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好みと歩み寄り


「ふ〜」


勇気を一時的に寝かしつけることに成功した。

これで夕飯が作れる。

…にしても遅いな。


「う〜」

『ドサッ』


リビングに半裸の女性が二人転がり込んできた。

両方指先から頭まで赤い。


「ちょッどうしたんですか二人共!?」

「いやーなに、

アデーラと語っていたらのぼせてしまったんだ」

「そうそう、親睦を深めようとした結果の賜物さ」

「だからって…あーあー服が

あべこべになってるじゃないですか」

「そうかーどうりで大きいと思った」

「今からでも取り替えるか?」

「やめてください、そのままでいいですから」

「おー」


いつ間に仲良くなったんだか。

とりあえずタオルケットでもかけて、

お茶を近くに置いておく。

早く作らないと、私もお腹が空いてきた。

カレーは昨日で早くも無くなってしまったし。



「ん…」


とてもいい匂いで目が覚める。

ご馳走の匂い。

こんな匂いは…一度宮廷で行われた

立食パーティでも、ここまで強い匂いではなかった。

あの時は男爵のお付きで、

手が出せないのが辛かった。


『じゅうぅぅぅ』


肉汁滴る肉が焼けている音。

肉料理が出るのか。

私はありつけるだろうか。

目を開けて匂いの方向を見た時、

既にアデーラが厨房を覗いていた。


「お、おい」

「あ…しー」


そのアデーラに隠れて、ユウキもいた。

何を焼いているか質問したいが、

静かにするよう促されたのでその通りにする。

厨房を覗くと、メグミが立って何かを左手で抑え、

右手で棒状の何かを操っている。

汗を拭っていて大変そうだ。


『カチッ』


左手の下にある何かを右手で弄った。

肉を焼く音が緩やかになる。


「ふー…」


一息入れてこちらにやってくる。


「わっ!…どうしたんですか揃いも揃って」

「いやあその…いい匂いがしたから」

「何を作っているんだい?」

「ハンバーグですよ」

「ハンバーグ!?」


ユウキが急に飛び上がった。


「ハンバーグ!ハンバーグ!」

「きゅ、急にどうした?」

「ハンバーグが大好きなんです」

「そうか、それは良かったな」

「うん!」

「もうできたので、席に着いていてください」

「ええ」


四人がけのテーブルに、

アデーラとユウキが対面に向かう。

私はアデーラの隣になるだろうか。


「ん」

「ん?」


椅子の前で両手を上げている。


「ああ」


ユウキを持ち上げて椅子に座らせる。


「さんきゅー」


いつものやつ。

アデーラの隣に座る。


「うえ?」


不思議そうな顔で見つめられる。

何かしただろうか。


「となり!」

『ぺしぺし』


一丁前に机を叩いている。


「そこはおそらくメグミ殿が…」

「むー!」

『ベシベシ』

「わかった、わかったよ」


恩がある手前強くは反抗できない。

これは後で怒られるな。


「いよいしょ〜」


四つの皿を二つの盆に乗せて持ってきた。

中身はハンバーグと思しき肉塊と、野菜。

そして白い穀物を立体的な椀に入れたもの。


「きた〜!」


ユウキは先程と同じくはしゃいでいる。


「あ、シルファンさん、そこ私の席なので」

「ほらやっぱり」

「いやー」

「嫌じゃないの」

「シルファンの隣がいい!」


とうとう机から降りて

ぴったりくっついてしまった。


「こら!迷惑になるでしょ!」

「いや、まあ私は構わないんだが」

「なら…お願いします、準備は私がするので」

「ああ」


メグミはユウキによだれかけを装着させ、

ナイフとフォークを正しい握り方で握らせた。


「私よりも扱いに慣れてらっしゃると思うので、

教えてあげてください」

「買いかぶりだが、わかった」


確かに作法として食器の扱い方は習ったが、

そんなものでこの世界に通用するのだろうか。


「皆揃いましたね」

「ああ」

「ええ」

「うん」

「では、いただきます」

「「「いただきます」」」


アデーラもこの挨拶は知っていたようだ。


「んー?」


ユウキが早速フォークを逆手持ちにして、

やりづらそうにしている。


「こう持つんだ?」

「こう?」

「少し違うな、こういう形だ」


手を触って形作る。

男爵に教えられたやり方だ。


「このままフォークで肉を抑えて、ナイフで切る」

「おー!」

「ほら切れた」


一人で食べるのなら、

効率を求めてかぶりつくのもいい。

だが人と食べるのならば、

その後の人間関係や名声を鑑みて、

効率度外視の作法こそがもっとも効率がいい。

男爵の受け売りを言おうと思ったが、

この年齢の子には分からないだろう。


「んまんま」

「噛んだまま喋るんじゃない…さて」


私も頂こうか。


「あむ」


見た目通り、いやそれ以上に美味い。

これもこの世界の技術の賜物だろうか。

白い穀物とよく合う。

付け合せの野菜も新鮮そのものだ。


『ジー』


何故だかユウキにすごく見られている。


「シルファンの方が大きい…」


ハンバーグの大きさか。


「…いるか?」

「ダメです!せめて野菜を食べ終わってから」

「だそうだ」

「けちー」


ユウキは頑張って野菜を口に

近付けようとしてはいるが、

なかなか食べられずにいる。


「野菜は肉と一緒に食べると味が紛れるよ」


アデーラがアドバイスした。


「わかった」


肉と人参を共にフォークに刺す。


「あー…あうあ、んあ…んぐ」


口に入れる。


「ん…ん…んぐ」


飲み込んだ。


「偉いぞ」


頭を撫でる。


「えへへ」

『じー』


今度はメグミ殿に見つめられる。


「な、なにか…?」

「いーえ、シルファンさんの言うことは

よく聞くなあと」

「はは…」


何も言い返せない。

実際以上に慕われてはいる。

気に入った本の中の主人公という理由で。

メグミには申し訳なく思う。

まあ幼気な少年は冒険に憧れるもの。

きっとそういう部分を刺激してしまったのだろう。


「あ…」


ユウキが寂しげに皿を見つめている。

野菜がなくなったと同時に肉も無くなったのだ。

穀物だけが残っている。

メグミに目配せし、許可が出る。


「あげるよ」

「いいの!?」

「ああ」

「シルファンさんにお礼言いなさいよ」

「ありがとう!」


元気に食べだした。


「いっぱい食べて大きくなるんだぞ」

「うん!」


勢い余ってまた逆手になっている。


「フォークの持ち方は?」

「えと…こう!」

「よくできたな」

「へへ」



「ん…」


もうすぐ食べ終わるかというところで、

眠気まなことなっている。


「眠いか?」

「んーん…」


最後の一欠片を噛みながら否定したが、流石に。

食べ終わったメグミ殿に目配せをする。


「ごちそうさまでした」

「「ごちそうさまでした」」

「た…」


メグミ殿がユウキに近づき脇を抱える。


「食器を台所のシンクに入れて置いてください、

私は寝かしつけに行きます」

「やだ…」

「いい子は寝る時間でしょ?」

「シルファンと…寝る…」


また私。


「わがまま言わないの」

「ねぇーるぅーのぉー」


椅子にしがみついている。


「…お願いできますか?」

「…任せてくれ」



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