「一歩間違えば全員死にますよ!!」
「ようこそ旅人さん。ここはココホレ村だよ」
少しずつ空が赤く染まる夕暮れ時、僕達は炭鉱の近くにあるという村へと到着した。
クナの盾に乗れば空が飛べて楽ちんであり、またクナ自身も制御に慣れてきていたので思った以上に速く着いたのだ。ただ、クナは魔力を多く使いヘトヘトになっているけど……
「あの、ここには炭鉱があると聞いて来たんですけど、見学ってできますか?」
「う~ん……そういうのは今までやった事がないけど、ギルドで聞いてみたらいいんじゃないかな? もしかしたら見せてくれるかもしれないよ」
どうやらこの村にもギルドがあるらしい。まぁ魔物がいるのだからどの村にもあって当然か。ついでに今日のデイリー報酬も受け取らないといけないし、話を聞きに行こう!
「ふふ♪ 今日のマスターはなんだかはしゃいでるわね」
ギルドに向かう途中でアリシアにそう言われた。
「そ、そうでしょうか? まぁ毎日旅を続けながら魔物と戦うだけじゃ疲れてしまいますからね。少しでも興味がある事をやっていかないと!」
僕は元の日本では『旅行』とか『観光』なんて一切興味なんて無かったのだが、この世界にはゲームもネットも存在しない。ならばせめて、ゲームでよくダンジョンとして扱われる炭鉱を見学したいと思ったのだ。
「いいですか皆さん! 炭鉱は結構危険な場所なんです。くれぐれも勝手な行動はとらないようにしてください!」
物知りキャラを気取ってドヤ顔でそう忠告する。みんなは僕に合わせてくれているのか、素直な返事をしてくれていた。
そして僕達はギルドへ到着する。魔物討伐のデイリー報酬を受け取ってから、炭鉱について聞いてみた。
「すみません。この村の近くにある炭鉱って見学できないんですか? よければ見せてほしいんですけど」
「そういうのは今まで行った事はありませんね……もしあなたが炭鉱に入りたいと言うのであれば、クエストを依頼するのも一つの手だと思います」
ふーむ。そういう仕事的な感じじゃないんだよなぁ。ちょっとした体験ツアーというか、色々見せてもらったり話を聞かせてもらったりするだけでいいんだけど……
僕がそう考え込んでいる時だった。
「た。、大変だ! 炭鉱に魔物が現れたんだ! 手を貸してくれ……ぐっ……」
そう声を上げたのは冒険者風の男性だった。
体中ボロボロになっており、自分の従えるガチャ娘に支えられている。そんなガチャ娘もまたかなりの手傷を負っていた。
「な、何ぃ! 数はどれくらいだ!」
「魔物は今どうしてる!? 詳しい状況は!?」
ギルドに滞在していた二人の冒険者が僕よりも早く動き始める。
「俺たちは炭鉱の入り口で、中に魔物が入らないように警備する仕事をしていたんだ。だけど今さっき、突然大量の魔物が押し寄せてきやがった……。必死に炭鉱への侵入を食い止めていたんだが、何匹かすでに炭鉱へと入って行っちまった。俺たちもダメージを受けて追いかけられねぇ。だから援軍が必要なんだ。今ならまだ間に合うはずだ……うぅ……」
炭鉱の中に入った魔物の討伐、および炭鉱夫の救助って事か!? しかし、それはあまりにも危険じゃないか……!?
「これは緊急クエストだな。おいギルド員! 俺はこの依頼受けるぜ!」
「我らも行こう。見過ごすわけにはいかない!」
その場の冒険者二人が意気揚々とそう告げた。
「ご主人、あたしたちも参加しよう!」
「旦那様、準備は大丈夫ですか?」
ルミルやクナも、周りの勢いに流されてそんな事を言っている。
だから僕は――
「待ってください! このクエストはそう簡単じゃありません! 一歩間違えば全員死にますよ!!」
そんな僕の発言に、二人の冒険者もアリシアたちも唖然としていた。
そう、僕は知っている。炭鉱の恐ろしさを……
確かに僕は元の世界ではマンガやゲームばかりで、現代の役立つ知識なんてものはほとんど持っていない。だけど現代の動画サイトには色んなジャンルがアップされており、僕はそこから興味のある動画は色々と見ていた。
その中の一つとしてよく見ていたのが、『危険な場所厳選』とか『史上最悪の事故』だった。そういう怖いもの見たさというか、ドキドキするような動画もまた好んで見ていたりする。
「簡単じゃないって……なんでだよ?」
そう言ったのは燃えるような赤髪で、つり目をした冒険者だった。
「ここの村には今まで炭鉱を見学するような機会はなかったと言います。つまり、今ここには中を案内できる人がいないって事じゃありませんか?」
僕がギルドの受付を見ると、担当は「確かに」と頷いた。
すると冒険者の一人が意見をする。
「でもよ、中に入って真っすぐ行けばいいんじゃね? 魔物を倒しながら進めば作業員を助けられるはずだぜ!」
赤髪の冒険者はそう言った。
「いえ、問題はそこじゃありません。危険なのは魔物よりも、炭鉱の中だという事です。みなさんは炭鉱で気を付けなければならない事を知っていますか?」
僕の問いに、青髪で声が落ち着いた冒険者が答えてくれた。
「えっと……中は発掘をするために穴を掘っている場所だ。魔物と戦う時に大きな振動を与えると天井が崩れてきてしまうという事かな?」
「そもれありますが、こういった場所ではガスが発生して内部に充満する事があるそうです。なので火を使うと一気に大爆発を起こしてしまうんですよ。火のスキルを持っている人は絶対に使ってはいけません!」
「なっ!? それって俺のガチャ娘が得意なスキルじゃねぇか!」
赤髪の冒険者が額を手で覆って上を仰ぐ。でもちゃんと話を聞いてくれるだけまだありがたい方だ。
「さらに今言ったガスもそうですが、内部は粉塵が舞っている可能性が高いです。それらを吸い込まないためにもマスクが必要です。それは支給されているんですか?」
「それならこの村の道具屋で買えるはずだ。あとは明かりかぁ。確か作業員はライト石を使っていたけど、今はあまり在庫がないんだよな……」
どうやら火を使わない明かりにはそのライト石というものを使っているらしい。そう言えば宿屋や僕らの拠点の明かりは電球ではなく、代わりに光る石のような物がケースに入れられていたっけ。
「こんな風に、案内や内部に詳しい人がいないと僕達のような素人だけじゃ危険すぎるんです!」
「……けどよ、だからって助けに行かなかったら作業員は全滅するんだぜ!」
確かにそうだ。クソ、アリシア達と恋仲という関係になったせいか、未知の危険が潜んでいる所が怖くて仕方がない! みんなを一瞬で失うかもしれないのだから……
「とにかく、何はともあれまずは明かりです! それをどうにかしないととても救助になんて……」
「なら俺が道具屋に行ってライト石の在庫を――」
ペカッ!
赤髪の冒険者が動き出そうとした瞬間だった。急にまばゆい光がギルド内に広がって、その光に目が眩む。その光を手にしていたのはなんとアリシアだった
「あ、これって明かりの代わりになるんじゃないかしら? 火を使ってる訳じゃないし」
アリシアが明かりを消す。その手に持っているのはいつも使っている武器だった。
「それって……そうか! 宝刀輝夜ですね!」
宝刀輝夜:刀身が輝き、闇を払う力がある。
最初にこの武器を手に入れた時、どんな効果なのかずっと謎だったけど普通にライトとして使えるのか。というか説明文をすっかり忘れてたよ……
「よっしゃ! それだけ明るいなら行けるっしょ! あとは道具屋でマスクを買えば救助に行けるぜ!」
「で、ですが内部に詳しい人がいないんですよ!? 危険なのは変わっていません!」
すると青髪の冒険者が考え込んでから僕にこう言った。
「ふむ……ならキミが俺達に指示をくれないか? 少なくとも俺たちよりは炭鉱に詳しそうだ」
「ええ!? 僕だってちょっと話を聞いただけなので全然詳しくないですよ!」
「けどよ、このまま放っとく訳にはいかないぜ! 知っている範囲でいいから危険なポイントを教えてくれよ!」
……確かにそうだ。このままダラダラと手をこまねいていたら手遅れになる。ここはもうやるしかないんだ!
「分かりました。僕も出来る限り協力するのでみんなで頑張りましょう!」
「よっしゃあ! 俺はロレッド! よろしくな!」
「オレはブルーノだ。何か気になる事があったら遠慮なく忠告してくれ」
そうして、僕達は簡易的に協力する形で炭鉱へと向かう事になるのだった。




