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57.狭い

「して、コアラ殿」


 既にカレーライスを完食し、ずっと押し黙っていたベルンハルトが不意に口を開く。

 

「ん……もしゃ」


 また食べ始めているよ。このコアラ。

 まだ「待て」だと言っているのに、勝手に話が終わったものだと考えている様子だ。

 油断も隙もない。

 

「元聖女様――アリシア様に一度お会いしていただけませんかな?」


 ベルンハルトが長い尻尾の先をピンと伸ばし、コアラに尋ねる。

 座りながらであっても、やはり彼は聖女の護衛だなあ。普段の敬礼が身についているようで、格式など必要ないこんな時でも尻尾に態度が出ている。

 うん、コアラにアリシアへ会ってもらえないかってことは俺も考えた。

 だけど、俺には手段がなかったんだよな。

 彼の問いかけにコアラは予想通りの答えを返す。

 

「オレはここから動かねえぞ。ユーカリが無いと倒れるし、ユーカリから離れたくもない」


 うん。コアラならこう言うと確信していた。

 だから俺はコアラに尋ねることをしなかったんだよ。

 

「ほう。では、こちらに連れて参ったらアリシア様を『診て』いただけるのですかな?」


 しかしベルンハルトはこともなげにコアラに言葉を返す。

 アリシアをここに連れてくるだと! 

 彼女の存在は極一部以外には秘匿されている。その極一部の上層部を説得できれば連れ出すこと自体は可能かもしれないけど……。

 国の最高機密兼、モニカやフェリシアはもちろん俺やベルンハルトだってアリシアのことを敬愛している。

 彼女に万が一のことがあれば――。


「おう。いいぜ。ソウシには世話になっているからな。ソウシもアリシアって奴を診て欲しいんだろ?」

「そらそうだけど……彼女には元気になってもらいたいって気持ちはある」

「んじゃ、連れて来たら診るってことで」


 コアラは右手の肉球を俺の方に向け、ひょいひょいっと軽い調子で手を振った。


「いやでも待て! アリシアを連れ出すなんて」

「困難は承知です。実行するとなると動くことができるのは私一人になります。ソウシ殿はこちらでお待ちして頂きます」


 ベルンハルトが落ち着いた口調で応じる。


「俺が行ったところで騒ぎになるだけだもんな……」

「その通りです。それに、神官長やその他上層部、私やモニカ、聖女様(フェリシア)の想いをどうか汲んで頂きたい」

「分かっているさ。みんながどれだけ尽力してくれたかって」


 分かっている。分かっているとも。

 俺がここで隠居生活を送ることができているのも、みんながいろいろ手を尽くしてくれたからだってことをさ。

 王都に行くってことは、この前のように変装して村に行くのとは訳が違う。

 ただ王都のお店で買い物をするだけならともかく、王都に行き、王城、神官長などなど重要人物に会い、アリシアを連れ出すことを説得せねばならない。

 お偉いさんには必ず複数人の護衛が付いたり、他のお偉いさんが同席したりするものなんだ。

 そこから、確実に俺のことは漏れる。

 だって、彼らを説得するには俺が元の「替え玉聖女」じゃなきゃいけないから。

 

「もっとも、失敗する可能性も高いです。その時は私一人でここに参ります故、笑ってくだされ」

「そんな……そんなことするわけないだろ」

「ソウシ殿。元よりアリシア様はおよそ復活が不可能な状態なのです。それほど構えずとも良いのでは、と私は思いますぞ」


 ガハハとこの上なく朗らかに笑うベルンハルトに、ちくりした胸のつかえが取れて行く。

 

「あ、まあ、あれだ。ソウシはヒールをユーカリに施しつつ、魔法の練習でもすりゃいい。ヒールをユーカリに施しつつ、薬草の一つでも探せばいいってことだろ」

 

 コアラが気を遣ってくれていることは分かるが、欲望が混じり過ぎで素直に勇気つけられた気になれん。

 

 ◇◇◇

 

「狭い……やっぱり俺、馬車に行こうか」

「ダメです!」

「いやですう」


 右からモニカが、左からフェリシアが即座に否定の声をあげる。

 それだけじゃないんだよ。俺の腹の上にはニクがお座りして鼻をヒクヒクさせているのだから……。

 まだ、頬っぺたが膨らんでいるし。こいつ、どんぐりを補充してきやがったな。

 

 食事の後、そろそろ寝るかとなって、みんなにウォッシャーをかけたまではよかった。

 ベルンハルトが馬車で休むとなり、俺かフェリシアが馬車に行こうと提案したら「一緒に寝る」となったのだよ。

 ボアイノシシのベッドは二人で寝てもまだニクが挟まる余裕があるんだが、三人となるとやはり狭い。

 小柄なフェリシアであっても、ニクよりは余裕で大きいわけだし。

 

「このベッドはソウシ様がお休みになる場所、ですので主人がいないベッドなど有り得ません」


 モニカがよく分からない理論を振りかざす。

 

「分かった。分かったから、寝よう。寝れば大丈夫だ」


 たぶんね。

 地味にニクが重いので、寝ることができるか分からないが……。

 

 なんて思って目を閉じたら、すぐに眠気が襲ってきてあっさりと眠ることができた。

 

 ◇◇◇

 

 あれから三日が経過した。

 ベルンハルトとフェリシアは翌日にフレージュ村に向かい、俺とモニカはいつも通りこの廃村でノンビリと暮らしている。

 変わったことと言えば、生活に少しだけ変化があったんだ。

 

 毎朝の日課として、ロバの飼い葉の入れ替えに加え、ユーカリの木に一発以上ヒールをかけることを行っている。

 その時だけ、コアラが朝であっても起きてきて俺に魔法を教授してくれる。あれだよ。例の「純粋な魔力」の出し方ってやつを。

 意外にもあいつの説明は的確で分かりやすい。だけど、元々魔力の操作というか構築が苦手な俺にとって、習得までにはまだまだ時間がかかりそうだ。

 他にもコアラは薬草の話もしてくれたりする。

 大半は「ユーカリの木」という枕詞がついちゃうのが、難点なんだけどな。

 もう今更だけど、あいつの能力は無駄に高い。だけど、能力の全てを「ユーカリのこと」に振っている。

 なんて残念な奴なんだ……もう少しバランスよく能力を振り向ければあんなところで餓死寸前にならなかっただろうに……。

 ユーカリの木と直接関係なくても、買い集めるとかユーカリの木を育ててくれる人を雇うとかいろいろやりようがあるだろう。

 あいつの場合、全て「ユーカリの木」そのものの、生育にいっちゃうのがなあ。

 

 日課を終えた俺は屋敷に戻る。

 戻るとモニカがメイド服からフレージュ村で購入した服に着替えていた。

 

「お、早いな。もう準備完了なの?」

「あとはソリの様子を確かめるだけです」


 モニカがお腹の真ん中辺りに両手を添え、頭を下げる。


「ソリって必要かな?」

「もちろんです。ソリに獲物を乗せ、わたしが持ち上げます」

「た、確かに。その方が量が持てるな」

「はい」


 うん、そうなんだ。

 そろそろ肉を補充しに向かおうと思ってね。ついでにコアラから聞いた薬草類があるかどうかも見に行こう。

 風邪ひいたり、怪我した時に有効だしさ。

 備えあれば患いなしってね。

 

「ソリは外に立てかけております」

「分かった。じゃあ、さっそく行こうか。森と山どっちに行こうか?」

「どちらでも構いません」

「今日のところは行き慣れた森にしとこうかな。山には明日行こう」

「明日は大工仕事をされるとおっしゃってませんでしたか? わたしはどちらでも歓迎です」


 そうだった。そうだった。

 ベルンハルトらがせっかく丸太を大量に持ってきてくれたから、大工仕事に挑戦しようとしていたんだった。

 彼のようにうまくはできないけど、やればそのうち慣れて来るよな。

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こちらも間もなく完結となります。

ぜひぜひチラ見していってください!

・タイトル

最強ハウジングアプリで快適異世界生活

・あらすじ

異世界の戦場に転移してしまった主人公がど真ん中にハウジングアプリというチートを使って誰も侵入できない無敵の家を作って戦争を止めたり、村作りをしていくお話しです。

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