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めんどくさがりの家で合宿、それはお泊まりっていうね 3



 帰りたい。そう思ったとき既に自分の部屋にいたらどうすればいいんだろうね?


 目の前には獰猛な四人の女性が円を描くように座っている。


 こいつらに円満かつ穏便に帰ってもらうのが今日のミッションだ。


 無理ゲ。


 おっと、いかん。ははっ。なーに弱気になってんだ。昔の偉い人も言っている。諦めたら試合終了だと。


「八神君。今日は泊まっていきたいのだけれど」


 終了ーー。


 黒縁眼鏡を掛けていない黒縁が凍てつく波動を吐き出した! 時が止まる。


 どうやら人体の体内時間しか止められないらしく、テレビ画面の中では何機か墜落していった。ああ、狐。英語でフォックス。


 ほんと何言ってんだろねこの駄メガネは。壊すのは自分のアイデンティティだけにしてほしいもんだ。


 鈍い黒縁でも空気の停滞を感知したらしく、止まった時の中で小首を傾げ、閃いたとばかりに頭上にランプアイコンを点灯させた。え、凄い。どうやんの?


「……私……今日、帰りたくない」


 口元に握り拳をあて上目づかいの涙目が俺を貫く。ああ、うん。大体あってる。ただ、色々間違ってる。


 あんまり長い時間止めていられないらしく、茶髪が話しかけてくる。何故か俺に。


「泊まるって、泊まるの? ここに? なんで?」


 馬鹿だなぁ。方向が間違ってるよ。もちっと右だよ、右ぃ。あれれ? なんで俺の視線とぶつかるんだろう。まるで俺に聞いてるみたいだね。不思議。


「ねぇ。なんで?」


 茶髪が俺の服の袖を掴んで揺すってくる。茶髪の瞳は光を反射しておらず、指は服の袖ごと肉を掴んでる。おし。ゆっくり手を離せ。故郷の母ちゃんが泣いてるぞ?


「がっ、合宿は一泊でありますか?! じじじ自分なんの用意もしてないです!」


 一年、黙ってろ。


「……ん? 合宿?」


 おう、そうだ茶髪。いいとこ拾ったね? じゃあ、俺も話すからお前も離そうか?










「へー。君って文芸部だったんだ」


 茶髪が飲み物を飲みながらコクコク頷いている。


 その右側で黒縁がコントローラーをいじってる。


 その右側でテンパが眠そうに座ってる。


 その右側で虎舵が必死に頷いている。


 そしてボクは外側でセイザしてる。


 誤解のないよう言っておくと、別に星になったわけじゃないよ? 日本人の規則正しい座り方のほうさ!


 セイザ:日本古来の処刑法。星になる一歩手前。効果は麻痺、血流遮断、威圧による土下座への移行などである。


 応用法として石を抱かせるとかあるらしいけど、さすがにそれはされなかった。

 もう帰れようぅ。家に? いえ土に。一番くつろげる場所で拷問とか、ははーん、さては貴様ら女だな? 土下座に移行しちゃうぞ? いやほんとそろそろ限界なんですよ。


「先輩! 茶髪! 足の感覚がなくなってきた!」

 だから許して! 生きることを!


 黒縁が頷く。


「オーケー」


 なにが?


 茶髪が本棚から本を大量に取り出し始めた。なに? 読書? じゃあもう足崩してもいい?


 抱えていた本を俺の膝の上に置き始めた。な、なんだってぇ?! うん、正直、予想できました。


「あたしの名前、言ってみて?」


 茶髪の光沢のない瞳が俺を捉える。やべぇ。下手にJAGI様とかいったら殺されかねん。名前名前なまえー。人類皆兄弟とか言ったらかわせんやろか? ちょっと待てよ。クラスのやつらが茶髪の話を前してたな? つまりクラスのやつらに連絡を入れたら茶髪の名前が判明するんだね。ラインつって。番号しらね却下。おっと待てよ? スマホ見れば一発じゃん? あ、でも俺こいつのこと茶髪で登録してる却下。あっ、弟がなんか知ってるんじゃね? さっき出て行った薄情者じゃねえか! 却下。ウェイウェイウェーイ。正直に言うんだ。きっと心を入れ替え正しき道を進むことを約束したら許してくれるはずさ。童話にも出てくるじゃないか。正直に話したら女神様が金の斧と銀の斧を、


女神「くれてやる!」


 殺られる。ふふふ。待ちたまへ。きっと解決策はあるはずだ。


「凄いバランス能力でありますね!」


「いやー……こんなに積めるとは思わなかったけどね」


「確かに凄いわね。全く無意味だけど」


 とりあえず足は死にました。加減って知ってる?


「じゃあ、一度解散にしましょうか」


 やべー、足が鬱血する。


「解散するんですか? さっき泊まるって……」


「一度、ね。だって私たち、替えの服とか持ってきてないもの。お風呂入れないじゃない?」


 痺れてる足に本乗っけるのだけでも拷問なのにギネスに挑戦しなくてもいいよね?


「お、お風呂って……。いや、そんなの、だって」


「自分は来てあまり時間が経ってないでありますが?」


「何か思い違いがあるようだけれど。普通に毎日お風呂には入るものでしょう?」


「あっ、あー。……わっ、わかってましたよ!」


 ぐぅ?! ピクリとも動けない。僅かな反応も見逃さず脳が電気信号送ってきやがる! 『いてえ』って。そこをなんとか。


「そう。じゃあ、一度解散しましょうか。虎舵さんも……替えの下着とか持ってないでしょう? 一度自宅に帰ってお風呂に入ってから集合で」


「……先輩。ワザと言ってません?」


「あら? なにかしら?」


 落ち着け。まずは血流の回復から始めるのが先決だ。つまり足の曲げ伸ばし。それが出来たら苦労はない。


「亜丞先輩! ご飯はどうしましょう? 食べてきた方が八神先輩には迷惑にならないと思われます!」


「食事を済ませてきた方が負担は減るかしら?」


「はい!」


「なら食事はとらないで集合にしましょう」


「はい!」


「なんか、あたし、だいぶ先輩のキャラが見えてきたかも……」


「流石、我が校一の頭脳ね。あなたも参加するんでしょう? 合宿」


 あれ? もしかしてこれ詰んでるんじゃ? 足に本積まれて詰む、なんつって。くっ、殺せ。


「あっ、あたしは遊びに来ただけっていうか……顔見に……」


「そう? 強制はしないわ。じゃあ、大体二時間後ぐらいまでに」


「はい!」


「まっ、まぁいいですけど!」




 テンパが近寄ってきた。おもむろに背伸びして俺の足の上に詰まれた一番上の本をとった。


 おおデュエスッ!


 そしてそのまま読み始めた。うん。わかってた。


 あれ? あいつら何処いった。


 俺が苦しみと痛みにのた打ち回っていた間に宿敵(女性)は三人もいなくなっていた。これはチャンスですね? ならば多少の犠牲は仕方なし!


 手で足に乗っていた本を打ち払う。ふはは! フリーダム!


 横目でテンパを確認したが、テンパはベッドに腰掛け本に夢中になっている。好機。


 俺は立ち、あがれない……だと……?


 あてが外れた俺の体が床に倒れる。バカな?!

 俺は動けない足を必死に叱咤した。しった、した。別に他意なんてないよ。一生懸命なだけだよ。


 改めて、動け動け動け動け動け動け動け動け、動いてよぉ!!


 信号拒絶。活動停止してます。まじでぇ? なんかこの台詞ぶっこいたら動く気がしたんだけどな?


 まぁいいわ。どうせあいつら花を積み(隠語)にいったんだろ? なんか女性は集団でないと行かないらしからねー。ほんと理解しがたいわ。


 そう溜め息をついて、俺は血流が戻るのを待ち、今日一のチャンスを逃した。

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