15.引っ越し
「ふいい。終わったな」
「はい。ご協力ありがとうございました」
「いやいや。モニカあってこそだよ」
お互いに褒め合い、笑顔で頷き合う。
水と風の精霊魔法による埃剥ぎ取り大作戦はここに終結した。
これでこの屋敷の中はどこを歩いても埃でむせかえることはない。
といってもこれでようやく普通の朽ちかけた古い家屋になったに過ぎないことは分かっているさ。
でも、石造りのおかげか床に抜けたところはないし、あとは家具さえ揃えればそれなりに生活できるんじゃないかと思う。
「モニカ、一つ提案がある」
「何なりとお申しつけください」
屋敷の一階に戻ったところで彼女に声をかける。
「二階は後回しにして、一階だけで生活できるように整えないか?」
「良いアイデアだと思います。二階は家具から整え、ソウシ様がぐっすりとお休みできるお部屋に時間をかけて準備させて頂きたいです」
「じゃあ、まずはキッチンからかな」
「はい。それが良いかと」
キッチンにはガスコンロなんてものは無いけど、ガスコンロにあるような金属でできた鍋を留める丸型の爪が二個口備え付けられていた。
爪の下部にそれぞれ燃焼石をセットする台座がある。これはこのまま使えそうだな。
そうそう、燃焼石は薪を燃やすより炭焼きに近い。着火するには魔力を通すだけとお手軽で、これがあるから煮炊きは随分と楽をさせてもらっている。
光石と並び、この世界には必須のアイテムの一つだよな。
「竈と窯は多少の修繕で使えそうです」
俺とお尻をつけるようにして真後ろに立っていたモニカの声。
コンロの裏手には竈と窯が並んでいた。欠けたところがあるみたいだけど、使えるようになりそうでよかった。
「レンガや金属は月日が経っても使えるものなんだな」
「ここは風雨に晒されたわけではありませんので、木など腐るものでなければそれほど痛みはないようですね」
「修繕にどれくらいかかりそう?」
「夕方までには完了できるかと。手伝いは無用です。風の精霊魔法を使いますので」
精霊魔法は大雑把だというのにモニカは細かい作業までこなしてしまうんだよなあ。
本人は自分の魔力量が低いことを気にしていたけど、その分彼女は繊細な技術力に長けている。
んじゃ、俺は俺で作業を進めるとしますか。
コンロの横は何も置いていない平台になっていて、その隣はシンクだった。
どちらも一般家庭用のものより一回り大きい。さすが村長のお屋敷といったところだな。
日本のシンクと異なり、リグリア王国のシンクには蛇口がなく、排水口だけぽっかりと穴があいている。
水道設備がないのだから蛇口があっても水が出ないものな。うん。
「ソウシ様。排水は試さなくても問題ありません。先の掃除で全ての汚れは取れております」
「お、おう」
こんな細かいところまで綺麗になっているのか。
試しにシンクへ水を流してみたい衝動に駆られたが、モニカの手前やめておくことにする。
「それじゃあ、俺はそこのガラクタを外に出しちゃうな」
「お手を煩わせ、申し訳ありません」
「二人でやるのがいいんだって」
さあてと。
ダイニングテーブルは足が欠けているし、天板もボロボロになっているから使えない。
他の家具は朽ちたソファーと床に敷かれている毛皮か。これも全部外に出してしまおう。
ダイニングテーブルを掴もうとしたら、真っ二つに割れてしまった。
そおっと運ばないとすぐに崩壊しそうだな……これ。
多少バラバラになりつつも、外に全てを放り出す。ガラクタのお片付けは後程ってことで。
荷物入れ用馬車に入り、箒を掴み屋敷に戻る。
木くずをはいて、屋敷の出入り口から外にはき出す。
「よっし」
「ソウシ様。こちらも滞りなく完了いたしました」
「おお、早いな」
「いえ、予定通りです」
そっか。俺の方が思ったより時間がかかっていたってわけだな。
「それでは寝具と調理器具、掃除道具辺りを運び込みましょうか」
「いや、その前にやりたいことがある。手伝ってもらえるか」
「もちろんでございます」
メイド服姿のモニカは、いつものようにお腹の辺りに両手を添え、見事な礼を行った。
◇◇◇
「よっし、もう乾燥しているな」
俺の乗ってきた馬車の御者台に立てかけて吊るしていたボアイノシシの皮をポンポンと叩く。
「それは? お持ちになったのですか?」
モニカもボアイノシシの皮に指先を当て、毛皮に沈み込む感触を確かめているようだった。
「いや、これはすぐそこにある森の中で狩猟して来たものなんだ。ボアイノシシの肉もあっただろ?」
「はい。ございました。てっきり、肉もお持ちになったのだとばかり」
「ウォッシャーをかけて、乾燥させておくだけでちゃんとした毛皮になるって教えてもらったんだよ。試しにやってみたってわけさ」
「そうでしたか。この様子ならそのままお使いになられても、品質に問題はないと思います」
「モニカからお墨付きをもらえたのなら、安心だ。これを暖炉の横に敷こうと思って」
「良いアクセントになりますね。素敵です。ちょっと、野性的過ぎますが……」
「上品なのが手に入ったら、それに代えよう」
「いえ、出過ぎた真似を。この毛皮、とても肌触りがよいです」
頬を毛皮につけ両手も毛の中に沈め、目を閉じるモニカ。
これで眠ると気持ち良さそうだけど、流石に毛皮だからフカフカのクッションにはならないよな。
ウォッシャーがあるから、汚れたとしても洗うのは簡単だけど。
モニカの様子を見ていたら、俺も頬ずりしたくなってきた。
すーりすり。おお。いい感じだ。
「何だか眠たくなってくるなこれ」
「ニクの柔らかさとはまた違い、これはこれで素敵ですね」
「ニクはもっふもふだもんな」
「はい」
そういやニクの奴、どこに行ったんだろう?
と思ったら、竈の傍で寝そべっていた。うわあ。リラックスしているなあ。
あれじゃあ、人に慣れやすいというより図太いだけなんじゃあないかと思えてくる。
でも、あの毛皮……モフモフしてていずれ刈り取ってやろう。ふふふ。
「どうされました? ソウシ様」
「あ、いや。これで眠ることができたら気持ちよさそうだなあって」
ニクの毛のことはおくびにも出さない、できた俺である。
「下に藁を敷けば、これで眠ることができると思います。今晩はそうされますか?」
「うん。二人で眠るには少し狭いけど構わないかな?」
「わたしもご一緒してよろしいのですか!?」
何でそこで驚く。
俺たちは一蓮托生。いいこともわるいことも半分こだろ?
「狭くなっちゃうけどね」
「ご厚意、感謝いたします。是非」
「うん」
満面の笑みを浮かべ、グッと親指を突き出した。
モニカもモニカでくすりと口元に微笑みを浮かべ、頷く。
「よおし、運ぼう」
二人でボアイノシシの毛皮を屋敷に運び込む。
この後、モニカの提案で二階の二部屋を荷物置き場として使うことにしたんだ。
二階は部屋が六つもあるし、倉庫にしちゃってもいいかなって。むしろ、荷物入れが無かったから丁度いい。
これで馬車に残る荷物を全て屋敷の中に運び込むことができたんだ。
まだまだ家として完全に機能していないけど、ようやく俺たちの住処ができた。
もっとも、全てを運び込む頃には完全に日が落ちていたけどね。
だけど、屋根の下で食べるご飯はいつもと雰囲気が違って、とても幸せな気持ちになれた。
家っていいなあってね。
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