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ホットケーキは最後の晩餐
1カ月程前俺たちは冷凍睡眠装置から叩き出される。
叩き出されたあと俺たち、太陽系連邦宇宙軍第100降下猟兵師団の将兵は自分の相棒であるパワードスーツの点検を行いながら、冷凍睡眠で凝り固まった身体を解きほぐす軽い運動を行っていた。
あれが軽い運動だと思っている奴は多分いないだろうけど。
乗艦している全長が十数キロある惑星降下猟兵師団支援輸送艦の外周通路を全速力で走らされ、搭載機整備甲板でやらされる腕立て伏せ100回に腹筋100回にスクワット100回、因みに此れが1セットで最低5セットが1日のノルマ。
文句の1つも言いたいところだが、それを強要している下士官たちも同じだけの運動を行っているんで口を噤んでいる。
今日のノルマをこなしたあと晩飯を食いに艦の食堂に行ったら、メイプルシロップがタップリと掛けられたホットケーキに分厚いステーキ、それに瑞々しいサラダが将兵1人1人の皿の上に盛られていた。
盛られていただけで無く、お代わりもできるぞと食堂の係官が大声で怒鳴っている。
若いルーキーたちは歓喜の声を上げながら、メイプルシロップがタップリと掛けられたホットケーキを頬張っていた。
だけどその皿に盛られた豪華な食事を見たら、俺たち古参兵は素直に喜べない……。
何故なら此の食事が最後の晩餐になるかも知れないからだ。
此の豪華な食事は、乗艦している艦を含む太陽系連邦宇宙軍の艦隊が目的地に到着した事を意味していた。
明日パワードスーツを身につけた俺たちは、敵が待ち構えている惑星に降下する。
そして次に此の艦に戻って来れた時、此処にいる第100降下猟兵師団に所属している1万数千人の降下猟兵のうちの少なくとも三分の一は、いなくなっている筈だ。
それはルーキーだけでは無い、俺たち古参兵も下士官も将校も関係無く平等に戦死する可能性がある。
だから今まで幾度も降下作戦に従事して来た古参の将兵は、此の豪華な食事を素直に楽しむ事が出来ないでいるのさ……。




