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「ふっ、お前にもこの日が来てしまったな」
教室で本を読みながら時間を潰していると唐突に話しかけられた。まったくコイツは…、いつも唐突に話しかけてくるからビクッとするのを隠すのにこっちは大変なんだぞ。
平静を装いながら目線を本から幼馴染の矢崎修二に向けると、修二はメガネをクイっと正した。なんかイラっとする動作だな。
「ああ、そうだな」
僕は素っ気なく返答を返した。修二は2ヶ月で伸びた髪は手入れされておらず、ボサボサになってしまっている。誕生日の次の日からはある程度整えていたのに既に戻ってしまっている。
「ほれ、誕生日おめでとう」
そう言って差し出されたのはプレゼントらしき包装がされたものを手渡された。自分で包んだのが丸わかりの大雑把な包み方で苦笑してしまう。
「まぁ、一応礼を言っておく、ありがとう」
「おう、ほら開けてみろ」
修二からのプレゼントは基本、彼オススメの漫画やゲーム、プラモデルなどいったもので当たり外れが激しいのだ。受けっとった重みは軽い。包み紙を貼り付けているテープを丁寧に剥がし、包みを開けるとそれは現れた。ピンクや金、青色の髪のキャラクター。見えた瞬間、そっと包み紙をもとに戻してテープを貼り直した。
「いや、ちょっと待て! 何閉じようとしてやがる!」
修二は焦ったように僕が仕舞おうとしていたプレゼントを奪い取った。
「で、それは何?」
「これは俺のオススメの恋愛シミュレーションゲーム、『星の降る丘で』だ。リアルなんかクソだ! 2次元こそ俺たちの理想郷なんだよ」
修二はせっかく綺麗に閉じたプレゼントの包装紙を自分で破り開け、パッケージに写っているキャラ一人一人の魅力をこれでもかと語ってきた。ビニール包装がされていないことからおそらく自分がやり終わったゲームということだろうな。
「どうせヒロもあれだろ? アプリ登録してウッキウキなんだろ? だがな、そんな甘い話あるわけないんだよ。俺の髪型見て『高校デビューに失敗した感じかしら?』 とか『お友達にいい男いない?』とか言いやがるんだ」
修二は包装紙をグシャグシャにしながらヒートアップしていく。
「しまいには、『まぁ、アンタの友達に期待するのは無駄か〜』とか言って、『面会義務は果たしたから帰るわね』とか言ってさっさと帰っていくんだよぉ〜!!」
周りのクラスメイトが絶叫している修二に一瞬注目するも、またこれかという感じにすぐに意識を外していった。
修二は先日初めて一人の女性とマッチングアプリでお見合いをしたのだが、これがもうひどい相手だったらしく、修二にしては珍しく身だしなみを整えて淡い期待を抱きつつ向かったのだがコテンパンに叩きのめされたのだ。お陰でそれからひどく荒れている。
「どうしたのシュウ? 落ち着きなよ」
荒れた修二に声を掛けてきたのはもう一人の幼馴染の斎藤貴之だった。まぁ、こんな状態のシュウに話しかけるのは僕かタカくらいなものだが。爽やかに話しかけてきた貴之を修二はキッと睨みつけた。
「このリア充が!」
修二はそう言ったが最後、ため息を吐いてどうせ俺なんかと落ち込んで自分の世界に入っていった。それに対して貴之はまたかといった感じで苦笑して肩をすくめた。
「シュウはまた荒れてるね。最初のお見合いが失敗っていうのは自信失っちゃうよなぁ。……それはさておき、誕生日おめでとうヒロ、プレゼントだよ」
そういって貴之は僕に綺麗に包装されたプレゼントを差し出した。ありがたく受け取ると、香ばしい香りが僕の鼻腔をくすぐった。
「コーヒー豆だよ。最近おばさんと一緒に飲むようになったってこないだ言ってたから、父さんオススメのを教えてもらったんだ。マイルドで飲みやすい奴だって言ってたよ」
貴之は俺にはよく分からないんだけどねっとにこやかに言葉を付け足した。さすがタカはわかってらっしゃる。タカのお父さんはグルメだから期待大だ。
「ありがとう。おじさんのオススメなら間違いないな。飲むのが楽しみだ」
さっきまでの微妙な空気が爽やかな風によってリセットされたかの様だ。
「は〜い、ホームルームの時間ですよ。席につきなさい」
「ほら、新田目先生来たぞ。席に付きな」
未だに落ち込んでいる修二を席に行くように促す。
いやしかし、異性との出会いに期待はあるものの、過度な期待は禁物だなぁ。
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