58.物販の相談
久し振りに一家揃って昼ごはんを食べる。
栄の退院を聞きつけた親戚が重箱弁当を持って駆け付け、襖を外した座敷でちょっとした宴会になった。
叔父がハイペースで発泡酒を開けて聞く。
「栄よぉ、あんな人乗ってない電車でも、駅員ってなぁぶっ倒れるくらい忙しいモンなのか?」
「う~ん……忙しいって言うか、人がギリギリで休み取りにくいし、ここしばらくはスタンプラリーの準備でちょっとバタバタしてて……」
祖母がこちらを心配そうにみつめるのに気付き、三木は言葉を濁した。ツイッターとスタンプの原画作りで睡眠時間が大幅に削れたなどと、口が裂けても言えない。
「スタンプラリー? 全部の駅でやんのか?」
「うん。全駅、違う柄のスタンプを用意して……」
叔父ではなく、叔母と従姉が目の色を変えた。
「栄ちゃん、駅で味噌とかジャムとか売らせてくれないか、駅長さんに掛け合ってくれない?」
「いっぱいお客さん来るから、倒れるくらい用意が忙しくなったんでしょ?」
三木は何年か前、叔母たち農家の女性が中心になって、農協とは別に農産物の加工組合を作ったのを思い出した。
「ウチの……幸瀬駅で?」
「あんな都会でなくても、そこの粟生井駅でもいいから」
粟生井駅は他社との合同駅舎だ。
ぱっと見は大きいが、二木粟生井鉄道の専有部分は小さく、ホームも狭い。乗客が少ないから普通に使う分には問題ないが、物販できるスペースはない。
……スタンプ台も改札外の待合スペースの横になるだろうしなぁ。
目の前の駅事務室に他社の駅員が居て、防犯面では安全だが、そこも物販するには狭かった。
「もし、駅前の駐車場でやってって言われても、大丈夫?」
「パラソル持ってるし、いつものイベントは外が多いから大丈夫だけど……」
……二木あおいグッズの販売も一緒にやれば、物販スペースまで来てくれる人、増えるかな? 許可が出たら、ニローさんにも国包駅で売るか声掛けて、例のクッキー出してもらって……
乗り放題切符の期限は三月末だ。残りの半月だけでも途中下車を増やせるかもしれない。
入院中、長時間眠ったからか、頭が回り始めた。
従姉がスマホをテーブルに置いて聞く。
「栄ちゃん、スタンプラリー、いつから?」
「今週の日曜からの予定だったけど、僕、入院しちゃったから……あ、兄さん、スマホ返して」
「後にしろ、後に! メシの最中に仕事ん電話すんのはよせ!」
兄が出汁巻卵に伸ばした箸を引っ込め、しかめっ面で三木を小突いた。
「時間ないし、叔母さんたちだって準備があるし……ごはん終わったらすぐ返してくれよな」
親戚一家に視線で加勢を求め、兄に向き直る。
兄が溜め息をつき、両親と祖父母も揃って微妙な顔をした。子供たちも微妙な空気に箸を止めて大人たちを見回す。義姉の藍那は末っ子に離乳食を食べさせるのに忙しく、それどころではないようだ。
「じゃあ、もうあんまムリしないで、乗客増やす会の人にやってもらえよ」
兄が渋々言うと、食卓の時間が動きだした。
他のみんなが後片付けする中、三木と従姉は邪魔にならないよう、居間に移った。お目付役として兄もこたつに入り、わかってるだろうなと言いたげにスマホを返す。
「駅長さんに連絡した後、電源切っといたから」
「うん。……ありがとう」
数日振りに起動する。
電話の着信はなかったが、メールはたまっていた。深呼吸して幸瀬駅の谷上駅長に掛ける。
「三木です。谷上駅長のケータイでしょうか?」
「三木君! 退院できたのか? 検査どうだった? 明日、出られそうか? あっ、駅の方は何ともないから、心配ないぞ」
矢継ぎ早に繰り出された質問にひとつひとつ丁寧な謝罪と礼を加えて答え、用件を切り出した。
「あのー、それで、スタンプラリーをするなら駅で物販したいって、粟生井の農産物加工組合から打診されたんです。可能なら他の駅でも周辺の農家さん……二木粟生井鉄道活性化協議会の会員さんを中心に、声掛けしてはどうかとおもうんですけど……」
「粟生井駅に物販できるスペースはないだろう」
「駅前の駐車場はどうでしょう?」
予想通りの答えに、用意していた提案を返す。
「ありゃウチの物件じゃなくて市有地だ。ちょっと役所と本社に聞いてみる」
三木も知らなかった。
……相談してみるもんだなぁ。
「ありがとうございます。ホームとか駅舎内でできる所は、物販の人にスタンプの見張り頼めるんで、他の駅も、聞いてもらっていいですか?」
「わかった。本社に言ってみる。三木君、ウチの代表になって頑張ってくれるのはいいが、あんまり一人で無理するんじゃないぞ。人手が要るなら、思い切って協議会の人に甘えるんだ。いいね?」
「はい。ご迷惑お掛けしてすみません。」
通話を終え、兄と従姉に説明する。
まだどちらとも言えない状況だが、従姉は笑った。
「催し物の準備はひとまとめにしてるから、後は売り物さえ積めばいつでも出られるのよ。連絡が当日の朝イチでも大丈夫」
「流石にそこまでギリギリにはならないと思うよ?」
スマホの充電が残り僅かだ。メールはチェックできそうもない。
兄は、三木がスマホの電源を切るのを見届けて、車を出してくれた。




