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第5話 牛若と弁慶

♪アダージョ(5時間前)♪


 警備員、人間もロボットも含め、多数に取り囲まれる。


「神妙にしろい!」


 異世界日本で作られたと思われる岡っ引きデザインのロボットが、歌舞伎の見栄のようなポーズを取りつつ十手と呼ばれる武器で牽制してくる。


 コサック兵ロボット、兵馬俑ロボット、古代エジプト兵、モンゴル騎馬兵、異世界地球の歴史上活躍されたとされる多国籍の兵士のデザインが施されている。


 それぞれの民族楽器を使った音楽魔法を浴びせてくる。


「へっ! こんなガラクタ兵器ごときで俺が倒せるだとか俺様も侮られたもんだぜ」


 アレグロは、トランペットを取り出すと、マスターサンダーの音階を奏でる。電撃が全身から飛び出し、ロボット兵器たちへと向かう。


 モンゴル騎馬兵以外は、電撃を受けて、しばらく痙攣した後、停止する。アドバンスファイアーの魔法を帯びた火矢で、こちらに一矢報いようとする。


 だが、アレグロは、一歩たりとも動かず、矢が頬を掠るのを受け入れていた。その姿はまるで、王者の風格だった。


 そして、指先に電撃を集めて発射する。


「喰らいなっ! 名付けてマスター加雷針だ!」


 足掻いたモンゴル騎馬兵ロボットもあえなく、討ち取られた。


 何事もなかったかのようにゆったりと元来た道を引き返そうとする。


『無茶苦茶だよ。早く自首しようよ』


『うるせぇなぁ』


 体の主導権を奪えないまま出口に向かうと、セキュリティホールの前に、色白の美少年と入道のように大柄の男がペアの和装で待ち構えていた。


 異世界では制服を着て身分をわかりやすくしているらしいガードマンたちも、この世界では、音楽性に合ったコスプレをすることは珍しくない。


 見た限り相当なやり手らしい。おそらく、並の魔法省職員より上。さすが重要セキュリティ空間。


「なるほど。そう簡単に外に出させてもらえないってわけか」とアレグロは呟く。


 美少年は、和笛をペン回しのようにくるくると頭上で回す。


「なかなかの手だれのようだな。行くぞ! 弁慶!」


「はいっ! 牛若様!」


 詳しくはわからないが、異世界日本の歴史上の人物を模ったバンドらしい。関係性も含め、元の人物になりきっているようだ。弁慶と呼ばれた男は和太鼓を叩き、牛若はそれに呼応して、雅に笛を演奏する。


 背景が、中央が盛り上がった木製の橋になる。満月が僕たちを照らしている。もちろんこれは敵が見せている幻影だ。


 牛若は、軽妙に飛び跳ね、こちらに風の刃を仕掛ける。欄干から和太鼓の力で、風の威力をアップさせている。


 アレグロは、ムーンサルト宙返りをすると、軽く交わす。声楽魔法も楽器魔法も使わず、この身のこなし。


 そして、トランペットを取り出すと「三振ラッパ」と呼ばれる曲を演奏する。異世界地球の野球なるスポーツで、打ち取られた選手に対して、挑発の意味をこめて演奏するらしい。


 牛若もその曲を聴いて、最初は唖然としていたが、バカにされたとわかったら、歯軋りをして、「なめやがって!」と風の刃を連打する。


 アレグロは、息を大きく吸い込むと、「突撃ラッパ」と呼ばれる軍隊曲を奏で。刃を相殺、いや、攻撃に転じる。


「ぐっ!」


 牛若は、後ろに飛ばされ、腹を負傷する。それを弁慶が全身を持って受け止める。


「大丈夫ですか?」


「まだまだだ。おい! あの曲をやるぞ!」


「やるんですか! カウンターソングを」


 カウンターソング。それは、交互に歌を歌い、うまさを競い合う曲。こちらが挑発するなら勝負をつけようということか。


 牛若と弁慶は、ショートトラックの演奏を行うと、亜空間から、自動演奏人形(オートマトン)が現れる。ドイツ民謡「山の音楽家」の日本語版の歌詞を模った、ピアノを奏でるウサギ、ドラムを奏でるたぬき、フルートを奏でる小鳥、バイオリンを奏でるきつねのカルテットだ。


 たぬきがドラムを奏でると、きつねは小指を立ててマイクを持ち「ご希望の対戦ソングは?」と聞く。


 牛若は、「五七五ソングを頼む」と指を鳴らす。


 その言葉を合図に、カルテットは雅なメロディーを奏で、牛若は吟じる。


「急げども 行きもやられず 草枕」


 詳しくはわからないが、実在の牛若とゆかりのある句らしい。牛若は指先でカモンとこちらを挑発すると暗雲が立ち込める。


 僕はアレグロに語りかける。


『やめなよ。カウンターソングなんて負けたら、大怪我するよ』


 そう。この曲の対決で負けた側には、稲光が下り、全身大火傷を負うという。こんな危険な賭けに乗ってはいけない。


『うるせぇ。俺がどうしようと俺の勝手だろ。なるほどねぇ。歴史上に実在の義経、つまり牛若が奥州に逃げるときに詠んだ句だな。ならば、俺は、義経をかくまった連中を弔う松尾芭蕉の句で対抗しよう』


 彼は教養が高い。僕が知らない日本の古典を熟知している。


 アレグロはトランペットを置いて吟じる。


「夏草や 兵どもが 夢の跡」


 吟じ終えたのを合図にたぬきがドラムを叩き始める。小鳥がフルートで主旋律を奏でる。


「結果発表!」


 狐が大声で叫び、ウサギは伴奏をする。


「牛若 88点! アレグロ 91点! 勝者! アレグロ!」


 その言葉を合図にして稲妻が走り、牛若と弁慶は倒れる。すると、現実世界に戻され、背景がマジカルプライベートネットワーク内の草花に変わる。


「ふっ。こんなもんよ」


 アレグロがネットワークから出ると、魔法省の建物が見える。警備員と魔法省職員が、この体を取り囲む……が手を出せない。


「どうした。やってもいいんだぜ?」


 だが、どの人間も震えて動けない。アレグロはそれを見てにやりとすると、ジャジィなショートトラックを演奏すると、転移空間に移動した。どこかに行こうとしているらしい。


どんな遠くに行くとしても1分で転移空間から出られるはずだ。…⋯と思いきやなかなか転移空間から出られない。


「妙だな。空間から出られない」


僕に聞かせるようにアレグロがつぶやいた。


『マジカルネットワークに障害が出ているのかもしれない』


 確証もない思いつきを言ってみるが、その言葉にアレグロは考え込む。お願いだから、今のうちに冷静になってほしいな。


「なるほどな。確かに転移空間に遅延が発生しているようだ。アドレスの問題か? それともキャッシュが機能していない?」


 アレグロも適当を言っている。さすがにお互いにこの分野においては専門家ではない。


「だが、遅いが少しずつ進んでいるみたいだ。魔法馬車くらいの早さかな。異世界だとスーパーカブなる乗り物と同じくらいらしい。まあ、瞬間移動とはいかないが、時間があればつくだろう」


『どこに行くつもり?』


「⋯⋯」


 答えてくれなかった。まあ、着けばわかることだけどさっ。



 瞬時に、見知らぬ森に到着する。僕は尋ねる。


『ここはどこ?』


『わかってるだろ? ゾフィの家だ』

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