48.久々のヒール連打
すがすがしい朝だ。
朝日が開けっ放しの窓……もとい窓枠がない窓の跡から差し込み目に眩しい。
太陽の光をあびると、鼻がムズムズしてくることってないかな?
「はっくしょん」
ふう。
盛大なくしゃみをしたせいか、すやすや眠っていたモニカを起こしてしまった。
そればかりか、俺の足元でごろーんとなって眠っていたニクまで起き出して、俺の頬に鼻先をつけヒクヒクさせてくるじゃあないか。
「分かった。餌だろ。餌」
「くす……ソウシ様は本当にニクに好かれておいでですね」
体を起こして、モニカが口元に手を当てる。
「そんなことないだろ。モニカに懐いているって」
「妬けるくらいニクはソウシ様が大好きな様子ですよ」
そう言って立ち上がるモニカは、パタパタと自分の手で自分の顔をあおぎながらキッチンの方へ体を向けた。
「お湯を沸かしますね」
「じゃあ、俺はニクに餌をやって薬を塗るよ」
手を伸ばしてニクの鼻をちょんと押し、体を起こす。
ニクの両前脚に手を通し立ち上がると、相も変わらずニクは体に力を入れることなくでろーんと伸びる。
麻袋から大麦を掴み平皿に乗せ、床に置く。
ニクを降ろしてやると、すぐに大麦を食べ始めた。
カリカリと前歯を小刻みに動かし、お尻を振っているニクの背中を撫で、体の様子を確かめる。
うん。もう大丈夫そうだな。
痒がる様子も見せないし、剥げていた箇所も地肌を覆い隠すほど伸びてきている。
「どうですか? ニクの様子は」
キッチンからモニカが問いかけてきた。
「もう大丈夫だと思う。お、この香りは」
懐かしい香りが鼻孔をくすぐる。
モニカが薄い布にお湯を注いでいた。この香りはコーヒーで間違いない。
「先日、ソウシ様が育成されたコーヒー豆を乾燥させたじゃないですか。それを使ったんですよ」
「いつの間に乾燥させたんだ……」
「ソウシ様がお出かけになられている間です」
「確かに、何度か俺一人で出かけていたものな」
丸太を乾燥させている時とか、俺だけが外出していた時は多々ある。
細かい時間だと畑に俺一人出ていてヒールをかけている時とかもあるしさ。
「ソウシ様、またフレージュ村に連れて行っていただけませんか?」
「ん? 何か欲しい物があるの?」
「はい。コーヒー用のフィルターが欲しいです。これでは余り上手く淹れることができませんので」
頬を上気させ、口元をきゅっと引き締めるモニカ。
口惜しいのか、カップに注がれていくコーヒーをじっと見つめている。
「ありあわせの材料でコーヒーを淹れることができるなんてすごい事だって」
「この布は……布にもなっていませんが先日収穫した綿なんですよ」
「お、おお。いつの間に」
「ですからソウシ様がいない間に」
何このループ。
モニカは細かいところでいろいろ作業をしてくれている。
俺もこういった痒い所に手が届くちょっとしたものを作っていきたい。
「できました」
「じゃあ、さっそくいただこう」
待ちきれずにモニカの横に並び、彼女からコーヒーが入ったカップを受け取る。
少し揺らすとコーヒーの香りがふわりときて、もうこれだけで満足してしまうほどだ。
「豆乳を入れますか?」
「いや、このままがいい」
充分に香りを楽しんでからコーヒーに口をつける。
んー。
やっぱり朝はこれだよ。これ。
コーヒーを飲むと、頭がすっきりするんだよな。うん。
モニカは豆乳を混ぜてコーヒーを飲んでいる。
でもその顔は真剣そのもので、コーヒーを楽しむというよりは料理人が厳しい目で味見をしているかのよう。
「モニカ。充分美味しいし、楽しめているよ。久々のコーヒーは格別だよ」
「ソウシ様がお好きなお飲み物をおろそかにするわけにはいきません」
「いや、これくらいがいいんだって。手作りが俺たちの生活の基本だろ」
片目を閉じニカっと微笑むと、モニカもようやく肩の力を抜いてくれたようだった。
コーヒーを存分に楽しんでいたら、すぐにコップが空になる。
「モニカ。朝食の準備は任せてもいいかな?」
「もちろんです。ソウシ様はお出かけになられるのですか?」
「うん、ちょっくら畑……じゃなく、厩舎横に行ってくるよ」
「承知いたしました。いってらっしゃいませ」
両手をお腹の辺りに添えて、上品に礼を行うモニカであった。
◇◇◇
ふんふんふんー。
鼻歌交じりに屋敷から出て、厩舎に向かう。
『ひひん』
俺の姿を見とめたロバが顔をあげ嘶く。
「おお、元気がいいな!」
ロバの首と鬣を撫で、怪我しているところとかが無いかチェックを行った。
うん、大丈夫そうだ。
水桶を補給してっと、飼い葉桶はまだ飼い葉が残っているな。
「これなら明日でいいか」
この前整備したミニ牧場に飼い葉は生い茂っている。
昼間は放し飼いにする予定なんだけど、先日から俺とモニカが出かけていたからここに繋いだままだったんだよねえ。
今日は牧場に連れて行ってやろう。
「朝食を食べたらまたくる。待っててくれよ」
ロバに向けそう言い残し、再び屋敷に戻る。
◇◇◇
ほくほくパンにセンザンウロコの肉をスライスし焙ったものにレタスを挟んで、ぱくりと。
お、おお。
センザンウロコの肉は鳥のささ身に近いのか。
モニカがもう一杯コーヒーを淹れてくれていて、これがまたパンに合うんだよね。
コーヒーとパンの組み合わせは至高である。
これがゆっくり生活なんだなあと幸せを噛み締め、いい気分でモニカを屋敷に残し外に出た。
頑張ってくれただろうコアラのためにユーカリの木にヒールするかあ、なんてぶらりと歩いていたところまではよかったんだ。
「ちょ、ユーカリの葉が全部なくなってるじゃないかよ」
若木の幹から伸びる枝に腰かけ、すやすやと眠っているコアラ。
昨日までは生い茂っていたユーカリの葉が一枚もない!
食べ過ぎだろ。いくら七年物のユーカリの木だったとはいえ。
「総士の名において祈る。元気に育ちますように。ヒール」
え、ええい。まだまだあ。
「総士の名において祈る。元気に育ちますように。ヒール」
「総士の名において祈る。元気に育ちますように。ヒール」
「総士の名において祈る。元気に育ちますように。ヒール」
「総士の名において祈る。元気に育ちますように。ヒール」
はあはあ……。
これで十二年物のユーカリの木になった。
目に見えて大きくなったユーカリの木には青々とした葉でぎっしりになっている。
まだヒールを使う予定だから、今日のところは一旦これで。
コアラの寝ていた場所が随分上に行った気がするが、地面に落ちる様子もないしこのまま放置しておこう。
あいつ、ここまでユーカリの葉を食べたんだ。ちゃんと仕事をしていなかったらお仕置きしてやる。
お仕置きはモニカによるもっふもっふの刑だから、覚悟しておけよ。
「嫌だ」と言っても、もふもふし続けるんだからな。
昏い笑みを浮かべつつ、村の北側の裏口を目指す。
お、ちゃんと仕事してんじゃないか。
昨日コアラが土の精霊魔法で作った柵が拡張されている。
ボロボロになった柵と違い、格子状の堅牢な柵は壮観だな。
さて、どこまで頑張ったのかなあ。
「あいつ……やっぱ無駄に能力が高い……」
格子状の柵に手をつき、首を振る。
コアラの奴、どこまで柵を作っていたと思う?
答えは、全てだ。
柵を辿っていったら、元の位置まで戻ってきた。元々開いていた南側だけじゃあなく、東と西にも門ができているという気配りまでやって。
ここまでされたら、怒るわけにはいかないな。
コアラは、ヒール五回分以上の仕事をやってのけたんだから。
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