めんどくさがりの家で合宿、それはお泊まりって言うね 2
「うっわ、ドッスン先輩マジ邪魔ッス」
「八神君どこかしら? 直ぐに会いたいわ」
「遥か見果てぬ先ですね。諦めてその赤い甲羅はドッスンさんとメンチきりあってる奴にお使い下さい」
「あっ、あー! 君、今あたし売ったでしょ?!」
「ふっ、ドベとドベ手前が何を」
「……」
「テンパ? 今ホーミング放った? ロックオンおかしくね? 自分の後ろの奴を狙うのはおかしくね?」
「濕っ……?!」
「ふふふ正に無敵! 俺に勝てたんなら幾らでも呼んでやらぁ、てめぇ! コントローラーへの攻撃は規定違反だろ?!」
「なる程」
「なーる」
「なに? なんで群がってきてんの? 画面見て画面! コントローラー盗るとか神をも恐れぬ所行?!」
「死なば諸共とも言うわね」
「あたしより下を作れば相対的にあたしの順位はうぷ」
「敵しかいねぇ!」
「そうね」
「そうだねー」
「そう」
ですよねー。分かってましたよ。
配管工がスピード違反するゲームを弟の部屋から強奪してきたよ。どうやら弟は部屋にいなかったから恐らく一階のリビングだろう。
お礼におさげに宝の在り方を示したヒントをメールしておいた。弟は嬉しくて泣くに違いないね、きっと。
次々とゴールしていく中、漸く取り戻したコントローラーを操作しようとしたら通信を切られていた。そこまでするかね?
「勝ったよ〜。じゃあ、はい」
「そうね」
「濕」
やべえ、全員名前知らねえ。
いつも通り流れ落ちる汗は夏のせいにするとして、今にも襲いかからんばかりの野獣(女性)どもはどうするかな?
なんか変な空気を醸し出していたので、困った事は力で解決を旨とする僕ら決闘脳は、いざはや討たんとばかりに戦闘が始まろうとしていた所で、よく考えたら死ぬのは俺だなと気づいた。
姉と同種が三名と搾種の俺。骨も残らんね。
だから、顔を上げた俺はキメ顔で言った。
「ゲームをしよう」
闇とか賭けとかじゃなくね? 平和的に。
うん。なんも賭けとかしてないのにね。さっきね、売り言葉に買い言葉でね? あの、土下座でなんとか?
しかし、日々姉で鍛えられている俺にとっちゃこんな状況は窮地にもなりゃしない。幾通りもある対処法から最善を選びとり咄嗟のアドリブもこなして見せよう。
見よ! 我が妙技!
「じゃあ、飲み物とお菓子持ってくるわー」
「待って」
茶髪が俺の腕を掴む。
ぐう。天地魔闘も無敵故に一瞬の間が出来た様に、完全無欠のスルースキル故に出来た間を捉えるとは。
「お前には負けたよ」
「えっ? うん、勝ったけど。じゃあ、名前呼んでよ。なんか君から茶髪ってしか呼ばれてない気がするんだよねー」
恐ろしい娘?!
「なんで驚いてんのよ?!」
「次は烏龍茶がいいわ」
「濕」
なんでそんなに自由なんですか? 虐げられる弱者の心がわかんないのか? あんたたちには!
しかしこれも好機とばかりに部屋を出ていこうとしたら、茶髪がついてきた。なんで?
「いや、まさか逃げたりしないよねー、って監視」
恐ろしい娘?!
「いやー、ほんとは手伝いについて来ただけだったんだけど……なんでそこで驚いた? 詳しく」
「ははは、分かったから拳で頬をグリグリするのはやめたまへ」
仕方ないので茶髪をつれてキッチンへ。
予想通り弟はリビングでテレビを見ていた。おさげは一端家に帰ってようだな。ちぃ。今のうちに噛み締めていろ! 命ある時間をなぁ!
「どしたの? なんか悪い顔してるよ?」
「お茶に何を仕込もうか考えていた。山葵やカラシは固形物だから見た目でバレるよね? いっそ酢でも入れようかと思ったが、意外に健康になりそうな気がして、悩む。意見を聞こうか?」
「いや、そういうの要らないから」
マジか。パーティーピープルとか言われる種族は親愛の印をそうやって表すって聞いたことがあったから、つい。俺? 俺は日本人だから遠慮しとくよ。そんなん入れたら飲めやしねぇ馬鹿なの?
「レラパーリナイとか言ったら成立するって聞いたから」
「レラパーリナイ」
あれあれ? 茶髪さん? それは俺のコップだよ? そんな山盛りに塩を入れたら死ぬと思うんだが?
俺が指を口に当てながらハワハワ言って恐怖に震えているというのに、茶髪は何が可笑しいのかクスクス笑ってなさる。
みんな見ろ。これが身のうちに住む憎しみと怨みの化身(女性)だ。マジぱない。そりゃ姫も怖がるわ。
俺がガタガタと震え出したというのに、茶髪は何故か鼻歌を歌いながらお茶の準備を進め出した。人でなしぃ! そう。女性は人に含まれません。人科女性目です。
「ねー、あの金髪の娘って何飲むのー?」
「なんでも飲むんじゃね? でも多分甘い系の方がいいと思う」
冷蔵庫からジュースをとり出して茶髪に渡す。茶髪がジトっとした目で俺を見ていた。テンパの真似だろうか? 似ていない。
「ふーん。ちなみにあたしは?」
えー? いや、あたしはも何も好きなの持ってったら良かろ。なに、馬鹿なの?
俺は茶髪に『仕方ない奴だな』と言わんばかりの微笑を浮かべ、棚から青汁の元を取り出した。
茶髪がひったくって俺のコップにイン。
…………。
「ちなみにあたしは?」
ヤバい。どっからループしてる? 誰も死んでないっていうのに巻きもどってるよ。
「お前も甘い系だろ。炭酸、コーラしかないけど、ええ?」
肩をバンバン叩かれた。当たりハズレどっち?
「兄ちゃん。邪魔して悪いんだけど」
弟がリビングから顔を出して声をかけてきた。
「俺、今から出掛けるから。兄ちゃん以外みんな出てるから、お客さんが来たら自分で対応してね」
俺は崩れ落ちた。
「え?! なに? どしたん?」
「あー、気にしないでください。病気みたいなもんで」
せっかくの、せっかくの一人タイムがぁあああ?! うぅぅぅ万物に宿りし神よ。せめて、せめて一日遅ければ! 勿論休みがじゃないよ? 怪物の襲撃がさ。そしたら今日が休みでさ、明日も居留守で休みでさ。あれ? 夏休みって長いお休みじゃなかったっけ? もうお休みつってハハ。
「ほらー、いくよー。もいっこお盆もってー」
「じゃあ、ごゆっくり。兄ちゃん行ってきます」
パタパタと弟が出て行く。仕方ないので立ち上がると茶髪は盆を一つ持って待ち構えていた。
二人して二階へ。
自室の扉を開けて入っていくと、黒縁とテンパが仲良くバトっていた。
「……この短い間に何が合ったのかしら?」
「涙」
ん? 何がだ?
俺が首を傾げた隣で茶髪が手早くお菓子を広げながら言った。
「あー、持病らしいです。突発的に泣くの」
え? 誰誰? 誰の話?
「そう。難儀ね」
「……」
俺も腰を下ろした。その手前に茶髪がコップを置いてくる。これ飲むと思ってんの? それとも飲めって無言の主張?
よく分からず茶髪に視線で説明を求めると、目が合った茶髪はニッコリと微笑みを返してきた。こらアカン。
俺が、背中に汗をかくのは流石にもう夏のせいにするには無理があるんじゃねえの? このままじゃ脱水で死んでしまう……はっ?! これって完全犯罪計画なんじゃなかろうかと思い始めた所でチャイムが鳴った。正に俺の為に鳴る鐘よ、ありがとう。
「おっと、お客さんだなー。いかなきゃなー(棒)」
流石に今度は誰も引き止めなかった。
玄関を開けると低身長でショートカットの少女が緊張した面持ちで立っていた。初見だな? 誰だお前?
「うち新聞は三部とってるんで」
閉める扉に少女は足をねじ込んできた。できる?!
「ち、違うッス! 自分は文芸」
「神は信じてますが、信用してないので」
「無宗教より手酷いッス?! ここは八神先輩の家ですよね? 亜丞先輩に呼ばれて」
「むしろ喚ばれて?」
「魔物扱いは酷いッス?!」
なんか一々反応するのが面白いな。
こちらが一言返す度にくるくる表情が変わるのは見てて飽きない。うむ。これなら家に入れてもいいかもしれない。決して先輩呼びに心揺れたわけじゃない。
「ああー、文芸部の子か。話は聞いてるから」
「はっ、はい! 御紹介に預かったと思いますが、文芸部所属一年の虎舵屡鹿って言います。今日は作品を書くとか言われて」
ぐっ。可哀想な娘。
虎舵と名乗った少女はミニスカートにパリッとした半袖のシャツに黒いネクタイをしたシックな格好をしていた。
「じゃあ先輩二階にいるから上がって」
「はい、じゃあ失礼します!」
フンスーと気合いを入れているが、部長を含めて文芸の事考えているのは君だけだと、力を抜くように言うべきだろうか?
「お邪魔します! 自分、中学までは運動部だったんで! 今、一生懸命亜丞先輩の作品読ませて貰って勉強中で、多分お役に立てる事はそんなにないと思うんですがなるべく邪魔にならないように隅の方で見学しつつご助力できるよう」
「落ち着こう」
ハッと顔を上げると照れたように頭をかく虎舵。なんだろう。初めて他人事なのに涙腺ゲージが上がっちゃったよ。
「落ち着いて、よく聞いて。多分経験したことないような事態が君を待ってると思うけど、部屋の扉を開けても冷静に対処するように。いいね?」
「はい!!」
キラキラした目がまぶしかった。誤解を解かないことを考えると俺も大概だなと思ったが、きっと俺に流れている血が悪いんだなと諦めた。あのね、二階は魔窟なんだよ? 心の中でフォローしたので勘弁願いたいなぁ。




