表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
起死回生ブレーキ! 二木粟生井鉄道  作者: 髙津 央


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/65

45.特殊技能代

 「さ……三万円ッ?」

 思わず声を裏返らせ、三木は慌てて自分の口を手で押さえた。


 白百合農園の夫婦が苦笑する。

 「絵師さんによろしくお伝え下さい」

 「イラスト描くのって、特殊技能ですから。このくらいが相場らしいですよ。用途とか規模によっては、もっと上の桁になったりしますけど、ウチはそこまではムリなんで……」

 可愛く言った妻に続いて、ニローが滔々と捲し立てた。



 三木はそこまで考えていなかった。

 よく考えれば、自分は三日も頑張ったが、人間に見える形にすらできなかった。あの時の苦い絶望とともに、西口にクッキーの売上の一部も渡す予定だったと思い出す。


 ……そう言われてみれば、確かに、特殊技能だよな。


 ニローの姉も話に加わる。

 「それに、あれだけ話題になったんですから、宣伝効果はばっちりです。単なるヘタウマ漫画じゃなくて、人を惹きつける何かがあるんですよ」

 「は……はぁ、そう言うものですか……僕、絵のことは全然わからなくて……」

 恐縮しつつ、ニロー宛のダイレクトメッセージにパッケージイラストの画像を添付して送信する。


 「お、来た!」

 「新作?」

 「かわいい!」

 西口が描いてくれた新作は、ヘッドマーク風の円の中で二木あおいが敬礼する上半身のイラストだ。


 頭上にデザイン化した「二木あおい」の文字がアーチ状に並ぶ。

 服装は二木鉄の制服ではなく、最初の絵と同じセーラー服のようなそうでもないような微妙なデザインで、これにも二木鉄の社章とロゴはない。


 「ありがとうございます。そのクッキーのセットに付けて売ろうと思ってます」

 ニローが言うと、続きを姉が説明した。


 白百合農園で作ったニンジン、カボチャ、ホウレンソウの粉末を練り込んだ野菜クッキー三種と、ドライストロベリーとココア、プレーンの計六種類を二枚ずつ、十二枚一組を五百円で販売すると言う。


 田んぼと畑に囲まれた白百合農園の直売所は、先程見た通り、人通りが少ない農道に面している。それでも、車で買いに来る人が居ると言う。

 車で買いに来ると言われ、駅から十分の道を思い、三木は何とも言えない思いを飲み込んで言った。


 「……ワンコインで、お得感があっていいですよね」

 「よかったら、お味も見てって下さいね」

 クッキーを作った二人が、緊張の滲む愛想笑いで同時に勧める。

 「いただきます」

 手前の一枚をつまもうとして、ふと西口の顔を思い出した。



 おうちカフェの聳え立つパンケーキ。



 急に手を止めた三木を三人が不安げにみつめる。

 姉が気付き、妻が三木の顔色を窺う。


 「あっ! ……小麦と卵!」

 「アレルギー……大丈夫ですか?」


 「えっ? あ、大丈夫です。食べる前に写真撮って、『これがコラボクッキーの中身です』ってツイートしようと思ったんです。どう並べようかなと……」


 「あ、あぁ、そうでしたか」

 「じゃあ、もっと大きいお皿で、重ならないように並べ直しましょう」

 三木の提案にニロー姉弟が同時に声を上げ、妻がセミロングの髪をなびかせて台所へ走った。



 姉と妻がクッキーを見栄え良く並べ直し、三木とニローがそれぞれスマホで撮る。


 「新作の画像は、ネットに出す時、三六十ピクセル四方くらいに縮小して、海賊版作られないように気を付けましょう」

 「パッケージが完成して、ちゃんとした商品画像ができるまで、新規のイラストは伏せますよ?」

 ニローの申し出に、三木は計画を語った。


 「パソコンでちょっと大きめにプリントしたのをテーブルに置いて、その周りにクッキーの袋を並べてぐるっと……」

 「あぁ、その方がいいですね。じゃあ、完成したら商品画像をお送りしますんで、駅員さんの方でもよろしくお願いします」


 女性二人から、クッキー作りのどの辺に工夫したかなどを聞き取ってメモを取りつつ、試作品を味わう。流石にベテランパティシエのくまくま茶屋には及ばないが、素人の域は軽く超えていた。


 「これ、すごいおいしいです」

 ニローの妻と姉が、お世辞抜きの言葉にはにかむ。


 サクサクの生地が口の中でほろりとほどけ、やさしい甘味と素材の味がふんわり広がる。これなら、ニンジンやホウレンソウが苦手な子供でも喜んで食べるだろう。


 「クッキーの販売は来週の日曜日から始めます。月イチで〆て、月始めに売上を駅に持って行きますね」

 「それなんですけど、会社には絶対、内緒にして下さい。お願いします」

 三木はこたつから出て正座……ほぼ土下座の形で頼み込んだ。


 「あー……やっぱ、偉い人たちはムリっぽかったですもんねー」

 ニローの残念そうな声に顔を上げた。


 姉と妻も、ニローの言葉にうなずく。

 二人も二木粟生井(にきあおい)鉄道活性化会議に来ていたのだろうか。三木は壇上の冷や汗を思い出し、話が早くて助かった、と思うと同時に情けなさに胸が痛んだ。


 「わかりました。じゃあ、活性化会議の次の日にここで集まるってコトで……」

 三木はニローの提案をふたつ返事で受け、白百合農園を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ