67.だれかきた!
翌朝――。
あの後、すぐに眠くなってベッドにゴロンしたらすぐに寝てしまった。
しかし、横によけていたはずのニクが俺のお腹の上に乗っている。い、いつの間に。
なんだか少し重たいと思ったんだよなあ。
「ふわあ」
あくびが出て、目を擦ろうとしたら左手が……動かない。
反対側の手でそっと毛布をあげて中をチラ見してみる。
なるほど、モニカの指先が俺の腕に絡んでいるな。軽く手を添えているくらいに見えるんだが、そっと腕を引き抜いたら起こさずに起き上がれるかな?
「よっと」
うん。無理だった。
ビクともしない。寝ているから、力加減ができないんだな。うん。
彼女にとって軽くでも、俺にとってはそうじゃあない。
どうしたもんかな。
彼女を起こしたくない気持ちと、目が覚めてしまったので彼女を起こして抜け出すかの間でゆらゆらする。
そんな中、突如ニクの目がパチリと開く。
起きるなり鼻をヒクヒクさせて、俺の首元へ顔を寄せてきた。
「くすぐったいって」
餌が欲しいのか、激しくお尻をふりふりとさせたニクが俺の首に鼻を押しつけてくる。
「朝から……」
お、右手の拘束が外れた。
結局モニカを起こしてしまったらしい。
彼女はボアイノシシのベッドに半分頬を埋め、目元が緩んでいた。
「ニクに大麦をやるよ」
「はい。朝からいいものを見せていただきました」
「直接触った方が楽しめるんじゃ」
モニカはたまにニクを抱っこしたり、ナデナデしたりして頬を緩めている。
モフモフが好きな彼女なら、見ているより触れた方がと思った次第。
「いいのですか?」
「別に俺に断りを入れなくても」
ほれと、ニクのお腹を持ってモニカの方へ向ける。
起き上がった彼女はずずいっと俺ににじりより、正座した。
「では、失礼して」
「えらいかしこまる……え?」
伸ばしたモニカの手が俺の頭に。触れた手で俺の頭を撫で、もう一方の手も伸ばし俺の首元の髪の毛へ指を通す。
じーっと俺を見上げるモニカの口元が僅かに上がり、驚く俺の顔を覗き込んでいる。
「ダメ、でしたか?」
「いや、そんなことはないけど」
「もう少しだけ、いいですか?」
「あ、うん」
撫でられるのって心地いいんだよな。ニクが気持ちよさそうにするのも頷ける。
でも、改めて見てみるとモニカって綺麗な顔をしているんだよな。黒髪黒目じゃないから、日本の高校だと浮いちゃうかもしれないけど、彼女が高校生だったら学校一の美少女と呼ばれていても不思議じゃない。表情の動きが少ないのも、欠点なんかじゃなく彼女の人気をあげるだろうなあ。クール系美少女とかなんとかで。
「どうかされましたか? じっとわたしを見られるなんて珍しいです」
「いや、学校なんかに行ったらモニカはモテるだろうなあって」
「そんなことありません! ですが、学び舎ですか……きっとソウシ様でしたら学校一と呼ばれ、多くのファンが……」
「いやいや、待て待て」
「ご心配なさらずとも、きっと大人気ですよ!」
「モニカの想像の俺は、スカートをはいていたりしないか?」
「……」
黙ってしまった。
この世界の学校がどんな制服なのか知らないけど、女子高校生の格好をした俺とか……そんなことしたらもう学校に行けない。
俺は別に女装をすることが好きなわけじゃないんだ。そこのところを分かっていないような気がする。モニカだけじゃなく、フェリシアも。
「モニカ」
「はい」
「いや、何でもない」
「また、昨日みたいに……」
昨日言い淀んだ事と違い、今彼女に聞こうとしたことは彼女にとって余り気分のいいことではない。
なので、言うべきか悩む。
いや、いいことも悪いことも言おう。
腹を割って何でも話さずして、何が「何でも言おう」だよ。
「モニカが俺を親しい友人として慕ってくれているのは分かる。でもそれは、女装した俺なのかな……」
「違います。女装したソウシ様は素敵ですので、見たい気持ちは真実です」
即答だった。
何がいいのか俺にはてんで理解できないけど、彼女にとって俺の女装は所謂「目の保養」って奴なのかな。
なので、事あるごとに女装をさせようとする。
「男の格好をした俺より、女装の方がいいの?」
「どっちも素敵です。ですが、普段は男性の格好をしているじゃないですか」
「お、おう。もう一つ、とっても嫌な聞き方でごめん」
「まだ何もおっしゃってませんが?」
「うん、だけど先に断っておこうと思ってさ」
「ソウシ様のお言葉でわたしが気分を害すことなんてありません!」
俺の頭に当てていた手を引き、自分の胸の前でギュッと拳を握りしめるモニカ。
そんなモニカに対し俺は一呼吸置いてから、口を開く。
「モニカもフェリシアも、俺をアリシアの代わりだと思って慕ってくれているのかなと考えてたんだ」
「違います! ソウシ様はソウシ様で、アリシア様はアリシア様です! どちらも素敵で、お慕いしています」
「さっき、女装の話を聞いた時に、疑念は晴れたよ。ありがとう、モニカ」
「どちらもお慕いしておりますが、ソウシ様とアリシア様は見た目こそ似ておりますが、全然違います」
一番聞きたかった言葉をモニカが言ってくれた。
俺はアリシアの代替ではない。俺は俺だって。
気にすることじゃなかった。モニカはちゃんと俺を俺として見ていてくれていたんだ!
「一応念のために言っておくけど、俺は男だからな」
「分かってます! でも、そんなこと些細なことなんです。ソウシ様はソウシ様です」
「ありがとう」
「きゃ」
思わず彼女を抱きしめてしまっていた。
彼女は嫌がる様子もなく、俺の肩口に両手を添え、胸に頭を埋める。
サラサラの金髪がフワリと揺れ、香水もシャンプーも使っていないのに甘い香りが俺の鼻孔をくすぐった。
「アリシア様は包み込まれるような幸せな気持ちにさせてくれます。ソウシ様はなんだか……うまく言えません」
顔をあげ、頬を俺の胸に擦り付けながらモニカが自分の心の内を語る。
喋る彼女の桜色の唇が妙に艶っぽく俺の目に映り、ドキリとした。
「モニカ」
「ソウシ様?」
俺の胸から顔を離したモニカの目と俺の目が真っ直ぐになって、吸い寄せられるようにお互いの顔が。
『緊急事態発生。緊急事態発生。何者かがこちらに接近しています』
「うお。ご、ごめん。つい」
頭に中に突如響いた声で我に返る。
「い、いえ……わたしもソウシ様に失礼な……」
モニカは彼女にしては子供っぽい仕草でふるふると首を振り、後ろを向いてしまう。
「誰かが村に接近しているらしい」
「フェリシアでしょうか」
「たぶん。他にこの村まで来る人なんていないしな」
「見に行きましょう」
「うん」
振り返ったモニカと頷き合い、ニクに大麦をやってから外に出た。
まだ、昨日の蟻とアリクイもどきの掃除もしていないんだけど、来客とあれば仕方ない。
まずは迎え入れて、それから掃除なりをしよう。




