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駅から徒歩10分、一見すると5階建ての小洒落たビルこそが「恋AI推進センター」と呼ばれる。所謂お見合いの場所でもある。そここそが今回の弘人NO目的地だ。駅からはやや離れた人通りの少ない場所に構えているのは注目を避ける意図もあるらしい。
義務であるとはいえ、人からここに行く姿を見られるのは恥ずかしいから助かる。
ビルの入り口にフロアの説明書きが書いてあったので見ていると、1階は受付、2階と3階が恋AIカフェ、4階が診断所、5階が恋愛相談センターとなっていた。
弘人が事前に調べた情報によると恋AIカフェとはマッチングされた相手との対面場所、つまりお見合い会場。
それと、恋愛相談センターとは家族や友達に恋愛相談がしにくく、誰かに相談したいという人が恋愛アドバイザーに直接相談できる場所だ。有料ではあるが政府の補助費が出ているため、安い料金で相談できるのでよく使われるらしい。また、恋愛についてのアドバイス講習会なども行われているとのことだ。
そして、最後に本日の弘人の目的地である診断所。ここは今後AIが弘人のお見合い相手をマッチングするに当たって、相手との相性を計算するための情報を取得することが目的とされているとのことだ。
弘人は覚悟を決め、自動ドアをくぐり抜け、受付に向かった。受付の女性に少し気が引けつつも前に立った。
「いらっしゃいませ、本日のご用件はなんでしょうか?」
「あ、あの、診断に来たんですけど…」
まだ高校生で親以外でスーツの女性と話す機会はあまりないため緊張してどもってしまった。
「はい、ではこちらにマイナンバーカードをかざして下さい」
「はい」
言われるがままに財布からマイナンバーカードを取り出し、かざすと「ピッ」と電子音がなった。
「はい、相崎弘人様ですね。14時からの診断となっております。まずはあちらのエレベーターで4階に上がっていただき、待合室にて名前が呼ばれるまでお待ちください」
「あ、はいわかりました」
弘人は女性の指示に従って、エレベーターを使用して4階に向かった。エレベーターが4階につき、扉が開くとそこにはまるで病院を思わせる白を基調とした待合スペースがあった。かすかに香る消毒液の香りも相まってこれから一体何をされるのだろうかと緊張してきた。
弘人の他にも若い男女が椅子に座って自分の番を待っているようだ。弘人も適当な椅子に腰掛けて、本を読みながら待つことにした。
『相沢弘人様、診察室Aにお入り下さい』
アナウンスで自分の名前が呼ばれた。弘人は緊張した面持ちで支持された診察室に入る。そこには白衣姿のおじさんが椅子に仕掛けて待っていた。見た目はまんま病院の診察室だ。
「相沢弘人さんですね」
「はい」
答えると、椅子への着席を促されたのでおとなしく座った。
そして、先生と呼んだらいいのかわからない診察のおじさんから一枚の紙を渡される。どうやら本日の診断メニューのようだ。
「本日の診断は唾液採取、血液採取、身長・体重測定、声測定、写真撮影、それが終わった後にパーソナル診断となります。色々な測定があるので大変かと思いますがよろしくお願いしますね」
「あ、はい、こちらこそ」
想像していた以上に測定する項目が多くて苦笑いしてしまう。
「まずは唾液の採取です。この線まで唾液を入れて蓋をしてから渡して下さいね」
「わかりました」
渡された口が膨らんで唾液を入れやすくした試験管みたいな容器に唾液を入れていく。
(うっ……、結構量が必要なんだなぁ。全然たまらないや)
容器に書かれている線まで唾液を貯めるのに苦労する。診断を受ける際の注意事項がアプリに載っていたのでそれに従って、事前の水分補給とミネラルウォーターのペットボトルは持ってきたのだが最初からつまずきそうだ。
なんとか線まで唾液を貯めたあとは血液採取、身長・体重測定を行った。これらは通常の健康診断とほぼ同じなのでサクッと終わった。
「はい、それでは次は測定室Bに向かって下さい」
促されるまま次の部屋では渡された原稿をマイクに向かって読み上げる声測定、そして正面や横顔だけでなく様々な角度から写真撮影をされる。
そして休憩を挟んだ後、パーソナル診断だ。パーソナル診断は脳波を読み取るというヘッドバンド型の機材を取り付けられた状態で機会音声が読み上げる内容に対する質疑応答から始まり、色々な女性の写真や風景の写真、ショートドラマのような動画などをひたすら見せられた。
診断が全て終わる頃には弘人は疲労でぐったりしてしまった。おそらく今までもこの診断を受けた人は同じような状態になっていたのだろう。診察員のおじさんは弘人の様子を見ても至って平然とした顔で告げる。
「はい、それでは後日アプリにて診断結果が見れるようになります。また、AIによるマッチングも始まるので楽しみにしてて下さいね」
弘人が恋愛推進センターを出ると既に空が赤く染まっていた。




