン。


 位置取りが良くない。最初に姉の隣に座って向かい合うのがスタンダードと思ったからね? 姉に続いて隣に腰掛け用としたんですよ? そしたら絶妙なタイミングで「こちらへ」って言われてさ、姉と向かい合う形でシットダウン。何故か直ぐさま俺の隣にオカッパが座る。


 部屋を一瞬にして包む冷気。溢れ出る冷や汗。


 眩い美貌を放つ、人に見えるなにか(姉)が「次代様と席を並べるなどとんでもない」と俺に視線を一つ。へっ、膝が笑ってやがる。


 家に帰るまでがエスコートと断言しそうな姉の不興をわざわざ買うこたない。相変わらず作戦を実行中の俺は立ち上がって姉の方に移動……しようとした。


「私が」


 俺、ピタリ。パントマイムで食っていける。


 静かな、しかしはっきりと力のこもったオカッパの言葉が部屋に響く。怖いよー助けてよー。身じろぎして注目を浴びたくなかったため動きを止めたが、どこの道化かという今のポーズの方が目立つ気がする。


「構わないと言っていても、ですか?」


「形式やしきたりがございます」


「形骸化したものです。いずれ無くなります」


「今はまだ、と言葉にすることをお許しください。私のような小さき器では手順を踏まえることで精一杯なのです次代様(・・・)


 ズズズズズと空間が揺れているように感じる。止められるのは俺しかいないのか?!


「飲みおわったぁ」


 座敷童がストローを啜る音でした。


 一人掛けのソファーから降りると体当たりするように俺の脚に抱きついてくる座敷童。


「遊んでっ!」


 俺が逃げの一手を打つのも仕方ないかと、ええ。


 座敷童は抱えられることを大層喜ばれるので、ひっつかんでグルグルと回してやった。きゃーやらイヤーやら言うので止めると、再び笑顔でリフレイン。


「もっかい!」


 どっちだよ。


 しかし続けること何回目かわかりませんが、俺の三半規管に異常をきたしてきたのでここいらでギブアップしたい。


「もっかい!」


 女の子だもん。わかってた。


 流石に頭がフラフラしてるのに他所様の子供をグルグルするわけにはいかない。意を決してソファーに座るべく振り向いたのだが、おかしいな? こんなに明るいのに澱んで見える。


 俺が休もうとしているのに気づいたオカッパと姉が視線を向けてくる。ふへへ、怖ぇ。


 本来なら姉の隣に座るべきだ。作戦的にもマナー的にも。


 でも俺は座敷童が座っていた一人掛けのソファーに腰を降ろした。理由? びびったからだ。


 すかさず紅茶を入れてくれるメイドさん。そこは炭酸にしてほしい。それか濃い緑茶で頼む。


「えへへー」


 俺がメイドさんに熱い視線を投げかけていると座敷童がよじよじとよじ登ってくる。俺の膝までくると、その上で直立しやがった。痛ぇ。


「美澪。行儀悪いでしょ。降りなさい」


「は〜い」


 オカッパがフォローを入れてくれる。助かったね。あの、なんで座り直しているのん?


 いそいそと態勢を変える座敷童。俺の膝の上に腰を降ろし、そのまま俺に体重を預けてくる。


「……みーれーいー」


「やぁ」


 座敷童がぷいとそっぽを向く。


 今まで従順なほどにオカッパの言うことを聞いていた座敷童が、初めて反抗っぽいものを見せる。よせ早まるな! 相手は姉だぞ?!


 姉という聖物に十二分の理解がある俺はこの後の展開が予知できる。シェルターはどこかな?


 …………変だな。血飛沫が舞わない?


 凄惨な光景を見るにたえず瞑っていた目を開く。


 そこには酷く驚いた顔のオカッパに、何やってんだかと呆れた表情の姉。


 んー?


 視線を下に向けると、ぷくっと頬を膨らませて俺の服をギュッと掴んでいる座敷童モデルミニチュア版オカッパが。


 何か変なとこある?


「ぶっ。………もぉ!」


 とりあえずガス抜きの意味合いも含めて座敷童の頬をつついてみたというのに、当人には気にくわなかったようだ。拳を頂きました。


 良かった。正しい反応だ。


「あの…………ほんとに、妹が……よく懐いています、ね? ……」


 ぼすぼす叩かれてますが?


 眼科の紹介もやぶさかではないところだが、残念なことに真昼の空に人工衛星を見つける弟を持った俺の目は1.0以上ある。行きつけの精神科で妥協してもらおう。


「そういえばあんた、ここに来た時に既にその子といたわね?」


 お姉さんお姉さん。口調が元に戻ってらっしゃいますよ?


 しかしオカッパは気にならないのか、何かを思い出したように頷く。


「言われて気づいたんですけど……先輩って私の部屋から無理やり連れ出されたんですよね? 妹に」


 そこですか。


「あのねー、かくれんぼしてたらようかい見つけてねー、ジュース飲みたいからフタをいっぱい空けてねー、オシッコねー、いっしょはお化けだからダメだってー」


 なんてことだ。全部わかる。


 フンスと鼻息荒く得意満面に説明を始めた座敷童に疑問符を浮かべる姉陣営。


「……えーと」


「あたしパス」


 じゃ俺もパス。


 自然と出遅れたオカッパに視線が集まる。


「わ、私ですか?!」


 そうだ速く。誉められると期待した座敷童がどや顔で待ってるぞ。内容はチンプンカンプンで、なんで一緒にいたのかという答えにはなってないがな。


 オカッパは空咳を一つ入れると笑顔で、


「そう。良かったねー」


「あい〜」


 座敷童の髪を撫でた。


 じゃあ、この話は終わりだね? なんせ良かったなんて言うくらいなんだから。掘り返すこともない。座敷童の手前聞き返し難かろう? くっくっくっ。


 バツンと。


 そんな俺の感情が漏れたかのように急に暗くなる室内。停電ですか? だから姉ちゃんに朝ドライヤーは止めろって……言ったことないです。逆に、あたしがドライヤーかけてる時にゲームの充電器をリビングに差すなと粉砕されたことがある。俺じゃないよ? 携帯ゲームをだよ? ほんと世の中、


「……おかしいわね」


「……おかしいですね」


「おかしいよなぁ」


 あ、みんなそう思う。


 しっかりとした設計のいいカーテンを使ってるのか月明かりすら入ってこない。不便。


 辺りは闇に包まれているが、大体の声の位置で相手の場所はわかる。特に膝に乗っけた座敷童とかよくわかる。引っ付いてきやがる。


「ひとまず『明か』」


「伏せて!!」


 姉の怒号が響きわたる。


 しかし少し遅い。


 金属の塊がもの凄い勢いでコメカミに当たりそのまま振り抜かれていく。ナイスフォロースルーだ。俺の頭がバットに打たれたボールのごとく飛んでいく。十六年間連れ添っ体も離れまいと一緒だ。


 そうなると問題は座敷童だ。


 未だ体にギュッとくっついてる幼子が、変な態勢で落っこちるのを防ぐために俺もとっさに座敷童をがっちりホールド。


 座敷童が下敷きにならないように体を回転させ地面に衝突。衝撃を全て俺の体で受け止める。回転には慣れてる。日々の訓練が違う。あれ? 目がジンワリしてる。意外と痛かったせいだね。きっと。


 地滑りしてこれまた壁に衝突する俺。今がどういう状況か全くわからないので、情報を求めてあちこち視線を飛ばす。暗くてわかんない。


 時たま上がる火花とバンバンという音は何かな? 花火かな。室内とか止めてほしい。耳がイかれる。


 不意に明かりが灯る。


 室内には個性を消すような同じ格好の連中がなだれ込んでいた。黒スーツにグラサンだ。夜中にサングラスとか大丈夫だろうか。心配だ。


 いつの間にか、姉の後ろにメイドさんの山ができてる。オカッパも姉の後ろにいるが視線はキョロキョロと室内を探っている。


 黒スーツの何人かが、姉に向かって発砲する。よせ逃げろ!


 カキョンというなんともいえない音と共に姉の周りに火花が散る。オー神(狼)よ……。


 流石の姉でも素手で銃弾っていけるんやろか? そう思ってよく姉の手元を見てみると、握られているナイフとフォーク。紅茶についてきたケーキのやつだね。美食家だね。ちぃ。


「バズーカとかグレネードは?!」


「なんであんたが指示出してんのよっ!!」


 いやだって……もはやこいつらは只の羊。子供もいるのに凄惨なシーンもどうかと思うんですよ。俺の言うアイテムがあれば犠牲も減らせる。


「目の前にこぼれ落ちようとしてる命があれば、自然と手が伸びるもんだろ?!」


 それが人ってもんだろ!


「あんた後でセッキョーだわ」


「かかれ! 火線をあの化け物に集中させるんだ!」


「今ので二倍になったから」


 なにが?!


 こうして会話してる間も姉は銃弾を迎撃し突っ込んでくるスーツの顔面をひしゃげさせている。


 いかん! 加勢せねば。……姉にだよ? 点数稼ぎとかじゃなく。姉に護られてるメイド勢の好感度アップとかじゃなく。


 体を起こそうとしたら、強制気をつけ態勢に。なにこれ? 金縛り?


 座敷童も引っ付いたままだ。引っ付いたというか雁字搦めというか。


「一人『縛った』!」


「『掴んだ』! 引くぞ!」


 破られたドアの向こうから誰かが怒鳴る。


 その声に反応した黒スーツどもが撃ちまくる。一人が胸元から手榴弾を取り出して姉に向かって放る。


 姉は冷めた表情でそれを切り分ける。あれ? 爆発しないけど? 普通衝撃とかでさぁ。


 グンと。


 金縛りの状態で体が浮かび上がり引っ張られる。う、浮いてる。これはあれかな? 俺の眠れる力がピンチによって目覚め危険地帯(姉)から遠ざかろうとしている、とかかな。十四才かな。


 姉の怒号が飛ぶ。


「あんた! 自力でどうにかできるでしょ!」


「ひぃぃぃ!」


「三倍ね!」


 どこの戦闘民族なんだよ。


「先輩! 『こっちへ!』」


 無茶言うない。


 あっと言う間に流れていく景色。ただ姉が青筋立てていたというだけで、未練もなくなるな。むしろ戻りたくない。




 金属製のトランクのような物の中に収容される俺と座敷童。おう、国道走れよ。


「よーかい?」


 一言も声を上げなかった座敷童が、漸く動いた手で俺の顔をペチペチと叩いた。


 その顔には不思議と不安も安心もなく無表情だった。トイレ出た時の顔だ。漏らしたの?


「夜遊びの仕方を教えようか? フロイライン」


「よーかいっ!」


 笑顔で抱きついてくる座敷童の頭を撫でてやる。どうやら防音らしく外の音は聞こえない。


 俺は薄暗い闇の中で溜め息を吐き出した。


因みに、姉と呼ばれる生物種はみんなあのぐらいの戦闘能力があると思われます。八神さん家の長女限定とかではないでしょう。




だから姉のマグカップを割ってしまったわたしが、そっと戸棚の奥に如何にも割れていないように配置したのもむべなるかな。

少しでも被害を減らせるように筋トレを始めました。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 〉八神さん家の長女限定とかではないでしょう ウェぇぇ!?(^O^;)
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