めんどくさがりと蕪沢 3 死合
恋愛物にしたかったんだ恋愛物にしたかったんだ恋愛物にしたかったんだ。
今ではよくわからない。
仕方ないね。主人公がことごとくフラグかわすんだもん。痛い目にあわせるしかないね? 体に教えてやるんだよ。
尻尾が待っている場所の住所と電話番号を書いたメモを家に置いていたので、一旦家に戻った。
メモにある住所にたどり着いた頃には、日が暮れて来ていた。
夕暮れ時だ。
黄昏時とも逢魔が時とも言う。人が魅入られる時間帯。
朱に染まる空に、尻尾が居るであろう道場の門は不気味に映った。
知ってる。この門重いに違いない。
最強でも弟子でもない俺はインターホンを探した。……ない。来客拒むとか…………便利。今度親に提案してみよう。
慌てる事なく携帯を取り出して尻尾に電話する。これでココに居らず、普通に風邪とかだったらどうしよう。お見舞いに変更だね?
『プ、ッチャ。ハイもしもし。八神?』
ひぃーーー。
「お、おぅ」
Oh!
『……電話を掛けてきたって事は、来てくれたのね?』
たった今絶賛後悔中。みんな見てくれよな!
「ま、まぁ……」
『道場の前よね? 家は――――ないわね。知らないだろうし』
「お前さぁ、学校休んだ理由って、…………やっぱりアレからずっとココにいたからか?」
『そうよ』
「…………俺、行くって言ってねーんだけど?」
『ええ。私が好きで待ってただけよ?』
いけしゃあしゃあと。
「…………まぁ、俺来たから。もういいんだろ? 学校出てこいよ。親に迷惑かけんなよ」
『私の目的はまだ終わってないから。――中に入って来て』
通話は切れてしまった。
俺は携帯を見て少し顔をしかめた。
携帯をポケットにしまい、門を押し開ける。意外とスンナリ開いた。
門を開けた先には老人が立っていた。
柔和な顔に白と灰色の袴を来た老人は俺に笑顔で声を掛けてきた。
「君が八神君か。入りなさい。あっちの道場で椎名が待ってるよ」
右手を上げて左奥の道場を指差す。道場主かな?
俺は頭を下げて挨拶をした。
「ちわッス。お邪魔させてもらいます」
道場主が頷くのを確認すると、俺は道場に向かって歩き出した。
「――奄狼殿は、息災かね」
遠ざかる俺の背中に、聞こえるか聞こえないかぐらいの声が掛かった。
疑問というより確認のような問い。俺は足を止めず答えた。
「しらね」
興味ない。後ろの気配が笑ったような気がした。
道場は周りを竹林に囲まれた土地にあった。微かに香る畳の匂いと涼しげな風が俺を撫でる。
道場の引き戸を引く。
土間で靴を脱ぐ。道場の中央に尻尾が袴姿で正座していた。軽く汗を掻いている。
「――――こっちにこないの?」
どこのホラーだよ。
俺は土間から上がった所で立ち止まっていた。近づき難い分けじゃなく、気が進まないからだ。
「もうチョイ色っぽい仕草で誘ってくれね? 俺初めてだから雰囲気って大事」
「そう? 意外。じゃあ私が初めての死合相手ってわけね。光栄だわ。私も初めてだから気にしないでいいわ」
「…………俺、それ断ったよな」
「あなたが断ったのは私のお願いよ。死合じゃないわ」
「じゃあ、断る」
踵を返して帰ろうとする俺に尻尾が声を掛ける。
「あなたが死合わず道場を出たら私はここで自害するわ」
俺の足が止まる。
俺はもう隠しようもなく不機嫌だった。振り返って見た尻尾は真剣な顔をしていた。
「どうぞ? お帰りは後ろよ?」
尻尾が視線で出口を示す。
ハッタリだ。このまま帰れ。大体、俺のせいで尻尾が休み続ける形が嫌だっただけだ。いつまでも待ってるとか勘弁。つーかロマンの欠片もないのは何故?
しかし湧き上がってきたある感情が俺を留めた。シンプルだ。
ああ、こいつムカつく。
再び踵を返すと、俺は尻尾に近づいた。尻尾との距離が五歩程の位置で足を止める。
尻尾がゆっくり立ち上がる。
「ハッキリさせとく事があるわ。俺はお前が嫌いだし、試合をする気もねぇ。学校でつきまとってくんな迷惑」
尻尾は動じず声を返してくる。
「知ってる。死合う前に確認するけど、私は勝ったらアナタの息の根をキッチリ止めてから、私も死ぬわ」
愛が重い。無理心中とかコイツぜってぇ俺の事好きだよ。
しかめっ面が一気に情けない顔に変わる俺。
「……し、試合するんですよね?」
「ええ。死合うわ」
澄まし顔で答える尻尾。尻尾は呼気を整えだす。
今にも弾け飛びそうな程身体に力を充足させていく尻尾に、俺は冷や汗を流しながら聞く。
「もしかして、死ぬに合うと書」
尻尾の顔がアップになった。
一息で間合いを詰められ、腹に掌底を突き入れられる。いつぞや喰らった拳とは段違いの破壊力で俺は吹き飛ばされた。
道場の木製の壁に穴をほがして止まる。グラつく視界に尻尾は居らず、横から再び衝撃が襲う。顔が丸ごと持ってかれたような錯覚に陥る。激しく回る視界に上下逆さまの尻尾が移る。
マジかよ?!
追撃の手を緩めず迫る尻尾に、一旦距離をとろうと、俺は手をつき体を反転させ勢いのままバックステップ。しかし尻尾の方が速い。
目の端で黒髪の尻尾を捉える。左。咄嗟に左腕に力を込めて顔をガードする。尻尾は読んでいたのか、俺の上がったガードの下、左わき腹に蹴りが瞬時に叩き込まれる。俺の体はくの字に折れ曲がり再び吹き飛ばされる。
右足を畳に突き立て、引き摺られる様に威力を殺す。
「――これで本気になって貰えるかしら?」
尻尾の声が耳元で聞こえた。
咄嗟に横っ飛びをかますが、尻尾の姿は捉えられず、背中に掌を当てられる感触。――――ヤバい!
ズン
尻尾が畳を踏み抜き掌底を放つ。俺の体に走ったのは衝撃ではなく電気。肉の焦げる匂いと薄く煙を上げながら、俺は突き飛ばされた。
数歩先で倒れ伏す俺に尻尾は冷めた視線を送ってくる。しばらくすると、尻尾は踵を返した。
致命傷だろ。めちゃくちゃ痛ぇ。なんだよ化け物じゃん。訴えたら勝つるな。このまま寝てよ。めんどくせぇ。やっぱ女は。ダルい。なんかビリっときた。殺されんのかね。構うかよ。我が儘にも程がある。傲慢。断ったっつうに。人外だよ。俺なんかしたか。関わる事無かった。優しいとか笑う。嫌なだけだ。皆無結構。アチコチ痛ぇ。病院かな。人呼べば良かった。爺黙認か。死ぬとか嫌だわ。続きまだなんだけど。尻尾も死ぬとか言ってたな。しらね。勝手に死ね。生きるのってめんどい。キチィしツラいしクルシいし、体動かすのも考えんのも呼吸すんのも心臓の鼓動が続くのもダルい。なんだ、
いつも通りだな。
軽く息を吸う。痛みを無視して立ち上がる。肋骨に頬骨、肺に背筋が悲鳴を上げる。無視だ。
尻尾は飾ってある日本刀に歩み寄っていた。イカレが。
尻尾に声を掛ける。
「武道を歩き始めたばかりのヒヨッコは『残身』も知らねえのか? 前もそうだったが、二、三度撫でたぐらいでもう勝った気か? めでたいなパー女」
俺の声に、尻尾は日本刀を掴みかけた手を戻す。ゆっくり振り返る。
「トドメを刺したら終わってたわ。随分な言いようね?」
尻尾は徹頭徹尾表情を変えず、冷たい視線を投げかけてくる。
俺はヘラヘラ笑いながら答えた。
「お前にゃ無理だ。たらればとか、いくつだお前?」
俺の発言に尻尾の雰囲気が変わる。徐々に空気が張り詰めてくる。
尻尾が膝を抜く。見た目には変化ないが一挙動で飛び交ってこれる体勢だ。重心が踵にかかる。
肌がヒりつく空気の中で俺は呼吸を整える。最早日常だ。緊張する言われもない。尻尾に声を掛ける。
「まだ聞いてなかっ」
台詞の途中で尻尾が視界から消える。ワンパターンが。
左に体を開く。目の前に尻尾がいた。目が合う。
そこで初めて尻尾の顔色が変わる。微かな変化だが、尻尾は攻撃をせずに被我の距離を空ける。
「たが、俺が勝ったらなんかあんの?」
尻尾の姿から目を離さず、さっき途切れた台詞の続きを紡ぐ。
尻尾もここでは答えを返した。
「私を好きにしていいわ」
「ふざけろ」
鼻で笑い飛ばす。どんだけの価値だよ。
尻尾は先程と違い、直ぐに距離を詰めてこず、俺を中心に流れるように左方向に動く。
構わず話しかけた。
「さっさと済まそうぜ。ここから家まで遠いんだよ」
惚けた台詞を吐き出しつつも尻尾から視線は外さなかった。
尻尾の姿が尾を引く。緩急をつけた足裁きで近づいてくる。タイミングが取りづらい。
「チィィ!」
瞬間的に霞む尻尾。俺は右に体を開く。いない。
左側に気配を感じ振り向く。顔の横に足が迫っていた。
鈍い音が響く。ギリギリ防御が間に合ったが左腕に衝撃が浸透する。尻尾は右足を引く勢いを利用して左足を跳ね上げる。狙いは――――左腕。
最初から左腕狙いか?!
軌道上にある頭は引くのが間に合ったが、痺れた左腕の反応が鈍い。尻尾が足を振り切る。
ボギッ
左腕が折られる。構わず、未だ空に浮いてる尻尾の背中に右上段の回し蹴りを放つ。
尻尾が右手で受け止めようとするが、踏ん張りの効かない空では無駄だ。俺は足を振り切る。
尻尾が右手を起点に俺の足を飛び越える。
なんだソレ!
今度は足を振り切った俺の体が崩れる。尻尾が詰め寄り左手で崩拳。俺の右わき腹に入る瞬間、俺は力の方向に跳び衝撃を流す。飛ばされる俺に尻尾が一定の距離でついてくる。今度は警戒してるのか追撃は無かった。
再び距離を空け対峙する。今度は尻尾が挑発してくる。
「私、口だけの男って嫌いなの」
「俺は減らず口叩く女好きだけど?」
軽口を叩き合うもお互いから視線は外さない。
俺の顔から汗が滴り落ちる。
尻尾が溜め息を吐き出す。冷たい表情に失望の色が混ざる。
「九年待ったのに。いないものね」
「四日だろ。馬鹿女」
尻尾はもう反応を返して来なかった。
只、表情は感情の色を無くし動きは研ぎ澄まされていた。
視界にしっかりと捉えていたにも拘わらず、尻尾の動きに反応出来なかった。
あの行き止まりで打たれた拳を再び撃ち込まれる。
ほんの刹那の速さで三歩に到達。うねりを上げながら大気を掻き分ける拳は、今度は軌道を変えず腹に撃ち込まれる。
腹が爆発したようだった。
口から血を吐き出す。道場の端から端へ吹き飛ぶ。木材をぶち抜き漸く止まる。尻尾は追って来なかった。
立ち上がった時は、心に震えが走った。
日々を追う毎に色が消えていく世界で、漸く会えたように思えた。
探してたモノが見つかった気がした。
だから喰らいついた。離すつもりは無かった。
強引でも何でも確かめずにはいられなかった。
これから先なんてあるのか分からない。漸く掴んだ機を逃す事は出来なかった。
私は文字通り『必死』なのだ。探し続けた物も捜していた者も、九年で漸く一つ。これで無いのならもう無いのだろう。死すら厭わない。
可能性はあるように感じたが、拳を交える度に期待は減った。絶望感が増えていく。
一瞬見えた希望も心の震えも、絶望の落差を高めただけだった。また違った。
貫手で体を貫いても良かったが丹田に練気を打ち込んだ。恐らく死んだだろう。結果は変わらない。
体に残った負荷を気息を使って散らす。意味ないのに。私も逝かなければ。
ガラガララッ
突き破った壁から彼が出て来た。私の息が一瞬止まる。
彼の左腕は折れており、服は腹部がボロボロに敗れ血がにじみ肋骨は折れ、左頬骨は砕け背中は焼け焦げている。有り得ない。立って動ける訳がない。
だが彼の表情は相変わらずどこかボーっとしたもので、致命傷を受けたとは思えない足取りで私に近づいてくる。
実に自然体で、なんの問題もないと言わんばかりに近づいてくる。
私の心の底で、何かが湧いてきていた。
人と関わりを持つってめんどくせぇ。一人でいるのがいい。自由で落ち着いていられる。
繋がりを持つってめんどくせぇ。何が何の引き金になるか分からない。クソ喰らえだ。
どっかで間違ったとかいうけど、そんなもん分かるか。別の間違いをまた冒すだけだ。どこもかしこも詰んでるから『運命』って言うんだろう。いつか命を運ばれちまう。上等。
飛びそうになる意識を繋ぎ止めると、俺はスイッチを入れた。
体中の細胞が目を覚ます。体が不気味な軋みを上げる。エンジンが変わった事によって血流も速くなる。痛みも吹き飛ぶ。朧気に体の周りを知覚できる。
頭も冴える。ブラックアウト寸前の意識が戻ってくる。視界が空ける。
なんだ。楽勝。簡単だ。キチガイ女をぶっ飛ばす。それで家に帰っていつもの生活。茶髪に本を返して貰おう。弟をからかい姉から逃げる。こんな『やっつけ』終わらせて。
予備動作無しに立ち上がり出て行く。物置の中にいたようだ。俺が空けた穴から道場の中へ。
尻尾が驚いた表情をしたが、しったこっちゃない。俺は距離を詰める。
尻尾の間合いに入ると、尻尾が高速移動。腕が折れてる左側に回り込む。
尻尾は右手で細かく突きを放つが、全て最小限の動きで避ける。頭髪が数本持ってかれ制服が少し裂けた。
足を止めた尻尾の左手が持ち上がる。親指を曲げ他の指も緩く曲がった掌を丹田に押し当ててくる。尻尾が畳を踏み抜く。瞬間、俺の体に電気が流れる。
左足を一歩後ろに。体に走る電気を左足まで流す。左足の周りの畳が爆ぜる。
驚愕の表情で一瞬固まった尻尾の襟を掴んで放り投げる。尻尾は空で一回転すると足から着地した。
未だ無傷の尻尾に満身創痍の俺。ダラダラ闘い続ける気は無かった。
再び対峙する尻尾に言った。
「全力で当ててみろよ」
罠だ。だが尻尾は乗ってくる。俺はその場に立ち止まり右手を引いた。
尻尾はぶるっと身震いすると口角が持ち上がり――――笑った。
尻尾は更に気息を整えた。深く吐いて短く吸い、息を止める。
尻尾の髪留めが弾け髪が広がる。
尻尾は構わず前へ。
狙いは俺の丹田。
俺の懐に一刀足で飛び込み踏み込んだエネルギーを腰に。
止まる事なく腰を回し右拳に。
止めた息を一気に吐き出すと同時に右拳が加速する。
更に衝突の瞬間に体重を掛け、腹を撃ち抜くつもりで突き込んでくる。
正に全力の一撃が、狙い違わず俺の腹にはいる。
――ここで始動。
刹那。
突き抜けるダメージを無視し、泳ぎそうになる体を保つ。
足の指が畳を掴み陥没する。
吹き飛ぶはずの体を耐えさせる。衝撃で周りの空気が撓む。
全力で突き込んだ尻尾が、技の後の硬直に陥る。
やはり腰の捻転を加えた後は一瞬固まる。追撃は、出さないのではなく出せない。
引いていた右拳を突き出す。
技も何もない。只の暴力。
速度は圧倒的で尻尾に急迫する。
尻尾が左腕を軌道上に置けたのは正に神速の反応だったが、左腕をバキバキにぶち折り弾かれる。
俺の右拳が尻尾の左胸に到達。空間が波打つ。
そのまま振り抜いた。音は後からやってきた。
砲弾の様に水平に飛んでいく尻尾。道場の木製の壁を突き抜け外に飛び出していく。竹の折れる音が響いた。
俺はスイッチを切った。
残身? クソ喰らえ。疲れた。全身が休息を求めて止まんがな。もう明日は休む。いつでも休む。
戻ってきた倦怠感が全身を包む。左腕は上がらず、突き込んだ右手も血だらけだ。怪我を数えるのも馬鹿らしい。
それでも歩いた。
靴を履き尻尾が飛んでいった竹林へ。歩みはトロトロと遅い。歩く度にどこかがビキビキと音がした。
尻尾は竹を三本ブチ折って止まっていた。竹に背を預けている。
意識はあるらしく顔をコッチに向けてくる。
俺は嫌な顔をする。うへぇ。
「意識あるのかよ」
思わず洩れた本音に尻尾が反応する。
「うん」
尻尾は髪がほどけ透明な表情をしていた。やはり四つは幼く見えた。
口の端には血の泡がついて、胸は陥没していた。拳の痕がアリアリと残っている。尻尾は一度血を吐き出すとポツリと呟いた。
「……わた、し、……しぬ?」
「死なねーよ」
かなりヤバいとは思うが、ずっと覗いてた奴が手当てするなり病院連れてくなりするだろう。
俺は溜め息を吐き出す。尻尾はまだ俺を見ていた
「…………いい……よ?」
何が?
不思議そうな顔をしている尻尾を置いて、俺は踵を返した。トドメを刺しにきたわけじゃない。
竹林から抜けると道場主の爺がいた。相変わらず微笑を浮かべていた。どこか面白そうに俺に声を掛けてくる。
「いいのかい? 椎名にトドメを刺しても、椎名の自業自得だ。その後の処理も請け負ってるが」
「ふざけろ」
敬老精神を全開にして殴らなかった。こんな奴無視だ無視。爺の隣を横切る。
クソ爺の知り合いはやはりクソ爺だな。類友め。
朱に交われば朱くなる。俺はこの青さをずっとなくさない。名作だよね。あんな変人共と関わって俺がおかしくなる前に早く此処をでなきゃ。
…………でも体が重いんだよ。
俺は痛む体を引きずりつつ道場を後にした。
家ったよー。
無理。ダルい。
自転車を車庫の前に放置。誰か直すわ。
二階に上がり自室へ。早くベッドに横になりたい。
自室のドアを開くと、姉がベッドに横になって漫画を読んでた。デジャヴ。
「おかえりー。ポテチ買ってきてー」
姉はボロボロの俺に一瞥くれるとそう言った。見て。もっとよく見て。
俺は深く息を吐き出し、ツカツカ姉に近づくと、姉と壁の間に体をねじ込んだ。
「わっ、うわっ、何?」
胸を守るな。
姉は体を起こしたがベッドからは降りず、首を回して俺を見てくる。
「わりぃー……また今度でいい? 今日疲れた」
「いつもじゃん」
さいですね。
再び漫画を読み始める姉。とりあえずお使いは延期できたようだ。
狭いベッドに姉と二人寝転んでいると、眠気が襲ってきた。
黒いローブを着た骸骨が俺を迎えにくる夢を見た。俺はカメレオン的なマントを持っていなかったので直ぐに見つかり、知らない人にはついていっちゃ駄目って言われてるからと、そのセールスを断った。
俺は眠った。




