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第9話 目覚めよ!エメラルドプリンセス

♪アダージョ(現在)♪


 だ、だめだっ。魔法の勢いで負ける。


 いくら、ベーシック魔法らしからぬ威力とは言え、相手はマスター魔法曲!


 勝てるはずがない。そもそも、なんで、女声魔法でここまで太刀打ちできているんだろうか。


 自分の体が緑色に光っているのに気づき我に返る。こ、これはまさかっ!?


 エメラルドプリンセス!


 竜族の言い伝えに聞いたことがある。後天的に女になった龍族の男は、心が乙女に染まると、体が光り輝き、古代の調べの魔法を唱えられるという。


 古代には、強力な女声攻撃魔法を唱えられる女人戦士がたまに現れるが、竜族では、後天的女性のエメラルドプリンセスがそれだ。ま、まさかこの僕が身も心も女だなんて。男の僕が、ポエットくんにエスコートされて守られてときめくだなんて変態すぎる。いやあああああ。


 いや、恥じらっている場合ではない。このままでは、魔法の勢いで負ける。ワンランク上の魔法に切り替えるか? だが、敵の炎は目前に迫っている。切り替えの詠唱をする余裕はない。


 ど、どうしよう。こんなところで死ぬのか? 元自分の分身の手で。だが、これも僕の運命なのかもしれないな。そう思った時だった。


 美しいガットの調べが。この曲はギター? いや、少し違う。モダンな音階ではない。まるで、古代の……。


 音のした方にちらりと視線を投げると、ポエットくんが見たことのない楽器、弦のないギターのようなものを演奏していた。な、なにをしようとしているのだろう。


 折れそうなほど圧のあった手元が軽くなる。ベーシックアイスの威力がアップしている? そうかっ! ポエットくんが伴奏で威力をあげてくれているんだ。


「アドバンスアイス!」


 余裕のできた僕はワンランク上の氷魔法を唱える。


「な、なにをっ! こんな! くそっ! 俺がこんなところで負けてたまるか! 今まで俺のことをバカにしてきたやつらに復讐をなしとげるんだぁっ!」


 体をゆらりと揺らすとアレグロは炎を投げる方向を変える。氷魔法は軌道修正に間に合わず。植物を凍らせる。


 アレグロは、草木に炎を放つ。このままでは山火事になる! 


「はははっ! アダージョ! お前の性格なら俺の深追いより消火を優先するだろうな。その間におさらばさせてもらう!」


「待てっ!」


「ははははは!」


 疾走の魔法を演奏し去っていくアレグロ。深追いしたい……が、胸がずきりと痛む。悔しいがアレグロの言う通りだ。山火事にはしたくないし、何よりポエットくんが炎に囲まれつつある。助けないと。


「アドバンスウォーター!」


 水魔法を駆使して、消火作業にあたる。ここは山小屋だ。町からヘルプを呼ぶのも大変だ。なるべく自分たちの力で何とかしないと。


 無我夢中だった。大きくなったポエットくんの凛々しい顔にときめいている場合ではない。草薙魔法、無音魔法で真空エリアを造成、あらゆる手を尽くした。僕もポエットくんも死力を尽くして、火の延焼をとめ、そして、山火事になることを防いだ。 


「ぜいぜい。やったか?」


「浮遊魔法を使って空から見たけど、もう大丈夫みたい」


「そ、そうか。ありがとう。僕の名前はポエット。君はアダージョさんだね?」


 目を細めて僕のことを優しく見てくる。そ、そんな目で見ないで。心が乙女になって身体が光っちゃう!

 

「は、はい」


「君はどこから来たの?」


 アレグロの分身なんて言えないっ! 正直に言ったら嫌われちゃう! 僕はどんな表情をしていたのかわからないがにっこりとポエットくんは微笑む。


「言いたくなかったらいいよ。さて、君の正体よりもこっちの方はちゃんと聞かないと」


 ポエットくんは、呆然としている女性、ゾフィさんに歩み寄る。彼女の家は一部延焼しているが暮らせないというほどではない。


「わ、私は何も悪くないの! ただ、命令されただけなの?」


「何が悪くないか聞かせてもらえるか? こっちは自白魔法もないことはないんだ。隠し立てすると良くないよ」


 ゾフィさんは白状した。うさぎ王国の大臣から、セレナーデさんの死体隠蔽の依頼が舞い込んできたと。そして、悪知恵を働かせたミラゼニアのセルパン長老が、アレグロに罪を着せることを画策したと。


「なるほどねぇ」


 ポエットくんは、ぽつりとつぶやいた。

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