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ゆびきりげんまん



メグミに言われた部屋に着く。

本に囲まれた寝室であり、

部屋全体が老成している雰囲気がある。

ダイゴロウ氏の、部屋だろうか。


「ふあ…」


欠伸をしているユウキをベッドに横たわらせる。


「ん…」


起き上がって、隣の本棚から本を取り出してきた。


『とある騎士の一生』


題名が読める。

同じ装丁の本を見た時は読めなかった。

なぜ今になって読めるようになったのか。

まあこの世界の、力の賜物なのだろう。


「ごほんよんで…」

「…ああ」


同じベッドに横たわり、本を開く。

今は無心で読もう。



「村人たちはシルファンの銅像を建て、

英雄として讃えました…お終い」


自分の自伝小説らしきものを読むのは、

少し恥ずかしい。

私はあの竜と相打ちとなっていたんだな。

だが私は生き延び、

灰色の本に大軍の進行が追加された。


「…ふー」


この事実を思う度めまいがしてくる。


「ねえ」

「ん?どうした」

「シルファンは…しなない?」


裾を掴まれながら言われる。

突然どうしたのだろうと思ったが、

本を読んでそう思ったのだろう。


「死なないよ」

「ほんとに…?」


掴む力が強くなる。

そういえば、

戦っている最中に死んではダメだと言われたな。

もしかして、私が死にかけたのを見て、

今日ずっと傍にいようとしたのか?。

だとしたら健気な子だ。

かわいい。


「ああ、絶対に死なないと約束する」

「やくそく…じゃあゆびきりげんまんしよ」

「何だそれ」

「こゆびかして」


言われた通り差し出すと、

小さな小指を引っ掛けてきた。


「ゆーびきーりげーんまーん

うーそつーいたーらはーりせーんぼーんのーます、

ゆびきった」

「約束のまじないか?」

「うん」


子供がやるにはやや物騒な文言だったが、

まあいい。


「おやすみ」

「おやすみ」


目を閉じた。

…行けるか?。


『そろ…』

『ギュッ』


…部屋から出られそうにないな。



「ふう」


皿洗いも終わり、一息入れるため椅子に座る。

少し手伝ってくれていたアデーラさんも

席に着いた。


「はーあ」


寝かしつけに疲れていそうな

シルファンさんもやってきて座った。


「お疲れ様です」

「なかなか離してくれなくて困ったよ」

「あの子、まだ一人で寝られないんです、

というか、一人で寝たことがないのかも」

「どうして?」

「ずっと大五郎さんと寝ていたみたいで、

それがこっちとしても習慣になってしまって」

「なるほど」


私だけではお気に入りの本で

やっと寝ようとしてくれるので、

しばらくはシルファンさんに頼ることになりそうだ。


「で…だ」

「ええ」

「はい」


整理の時間。

各々が持ち寄った情報を開示し、

本にまつわる謎の現象について考える。

戻ってきた際に、

シルファンさんの境遇を彼女に伝えたが、

今回は全員の話をする。


「まず、一人一人気になったことを

言っていきましょう」

「私からいいかい?」

「アデーラさんどうぞ」

「二匹のドラゴンとの戦闘の際、

ユウキが叫んだ時に何故か、

私が元いた世界で持っていた服や杖が戻ったんだよ」

「それは私も見たかもしれない」

「私も、

叫んだ時に力が湧いてきたように感じました」


勇気自身もほのかに光ったように思う。


「シルファンの世界には、

失せ物が一瞬だけ戻って来るという現象は?」

「ないな」

「そうだろうね、だからあればユウキの力か、

世界が歪みによって繋がった影響と

考えるべきだろう」


四年一緒に暮らしてきたが、

その能力の発現は初めて見た。

物語の世界との関連性が高いだろう。


「私からもいいだろうか」

「シルファンさんどうぞ」

「この世界に来る以前、

ユウキに私のことが書かれた本を

見せてもらったんだが、

最初は題名すら読めなかったんだ。

だがこの世界に来てユウキの寝かしつけのために

本を手渡された時、

何故か読めるようになっていたんだ」


「それって、日本語の

『とある騎士の一生』ですか?」

「ああそうだ」


彼女の設定では文字を習っていたはず。


「アデーラさんもそうだったんですか?」

「ああ、私もそうだったね」


大島大五郎の著作の世界で、

日本語が読めないというのは、

感覚的ではあるが少しおかしいように感じてしまう。


「お二人共、日本語って分かりますか?」

「ニホンゴって、この世界の言葉か?」

「はい」

「まあ別の世界の言葉だし、

知らないはずなんだが…

何故かメグミ殿とおそらくその言葉で話せるし、

文字も今は読めるよ」

「そういう些事も含めて、

物語の世界だからということで

片がつきそうなのがなんともね…」


アデーラの言う通り、

物語の世界だからで片付けてしまえば、

ここまでの報告はほぼ無意味なものになるだろう。

物語について、作者に葉書を送ったりしない限り、

読者がどうこうすることは出来ないのだから。


「…一旦、別の世界へ渡ることが出来るという

あの装置を、調べてみないかい?」

「そうですね、元はあの装置が発端な訳ですし」




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