「ちなみに単縦陣はゲームにおいて砲雷撃戦で火力が一番高くなる陣形です」
「マスター、次はどこへ行くの?」
朝食を取ったあと、僕はアリシアからそんな問いを投げかけられる。
地下に作られた大きなシェルター。迷宮も兼ねているため地下ダンジョンと呼ぶ方がふさわしいこの拠点を譲ってもらって一日が過ぎていた。
「今日はノビリン村から北西の村へ行ってみようかと思ってます。そこにも一つの村があって、そこではなんと、炭鉱があるらしいんです!」
実はスライムと戦った後、アリシアがずっと眠っていた時に近くの街の情報を集めておいたのだ。
けれどそんな僕の話を聞いても、みんなは「ふ~ん……」と味気ない返事をするだけだった……
「あの、旦那様。タンコウとはなんなのですか?」
クナにそう聞かれて、僕は一瞬言葉を失ってしまった。
僕もネットの情報でしか見た事がないので、詳しく説明するだけの知識は持ち合わせていない……
「炭鉱はですねぇ、えっと……石炭とかを採掘する場所の事ですよ」
石炭だけではないけど、他は忘れてしまったのでとりあえずそう答えておく……
「ふ~ん……じゃあセキタンってなんのよ?」
今度はルミルにそう聞かれる。
なんだっけ……ちゃんと説明しろと言われたら僕も詳しくないかもしれない……
「石炭は……なんかこう、黒くて硬い石みたいなやつですよ。窯にくべたりして火をつけるのに使うんです」
「でも火をつけたいなら薪でいいじゃない。なんでその石炭ってのを使うのかしら?」
今度はアリシアはそう聞いてくる。
「えっと、それは……」
「そもそも石なのになんで火が付くの? メラメラ燃えるの?」
再びルミルが質問してくる……
「いや、メラメラって感じではないんですが、なんて言うか……」
「セキタンを採掘という事は埋まっているのですか? なぜ埋まっているのでしょう……?」
「他に使い道はないの? 石なら建築とかにも使うんじゃないかしら?」
クナとアリシアも次々と口を開く。
そんな質問攻めに僕の頭は限界を迎えた!
「いや知りませんよ! 悪かったですね無知で! 大体僕が物知りなら異世界転生らしく元の世界の知識を利用してこの世界の文明レベルを上げる発明で無双してますから! 僕にはせいぜいゲームで培った知識しかないんですよ!」
「だ、旦那様、落ち着いてください!」
「ご主人ゴメンて! 別に無知だなんて思ってないから!」
みんなが慌てふためく姿を見て、ハッとするように冷静になる。
なんだか責められてる気がしてパニクってしまった……
「おほん! まぁつまり、石炭を良く知るためにも見学に行きたいと思ったんです」
なるほど~、とみんなは納得してくれた。
そうして僕達は朝食を取った後に炭鉱のある村へと向かおうと拠点を出る事にした。
……そしてそのワープ装置の前。もとい、壁に埋め込まれた魔石の前……
「あたしさ、ずっと思ってたんだけど、このワープって外にあるリングの位置にワープするじゃない? もしも鳥が咥えて飛んでたら、あたしたちも空に出現すんの?」
「……」
た、確かに! 枝に引っかけてあるリングが鳥に持っていかれたらどうなるんだ!?
ヤバいんじゃなかろうか!?
「わ、私が最初に確認してみます! 私なら空に出現してもマスターシールドで浮遊できますから。私が戻ってこなかったら出現先は危険だと思ってください!」
「うぅ……クナ、気を付けるのよ?」
ビビっているアリシアに頷いてから、クナは恐る恐る宝玉に触れる。そして転送先へとワープしていった。
みんなが固唾を呑んで見守るが、クナは中々戻ってこない。僕達は顔を見合わせて焦り始めるころ、やっとクナが戻ってきた。
「クナさん、大丈夫でしたか!? 少し遅くて心配しましたよ!」
「も、申し訳ありません旦那様、転送先は大丈夫だったのですが、ショウ様からのお手紙が括り付けられていて、それを確認していたら遅くなってしまいました」
そう言ってショウさんからの手紙を渡してきた。それにはこう書いてあった。
『ここの拠点は結構テキトーに作ったからよ、この転送装置も動けばいいと思って雑な仕様だったんだ。お前に譲るんならちゃんと安全も考えた仕様にしとこうと思って改良しておいたぜ。ま、うまく使ってくれや』
「……ワープの仕様が変わったんですか?」
「はい。一度みなさんで試してみましょう」
クナがそう言うので僕達はワープを使って外に出た。
その場所は数日前に使った場所で、クサフカヒの街の近くの木の下だった。
「ショウ様が改良したワープは、ガチャ娘が魔力を込めて初めて使えるように変更されたみたいですね。私がもう一度使ってみますね」
クナが自分の指にはめた指輪を見せてそう言った。その指輪が新たなワープ装置の起動に必要なアイテムなのだろう。
そしてクナが魔力を注ぐと、指輪は仄かに光り出す。
「まだ調整が難しいんですが……これくらいでしょうか……」
指輪に込める魔力を頑張って見定めるクナ。すると指輪から僕達全員を包む光が円形に広がった。
四人全員が光に覆われると次の瞬間に景色が変わり、僕達は元の拠点に戻っていた。
「なるほどね。ワープのカギとなる指輪は持ち運びできて、使う者を中心として複数を同時に転送できるんだ。これなら魔物が間違って入り込んだりしないから便利だね」
ルミルが納得しながらそう言った。
続いてアリシアが提案をする。
「それじゃあその指輪はクナが持ってたらいいんじゃないかしら? ほら、クナって移動力があるから丁度よさそうだし」
確かにそうかもしれない。
そんな訳で指輪はクナが常に装着する事になった。
「出る時は普通に出ればいいんでしょうか?」
僕が拠点の宝玉に触れると、指輪を使ったクサフカヒの街の近くの木の下へと瞬時に移動できた。
どうやら指輪を使った場所を記憶してそこへ出現するようだ。
「これで拠点へすぐに帰還できるようになったわね。それじゃあマスターが言ってた炭鉱の村に向かいましょ」
「クナ~、盾に乗せてよ。あれ楽しそう!」
「わ、分かりました~。盾を四つ出しますね」
僕達はクナが出現させたマスターシールドにそれぞれ乗っかった。
その盾は宙にフヨフヨと浮かびながら、ゆっくりと前に進んでいく。
「おお~! 楽ちん楽ちん。クナ、前方に木がそびえ立ってるよ! 回避行動を取りたまえ! 面舵いっぱ~い!」
まるで船長になった気分で楽しそうに指示を出すルミル。それとは逆にクナはてんやわんやしていた。
「あわわ……ルミル様の盾はサードシールドだから……魔力をこうして……」
「ク、クナ? 私の盾が進路を変えてるんだけど操作間違ってない?」
「んぎゃ~~!! 木にぶつかる~~!!」
どうやら四つ同時に操作するのは難しいらしく、あっちこっちにぶつけながら低空飛行の航海を続けていた……
「あ、あの、せめて盾の数を半分にしませんか? ルミル様とアリシア様で一つの盾に乗り、私と旦那様がもう一つの盾に乗りますから。ポッ♪」
そう言った瞬間、ルミルとアリシアの視線がクナを貫く。その目は決して笑っていなかった……
「ダメよクナ。これは言わば修行なの。私達ガチャ娘は魔力を扱えるようにならなくちゃいけないんだから、この行為は必要なのよ? それがわからないの?」
「あ、いえ、そ、そうですね、はい……」
いつも優しいアリシアだがこの時だけは声のトーンが低かった気がする……
「ほら、陣形が崩れてきてるよ! 次は単横陣から単縦陣に切り替えて! 出来るだけスムーズで速やかに! 次は梯形陣行くよ!」
ルミルもスパルタで指示を出しまくる。そんな修行にクナはもはや無駄口が叩けないほどヒィヒィ言わされていた……
というか、そんな陣形の名称をどこで覚えたんだ……
「みなさんぶつかった時に指を挟まないように気を付けてくださいね。ちなみに単縦陣はゲームにおいて砲雷撃戦で火力が一番高くなる陣形です。水上艦との戦闘で一気に殲滅したい時に使いたい陣形ですね。単横陣は――」
僕は安全を呼びかけながらゲームで得た知識を披露するという係を担う事にした。
うん、安全確認は大切な事だからね。前方確認、指差呼称ヨシ!
ルミルが盾の取っ手を掴まないで、仁王立ちしてるけどカッコいいからヨシ!
アリシアも蝶々に手を伸ばしてフラフラしてるけど身体能力を考えたら大丈夫なのでヨシ!
こんな風に危険予知を完璧に行いながら僕達は進んでいく。そうしてノビリン村からさらに北西にある炭鉱の村へと向かうのだった。




