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あまたの顔



人の往来する壁のない廊下にたどり着く。

人と構造物が多すぎて混乱してくる。


「ここで電車を待ちましょう」

「ここにいる人間は全員電車を待っているのか?」

「ええ、そうですね」

「こんなに大きいのに、電車だけに?」

「うーん、駅周辺は基本的に賑わっているので、

それを目当てに来る人は多いと思いますが、

改札を通ったホームの人達は

完全に電車を待ってますね」

「そうか…それはなんだかすごいな」

「疑問なんだが、

この国の人口はどれくらいなんだい?」

「えっと…一億は超えていたと思います」

「一…億」


聞いたことあるようなないような数値におののく。


「そりゃあこれだけ集まるわけだね」

『間もなく、三番線に、電車が到着いたします』

「来ます」


メグミの視線の先から、

無機質な双眸を光らせて四角い物体がやってくる。

改めて見ると、これがなぜ動くのかが不思議だ。

国宝級の人材が動かしているのか?。

電車の横腹が開き、

中から人がぞろぞろと出てくる。

中にこんなに居たのか。

乗客から魔力を拝借すれば、

並の人材でも動かせるのだろうか。

人が降りた後、

待機していた人間が前から順に入る。

まるで示し合わせたかのように。


「袴田谷という駅で降ります」

「ハカマダ」


覚えておこう。

電車が動く。


「おお、おお」


馬車に乗った時に僅かに感じる、

進行方向の逆に引っ張られる感覚が、強い。

周りは、シルファン以外は平気そうにしている。

慣れるのには時間がかかるだろう。

よく見ると各々吊り下げられた輪っかを

掴んでいたりする。

見習って掴む。

なるほど、これで体を安定させているのか。

これはなんだか原始的だな。

ユウキはメグミにしがみついている。


「シルファン」

「うん?」


ユウキに袖を引かれる。


「これ何?」


私の服に書かれた、

模様のような肖像のような何かを指さした。


「これは…なんだろう」


ユウキの前で無知を晒すのは、なんだか嫌だ。


「虫…?」

「ペイズリー柄といって、虫っぽい模様ですね」

「ペイズリーがら…」

「覚えておこう」


今更無知どうこうなど遅い話か。

見つめるほど気味悪くなる柄を作るのは、

少し技術の無駄遣いな気もする。


「あれは?」


車内に等間隔に吊り下げられている、

文字付きの絵を指さした。

女の顔がでかでかと描かれ、

読めない文字が下に大きく書かれている。


「うーん、手配書かねえ」

「私にもそう見える」

「化粧の広告ですね」

「化粧か、なるほど」


顔が大きく写っていたからてっきりお尋ね者かと。


「けしょうって?」

「化粧…」


公の場に出る時に何度かしたことはあるが、

自分でしようと思ったことは

あまり無いかもしれない。

やり方は知らないのだが。


「化粧っていうのはね、鎧なの」

「ほう、鎧なのか」

「シルファンさん、ややこしくなるので少し」

「あ、ああ」

「よろいなの?」

「うん、化粧をすることで自信がついたり、

人から一目置かれるようになるの」


謳い文句は鎧みたいだ。

実感したことはないが。


「かっこよくなれる?」

「うん、かっこいい人は多少化粧してるはず」

「ぼくもけしょうする!」

「だが化粧は…」


男が女がどうとは言ってはいけないのだった。


「いや、したければするといい」

「うんうん、

勇気くんなら絶対可愛くなれると思うよ」

「えーかっこいいのがいい」

「どうして?」

「おおきくなったら、シルファンみたいになりたい」

「ほお」


憧憬の眼差しが気持ちよく刺さる。

そうか、かっこよく見えるか。


「ユウキはかっこよくなりたいのか?」

「うん!おっきくなったら、

シルファンみたいにおおきくて、つよくて、

かっこよくなって、みんなをまもりたい!」

「ほほうほうほう」


半分、自分がそういう存在だと

言われているようでとても気分がいい。


「わ、私はどうかな?」


メグミが割って入る。


「メグミちゃんみたいにやさしくなりたい!」

「えへへ」

「私はどうだい?」

「アデーラみたいにかしこくなりたい!」

「ふっふっふ」


三人が各々上手く褒められた。

この歳にしてそういう立ち回りを知っているのか、

はたまた天然か。

どちらにしろ末恐ろしい子だ。


「どういう風に化粧しようか」

「かっこよく!」

「眉毛を凛々しくしてみようか」

「うん!」



「ふー⋯」


各々の服を買った、日用品買った、

消費物買った⋯。

大概は買ったかな。


「ここら辺でお昼にしましょうか」

「うん!」

「いいね、そうしよう」

「何を食う?」


まず第一に聞くべき人物は。


「勇気くん何食べたい?」

「ハンバーグ!」

「お二方は?」

「何食べたって美味いだろうから、

何でも食べてみたいな」

「同意見だね」

「じゃあハンバーグ、食べに行きましょうか」



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