表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
邪神ちゃんと極大魔法詠唱者  作者: 不屈乃ニラ
第三章:観測者の意志と聖女の思惑
161/203

始源の魔女と常闇の執行者 2

 リタの啖呵に、ロゼッタは一度目を閉じると両手を合わせた。そして、その手を開くと同時に迸る紫電。現れたのは、身の丈を越える漆黒の大鎌。エリスから聞いていた通りだ。リタは口元を綻ばせる。どうやら、別の場所にあるものを分解して召喚しているようだ。


「まさか、こんなに早くこいつを出す羽目になるとはな」


 そう言いながら、ロゼッタは大鎌を振るった。かなりの重量になるであろうそれを、ロゼッタは片手で軽々と振り回す。その途端に、空中に待機していた二千六百四十本の光の矢が地に落ちていくのが見えた。


「成程、面白い。術式で生み出したエネルギー体にも質量を与えられるのか。――――だが、まだ甘い」


 そう言いながらリタが腕を振るえば、即座に矢はリタの後方に整列する。ロゼッタの定義した質量情報を、干渉力で上書きしたのだ。その様子を見ながらからからと笑ったロゼッタは、大鎌の柄を撫でる。


『哭け! イグルド・ナーヴァ――――!』


 ロゼッタがそう告げると、鎌の内側から紫色の光が溢れるように、いくつもの幾何学模様が浮き上がった。やがて、その模様の部分から剥がれ落ちるようにいくつかのパーツが光を纏い大鎌の周囲に浮かぶ。その大鎌の刃の付け根も大きく変形すると、その中央で赤黒い歪な球体が輝き始めた。


 リタは、自身の魔眼が解析した結果を吟味しながら、素直に感嘆の息を漏らす。


「……疑似魔眼を接続した人造魂魄内蔵型とは、中々面白い武器を持っているな。俺にも是非、制作者を紹介してくれないか?」


 ロゼッタは気だるげに大鎌を肩に担ぐと、軽く首を横に振りつつ「もう死んだ」と答えた。それが事実である保証など無いが、きっと事実なのだろうとリタは思う。


「そうか、残念だよ……。これは、面白いものを見せてくれた礼だ――――!」


 そう言ってリタが半身になって右腕を伸ばせば、その周囲を囲むように何本もの細長い筒型の光が出現する。それらは、光の矢を高速で射出するための砲身。所謂、回転式機関銃の要領である。無論、回転させる必要は一切ない。


 砲身の後方に光の矢が整列していく様を一瞥したロゼッタは、こちらの意図に気付いたのか、鎌をひと振りすると転移魔術で姿を消した。


「初速は亜音速――、毎分三千発の魔弾の嵐だ。楽しんでくれ!」


 リタは踊るように優雅に、右腕を真横に向ける。甲高い音を立てて高速回転する砲身から射出されるのは、リタの魔力で加速された光の矢。いくつもの分身を生み出しながら空中を駆けるロゼッタを、追うように右腕を動かせば光の線が空に幾何学模様を描く。


 光に撃ち抜かれたロゼッタは、次々に砂のように崩れ落ちていくが、その度に別のロゼッタが現れる。エリスからも聞いていたが、面白い技だ。空を切り、瓦礫や廃屋に着弾した光の矢は、いともたやすくそれらを爆砕し、土煙で夜闇をドレスアップしていった。


「ふははははははは! どうだ、お嬢さん? ご機嫌な律動(リズム)だろう?」


 リタはそう言いながら、魔弾を放ち続ける。一撃必殺のロマンは勿論最高だが、高速で連射するのも中々心地よいものだ。


「まだまだ若いな、少年! レディをダンスに誘うには、いささかやかましい音楽だ。もっと、落ち着いた旋律を頼む」


 ロゼッタは、時折大鎌を振るいながらも止まらない。大鎌が振るわれる度、空中にはいくつかの魔術が展開されていく。それとは別に、ロゼッタの展開する大量の魔術がリタに襲い掛かる。


(へぇ。先生の意志だけじゃなくて、自律して魔術行使が出来るんだあの鎌。魔力は先生から吸ってるみたいだけど……。今度作ってみようかな? 人造魂魄の解析させてほしいけど、流石にプロテクトが固いね)


 以前にエリスから聞いていた通り、流石は一流の魔術師だ。術式の出所の隠蔽はかなり上手い。並みの術者なら、発動を知覚できないだろう。


 リタは襲い来る魔術に向かって、左手で漆黒の球体を投擲する。これは、先ほどラキが使ったのと同じものだ。中には、超微量のマグナタイト結晶の粉末と薬品の混合物が詰められている。少量の爆薬で破裂すると同時に術式が起動し、静電気により広範囲にまんべんなく中身がばら撒かれるようになっている。


 アンバーからむしり取ったマグナタイト結晶は、超高純度の変質魔素結晶の一種である。即ち、魔力伝導率が周辺の魔素より遥かに高く、魔力を取り込む性質を持つ。これをばら撒くことで、本来魔素と結びつくはずの魔力波を拡散することに繋がり、並の魔術師相手であれば術式を完全に崩壊させることが出来るのだ。


 流石にロゼッタは、魔力の編み方にロスも少なく干渉力も高い。それでも、ある程度の効果はあるようで、いくつかの魔術を封殺し、殆どの魔術を多少弱体化出来た。性能試験の結果は上々と言えるだろう。微量とはいえ、素材に使用しているマグナタイト結晶の価値を考えれば、決してコストは安くないのだが。


 試験を兼ねているとはいえ、わざわざリタがこれを使うのには意味がある。単純に、そっちに回せる脳のリソースが足りなかったのだ。弱体化した魔術なら、片手間でどうにでもなる。右腕で展開している魔術も、最初だけが複雑な構成となっているが、発動してしまえば撃ち尽くすまで勝手に動いてくれる。


 リタはそうして多少の時間を稼ぎながら、並行して精神干渉を受けていた女子生徒の首の痣の解析を実施していたのであった。


(痣の中核部分は簡単に取り除けるみたい。でも、血液に溶けだしている何かと、神経系への癒着の処理が面倒だな……)


「考え事とは、随分余裕じゃないか?」


 後ろから聞こえた声と、喉元に迫る大鎌の刃。刃には、奇妙な文様が刻まれているようだ。威力を最大化するための、術式か何かだろう。リタは刃の先を軽く指でつまみつつ、振り返る。


「――――ようやく手を繋げたな、お嬢さん?」


 振り返ったリタの眼前には、ロゼッタの左手。彼女は無詠唱で炎熱系中級魔術『爆炎撃(エクスプロージョン)』を放ち、立て続けにあらゆる属性の魔術を至近距離で撃ち込んでくる。


「チッ! 全く動じないとは……。化け物か、貴様?」


 そう言いながらも、ロゼッタの顔には笑みが浮かんでいた。リタはその魔術を全て顔面で受け止めながら、一歩ずつロゼッタへの距離を詰める。元より、戦闘でフードが脱げないように、何重にも障壁を張っているのだ。殺すつもりのない術式など、何の問題にもならない。


 ロゼッタは即座に転移で離脱しようとする。だが、それを許すつもりは無い。リタは術式破壊でそれを阻止すると、ロゼッタの耳元で囁いた。


「お返しだ」


 ロゼッタが即座に障壁を張ったのが分かる。大鎌は未だにリタが掴んだままだ。リタは身体を離すと、見せつけるようにロゼッタに左腕を向けた。


爆炎撃(エクスプロージョン)


 リタが高速詠唱で放った中級術式は、ロゼッタを爆炎で包み込む。炎に包まれたロゼッタの姿が溶けるように消えると、大鎌を担いだ別のロゼッタが離れた場所に出現した。右手には砂粒のように残った大鎌の名残が垣間見えるも、すぐに消えていく。


「なぁ、お嬢さん。その()()、使い続けて大丈夫か?」


「貴様のような得体の知れない奴に、心配される程落ちぶれてはいないつもりだ」


 リタの問い掛けに、ロゼッタは淡々と答えた。そう、ロゼッタの分身は全てが本物で、全てが偽物なのだ。彼女の魔眼は、自身の存在を遍在させることが出来る。術式発動時にも、一瞬存在を薄めることで兆候を隠蔽していると思われる。


 とはいえ、あの大鎌も一緒に遍在しているように見えるのは何故だ?

 まさか、あの人造魂魄は――――。


 リタはそんなことを考えながら肩をすくめる。自分が薄まり、揺らぐ。それがどんなにうすら寒い感覚かは、知っているつもりだ。


「そうか。せいぜい、本当の自分を見失わないことだ」


「貴様こそ、そろそろ顔を見せたらどうだ? 案外、そこに転がっている女と同じだったりしてな」


 ロゼッタは、未だに上半身の再生が終わらない魔人を一瞥した。あからさまな挑発とはいえ、あんな魔人ごときと一緒くたにされるのは気分が悪い。


(ま、今はやらなくてもいいことをしてる自覚はあるんだけどね。でも先生も楽しんでくれてるようだし、お互い様でしょ)


「全く、口の悪いお嬢さんだ。少しばかり、躾が必要なようだな」


「やれやれ、躾がなっていない子供はどっちだ?」


 言葉を交わしながら、相対した二人は笑い合う。一方的な感情に過ぎないのだが、リタは少しだけロゼッタと仲良くなれたような気がしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ