命あっての物語
かつて開かずの扉だったものを開き、
階段をおりる。
「暗いな…」
「滑りやすいので気をつけてください」
建物二三階分下りたところで終わりが来る。
謎の機械が置かれた部屋。
機械はやはり壁を覆うほど大きい。
奥行きを見ると、
部屋の入口から機械までの距離の
二倍は占領しているように見える。
「改めて見ると、大きいね」
「ああ…」
だが大きさの割に、
どの部品が何をになっているのか検討もつかない。
かろうじて白煙や紫煙が出てきた穴は見出した。
それ以外は、
サイバーパンクなのかスチームパンクなのか
分からない構造物が、
所狭しとくっつけられている。
それらの役割は分からない。
「一旦鍵を刺してみますね」
「ええ」
『ガチャ』
「「「…」」」
何も起こらない。
「何か変わりましたかね」
「私には何も」
「魔法の動きもないね」
三人よって何もないように見えるから、
本当に何も無いのないのだろう。
「やっぱりあの、灰色の原本が必要なんでしょうね」
「私とシルファン以外に、あったりするのかい?」
「いえ、
今までで発見したのはお二方のものだけです」
「ふむ、それを見つけたのはユウキか?」
「そうですね、両方見つけて、
私に言わずに向こうの世界へ」
言ってくれれば事前に止めることが出来たのに。
止めることが分かっていたから、
私に教えなかった?。
聡い子だし、あるかもしれない。
「今更だが、この機械を調べる理由って、
ユウキにまたあの世界に
行って欲しくないからだよな?」
「はい、保護者として、
あの子を守るのが義務なので」
「なら、壊した方が手っ取り早くないか?」
「…確かに、そうかもしれませんね」
一応大五郎さんの遺産だから躊躇していたが、
秤にかればどちらが重いかはすぐに判断できる。
「とはいってもどうやって壊すんだい?」
「それは…魔法とか?」
シルファンもアデーラを期待した目で見ている。
「残念だが、
私が今使える魔法はこれくらいのもんだ」
『ふぁ〜』
生ぬるいそよ風が部屋を逆巻く。
「多少の温度変化と軽い物体の移動くらいだ、
物質の生成や消滅はできそうにない」
「なら…」
シルファンに注目が集まる。
細かくはその体の筋肉に。
「私でも、これくらい大きいものだと
道具がなければ無理だ」
「流石にですか」
「ああ」
すぐに壊すのは不可能となれば。
「鍵を壊すくらいですかね」
「貸してみてくれ」
「はい」
貸した機械の鍵を両手でつまんだ。
「フンッ!…ッ!…ッ!」
顔が赤くなるほど力を入れているようだが、
曲がる様子は無い。
「…ッはぁっ…悪い、素手じゃ無理みたいだ」
「仕方ないよ」
「一旦道具取りに行きましょうか」
揃って階段を上る。
「思ったんだが、鍵を隠すだけじゃだめなのか?」
「一度それをしたんですけど、
どうやったのか金庫を解錠して
鍵を見つけられてしまって」
「一度開けられてしまった以上
金庫も信用できないね」
「あの年で金庫を破るとは、なかなかやるな」
「悪いことを覚えないか心配ですよ」
「ははは」
笑い事ではない。
「ーーー」
上から声が聞こえる。
自然と足が速くなる。
「この声…」
「ユウキだ」
「ーーぁ、ーーこぉ?」
声がだんだんはっきりしてくる。
「みんなー!どこー!」
『ガチャ』
「勇気くん!」
「めぐみちゃん!」
顔も見ず抱きついた。
「心配させてごめんね…」
「ううん…」
『ガッ』
頭を掴まれた。
「ずるいー!」
「…?」
ずるい?。
てっきり独りにして不安にしてしまったと
思ったが、この顔はそういう顔ではない。
「どういう…こと?」
「ゆうきくんもつれてって!」
「連れてくって…」
「おそらく、あの歪みの世界か、
物語の世界じゃないかい?」
「あ、ああなるほど。
そこに行ってたと思ってたのね」
「ユウキ、私たちは行ってないよ」
「そうなの?」
「うん、ところで、
どうしてそんなに向こうの世界に行きたいんだい?」
「うーんと、それはね…」
頑張って思案している。
「そう!かわいそうだから!」
「可愛そう?」
何に対してだろう。
「だってみんな、しんじゃうんでしょ?
かもしれなかったんでしょ?」
「ああ…」
「それは…確かに」
二人が思い当たっている。
「それがかわいそうなの」
「そうなの…」
優しい子だ。
だが自分の存在を顧みれてはいない。
「その…ダイゴロウ氏の著作は、
ほかも主人公が最後には死んでしまうのかい?」
「ええ、大抵の場合、
死ぬか行方不明になってますね」
「なぜそんな無体な結末に?」
「それは…本人に聞いたことがないので、
分かりません」
推測でも趣味としか言えない。
「私個人の意見ではあるがね、
やはり物語でも…生きている人間は
多い方がいいと思う。
人が死んでそれがわかるのでは、
あまりにも遅すぎるから」
「うん」
「…」
これは、今の大島家には刺さる言葉だ。
「ただ精神的に満足するだけの
無駄な行為かもしれない。
だが私が物語の世界の人間だった以上、
同じ者たちの最悪な結末を、私は防ぎたいと思う」
「ああ、私もそれには同意する」
「…わかりました」
理由は納得した。
「なら…!」
「でも!あの機械のちゃんした扱い方や、
安全が保証されたらの話です。
私たちが死んだら元も子もないんですから」
「それはそうだな」
「えー」
「まあ今日は遅いし、もう寝ようか」
「そうしましょう」
上手く話が纏まった。
「シルファン」
「ああ、行こうか」
二人は大五郎さんの部屋へと行った。
「実際あるのか?あれの正しい使い方なんて」
「蔵書の中に説明書が
あるかもしれない…という感じですね」
「明日はそれを探すことになりそうだね」
「いえ、
もっと根本的な準備から始めたいと思います」
「はあ…?」




